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CEOメッセージ

代表取締役社長 最高経営責任者(CEO) 井阪 隆一の写真

「食」を中心とした
世界トップクラスのリテールグループへ。

代表取締役社長
最高経営責任者(CEO)
井阪 隆一

1980年に(株)セブン-イレブン・ジャパン入社。2002年に同社取締役、2006年に同社常務執行役員に就任。商品本部長兼食品部長を経て、2009年に同社代表取締役社長に就任。2016年5月より、(株)セブン&アイ・ホールディングス代表取締役社長。

Q1:2023年3月にグループ戦略の再評価を行い、中期経営計画をアップデートしました。
その過程や背景を教えてください。

ステークホルダーの皆様との対話に基づき、持続的な企業価値向上に向けて事業ポートフォリオ改革を推進

 まずはこれまでの改革の経緯についてお話ししたいと思います。
当社は以前から、多様なステークホルダーの皆様との対話を重ね、そのなかで得られた課題やニーズを踏まえ、持続的な企業価値向上に向けた経営戦略を策定し、着実に実行することを基本方針としています。この方針のもと、海外コンビニエンスストア(以下、CVS)事業において2018年以降、SunocoやSpeedwayの買収を実行してグローバル成長の大きな足掛かりとしました。一方、国内においては、CVS事業をさらなる成長軌道に乗せるべく、個店ごと・立地ごとのきめ細かな対応を強化するとともに、加盟店との対話を通じて関係を強化するなど、より質を重視した成長を志向しながら、グループとして事業の選択と集中を通じた事業ポートフォリオ改革を進めてきました。

事業ポートフォリオ改革の取り組み
事業ポートフォリオ改革の取り組みの図

 これらの取り組みを踏まえ、2021年7月、2030年にグループが目指す姿として、「セブン-イレブン事業を核としたグローバル成長戦略と、テクノロジーの積極活用を通じて流通革新を主導する世界トップクラスのグローバル流通グループ」と定めました。また、そこからバックキャストするかたちで、2025年度を最終年度とする「中期経営計画2021-2025」( 以下、中期経営計画)を策定しました。
 中期経営計画の2年目となる2022年度は、世界的なパンデミックを経てお客様の行動・価値観の変化が見られたほか、ウクライナ情勢に伴うサプライチェーンの混乱など、複雑な経営環境ではありましたが、Speedwayとの統合効果が想定以上に発現し、海外CVS事業のEBITDAは前期比で166.9%と大きく伸長しました。この海外CVS事業の成長に国内CVS事業の好調が重なり、2022年度の連結業績は営業利益と当期純利益がともに過去最高を達成、営業収益は11兆8,113億円(前期比135.0%)と、日本の小売業として初めて10兆円を突破しました。
 こうした業績を達成する一方で、この数年間、当社グループを取り巻く環境は、エネルギー価格や原材料費の高騰、人件費の継続的な上昇など大きく変化し続けています。我々が目指す姿に到達するためには、さらに改革のスピードを上げていく必要があると感じていました。
 そこで、2022年の定時株主総会においてトランスフォームした新たな取締役会・ガバナンス体制の下、事業セグメントごとの成長性・効率性を踏まえながら、当社グループの企業価値向上に資する戦略的取り組みについてのさまざまな検討、すなわちグループ戦略の再評価を実施することとしました。

「食」の強みを生み出すサプライチェーンを構築することが成長の鍵

 グループ戦略再評価にあたっては、2022年5月に選任された6名の社外取締役にも加わっていただくほか、プロセスの公正性を担保するため独立した外部アドバイザーを起用しました。社外取締役が過半数を占める取締役会においては、あらゆる可能性を排除せず、事業セグメントごとにIPOやスピンオフなどの戦略的選択肢や抜本的なグループ事業構造改革について議論を重ねました。
 取締役会では、時に厳しい指摘もあり、熱い議論を交わしましたが、この議論のなかで再確認したことは、「食」分野こそが当社グループの強みであるということです。「食」の強さは国内CVS事業の集客力につながっており、高い日販を実現しているだけではなく、高い収益性にもつながっています。また、海外CVS事業においても、国内同様、フレッシュフードやプライベートブランド(以下、PB)食品を含めたオリジナル商品の売上構成比と集客力には強い相関関係が示されています。

事業構造の変容
事業構造の変容の図
  1. ※1 各セグメントの割合は、消去および全社を除く営業収益およびEBITDAに占める割合
  2. ※2 CVS:コンビニエンスストア
  3. ※3 EBITDAは各セグメント営業利益+減価償却費+のれん償却費として計算

