独立社外取締役メッセージ

最終更新日:2022年1月12日

独立社外取締役

伊藤 邦雄

一橋大学CFO教育研究センター長。一橋大学名誉教授。中央大学大学院戦略経営研究科特任教授。専門は会計学、マーケティング・ブランディングを含む経営学、コーポレートガバナンス論、企業価値経営論、ESG(環境・社会・ガバナンス)等。2014年に経済産業省のプロジェクトでいわゆる「伊藤レポート」を発表した。 2019年5月27日に設立された「TCFDコンソーシアム」会長。2014年5月より当社社外取締役。

  • 2023年1月4日現在、筆頭独立社外取締役、指名委員会委員長および報酬委員会委員

新中期経営計画は、多くの議論を通して、ホールディングスの本来の役割とは何かを問うた結果。
グループの方向感を明示したものです。

ステークホルダーに納得感、期待感を持ってもらえる経営戦略を

セブン&アイ・ホールディングスは、このたび、新中期経営計画(以下、新中計)を発表し、新たなスタートを切りました。新中計の策定にあたっては、取締役会でも非常に多くの時間を費やし議論を行いました。議論の出発点は、前中計の成果と課題に対する厳しい認識から始まりました。その中でも、前中計で掲げていたグループシナジーの創出については課題を残したのではないかと指摘しました。シナジーとはよく使われる言葉ですが、事業会社それぞれのビジネスモデルの組み合わせによってどのようなシナジーを具体的に実現するのか、株主を含めたステークホルダーが十分な納得感と期待感が持てるものを示さなくてはなりません。また、ビジネス環境が大きく変化し、加えて、コロナ禍で消費者の行動パターンも著しく変化している中、変化をしっかりと捉えて自らのビジネスモデルを描いていかなければいけません。新中計ではグループ横断のDX・金融戦略を明確に打ち出し、各事業会社を横串でつなぐ戦略でシナジーを作り上げていくことを目指しています。社会の変化に対応する重点施策として掲げた「ラストワンマイルへの挑戦」も簡単に実現できるものではありませんが、DXや金融システムの構築により、グループ全体で顧客価値の高いビジネスモデルを生み出してほしいと考えています。

そして、事業ポートフォリオに関しても、様々な観点から議論を行いましたが、構造改革の推進にはホールディングスが各事業会社に対して大きな方向性を示し、しかるべき成長のサポートをし、ベストオーナーとなる努力をすることが前提です。新中計は、こうした様々な観点からの議論を通して、事業会社にとってホールディングスの本来の役割とは何かをあらためて見つめ直した結果であり、グループの大きな方向感を明示したものとなっています。

リアルの強みを最大限に活かし、世界トップクラスのグローバル流通グループへ

今後は、海外での事業展開がグループの成長戦略の大きな要となります。さまざまな国、市場に出ていく際に、ブランド毀損が生じないよう、セブン‐イレブン・ジャパン(以下、SEJ)のビジネスモデルを原型に7‐Eleven, Inc.の良いところを取り入れた一貫性のあるシステムでブランド構築をしていこうと意見しました。また、セブン&アイグループは、セブンプレミアムという良質な商品の開発に力を注ぎ、たくさんの消費者に認知され、「食」の充実に貢献してきました。それらを全国どこでもお求めいただけるようにする一方で、地域に密着したものやテーストを加える、つまり良質の均一性の中にローカル色を取り入れていく方向も必要となってくるでしょう。

また、小売・流通業におけるリアルな顧客接点をもつ強みとは何なのか。商品を手に取れる、買い物がしやすいなどの要素もありますが、お客様は本当にそれだけを期待しているのか。実は人と人とのやり取りにこそ、リアルな顧客接点をもつ本質があるように感じています。店舗で働く皆さんがリアルの良さをどう実現していくのか、そこは今後も引き続き、議論していくポイントになると思います。

環境、社会の側面からも「目指すべき姿」を描き、全うしていきたい

ESGに関する議論も充実してきました。中でも環境課題に関しては、すでに消費者のマインドが変わってきていますから、企業側も当然、変わるべきでしょう。セブン&アイグループは環境に対して真摯な姿勢で、やるべきことをやっている企業であると消費者に認知していただき、顧客体験価値の向上につなげていくことが重要です。

また、人財戦略については、2020年、従業員エンゲージメント調査を実施し、その結果を受け止めて、エンゲージメントの向上を図るべく各社で取り組みを始めています。今のSEJの強みは、非常に堅固なビジネスモデル、言い換えれば、オペレーショナル・エクセレンスの徹底にあります。そこに加え、働く皆さんのやりがい、働きがいを高めていくことはもう一つの大きな強みとなると思います。

常にブレーキとアクセルの両面の機能をもって、経営を監督していく

「執行と監督の分離」において、社外取締役の役目は監督であるといわれます。監督という言葉にはブレーキ役というニュアンスがつきまといますが、私はそれだけではないと思っています。企業が取るべきリスクをとって成長するために背中を押すことも監督において重要です。

また、当社の取締役会では、議論と対話が非常に活発化しています。社内取締役と社外取締役はそもそも見ている風景も、立場も違います。会話とは、共通の価値観をベースに行うものですが、対話とはものの見方や観点が異なる人同士が議論することを指します。議論の過程で、社内と社外の認識の違いに気づいたとすると、その違いがどこからきたのかを探り、それをどう埋めるか探求していく、当社の取締役会ではそのような動的な対話が実現していると思います。

独立社外取締役

米村 敏朗

1974年に警察庁に入庁し、2008年に警視総監、2011年からは内閣危機管理監、内閣官房参与、2015年12月からは、公益財団法人東京オリンピック・パラリンピック競技大会組織委員会チーフ・セキュリティ・オフィサーを歴任。組織マネジメント、リスクマネジメント等に関する幅広く高度な知見・経験をもつ。2014年5月より当社社外取締役。

  • 2023年1月4日現在、報酬委員会委員長および指名委員会委員

経営計画とは、攻めるためのもの。
「想像と準備」をしっかりと繰り返し、リスクを見極めてグローバルへ向かう

的確に情報収集を行い、「見える形」の議論を展開

企業が経営戦略を考えていく上では、今後の事業環境や社会の変化を想像し、それに対する準備を行いながら経営計画を練っていく、「想像と準備」のプロセスが非常に大切です。この「想像」とは、単に観念的、抽象的なものではありません。想像の根拠となる情報収集を綿密に行い、それに基づき、どのような準備と計画が必要なのか、「見える形」で議論を行うことが重要と考えています。セブン&アイ・ホールディングスの取締役会、経営意見交換会では、年々、この「見える形」の議論が活発になってきており、新中期経営計画(以下、新中計)の策定にあたっても多様な観点から議論が行われてきました。

新中計では、コンビニエンスストア事業を核としたグローバル展開が成長戦略の中心になっています。経営計画とは進化、成長のためのプランですが、こうした「攻め」を成功に導くには、やはりしっかりと情報収集し、「想像と準備」をすることが大切です。海外の市場特性は地域によって大きく異なりますから、国際情勢やマーケット、国民性などに関する情報収集と準備を徹底するべきでしょう。

加えて、もう一つ、ポストコロナの社会を的確に捉えていかなければなりません。これまでの歴史においても、パンデミックの後には生活、働き方、社会、経済活動などあらゆる面で以前とは異なる新たなスタイルが普及してきました。ポストコロナの世界の中で、セブン&アイグループはどういう存在になるべきなのか。デジタル技術やAIなどの普及が進む中でも、日本的、人間的な温かさを残した形で多様なお客様との接点をもつ強みをさらに進化させ、グローバルに成長してもらいたいと思います。