 このような議論を経て、我々は、中期経営計画の策定時に定めた2030年に目指すグループ像について、「食」という要素により一層フォーカスし、「セブン- イレブン事業を核としたグローバル成長戦略と、テクノロジーの積極活用を通じて流通革新を主導する、『食』を中心とした世界トップクラスのリテールグループ」に変更しました。
我々が「食」を強みとする背景には、当社グループが長年にわたり構築してきたバリューチェーンや共通インフラ、ブランド力、ストアロイヤルティなど、有形無形の多様な資本があると考えています。
 なかでも、スーパーストア(以下、SST)事業は「食」の強みを生み出す大きな力となっています。SST事業はCVS事業にはない品揃えの幅があり、生鮮食品から加工食品まで幅広いサプライヤーとのネットワークを構築するなど、優れた商品調達力を有しています。2007年から展開しているグループのPB商品「セブンプレミアム」は、この商品調達力をベースに、当社グループの店舗でのお客様との接点を活かしたマーケティング情報を重ね合わせて、多岐にわたる商品開発を行っています。また、フレッシュフードをはじめとするオリジナル商品などは、さまざまなお取引先様とチームを組み、各分野の高い技術と知識を結集して品質・安全性・おいしさにこだわった商品開発をするチームマーチャンダイジングにより、差別化されたおいしさや品揃えを実現しています。
 CVS事業においても、その成長は単に店舗数を増やしていくだけではなく、先に述べたような「食」の強みを生み出すサプライチェーンを構築することが成長の鍵となっています。実際、当社の国内CVS事業における全都道府県展開は他社に比べて最も遅かったのですが、しっかりとしたサプライチェーンを構築してから進出したことにより、「食」の分野で強みを発揮し、各地域でお客様のご支持をいただいています。このように、サプライチェーンの構築と店舗展開を一体的に進める戦略が、世界市場においても他社の追随を許さない優位性の確保につながるものと確信しています。

「食」を軸とした国内外CVS事業の成長戦略
「食」を軸とした国内外CVS事業の成長戦略の図
  1. ※1 SM:スーパーマーケット ※2 PC:プロセスセンター ※3 CK:セントラルキッチン ※4 FF:ファスト・フード

Q2:中期経営計画の達成に向けたアクションプランも発表しました。ポイントを聞かせてください。

国内外CVS事業の着実な推進とSST事業の抜本的な変革を一層加速

 2023年度に入り、国内では新型コロナウイルス感染症の5類移行などで人流が戻りつつある一方、エネルギーコストの継続的な上昇に加え、実質可処分所得の減少などによる消費マインドの低下を懸念しています。米国では、ガソリン価格が低下し消費マインドが回復する期待はあるものの、下期にかけて米国経済のリセッションが起きるとの見方もあり、予断を許さない状況です。これらを勘案すると、 2023年度は引き続き極めて厳しい経営環境下での運営を強いられると認識しています。
 そのようななかでも、国内CVS事業の利益水準は計画通りに推移しており、北米CVS事業はSpeedway統合効果と荒利率の高いオリジ ナル商品の強化により利益水準が大幅に伸長しています。これら国内外CVS事業が牽引役となり、 EBITDAとフリーキャッシュフローが想定以上に伸びています。これら利益の拡大もグループの「食」の強みが背景にあるものと考えています。
 一方、SST事業については、2023年3月に、自主開発のアパレル事業からの撤退や、首都圏エリアにフォーカスしたグループ企業の統合再編などの抜本的な事業変革を行うことを宣言しましたが、これについては、社外取締役のみで構成された戦略委員会と取締役会がモニタリングをしながら、3年間の時限を設けて着実に進めてまいります。
 このように、国内外CVS事業の実績に基づく確かな手応えがあること、そしてSST事業の抜本的な事業変革を断行するという不退転の覚悟を示す意味も含めて、2023年3月には、2025年度目標の上方修正を実施しました。
 この目標達成に向けて、我々は2023年度を「食」を中心とした世界トップクラスのリテールグループへと成長していくための基礎固めの年と位置づけています。国内では高齢化、単身世帯の増加、働く女性の増加などの社会構造の変化が続いていますが、これに加えて世界的なパンデミックを経て人々の働き方や行動にも変化が生じたことで、自宅近くでの生鮮食品・惣菜等の購買ニーズがさらに高まっています。さらに、安全・安心、健康に対するニーズも強まっています。これら変化によって、日常の「食」を提供する国内外CVS事業やSST事業の強みを発揮できる大きなチャンスが生まれていると見ています。

中長期的な成長に向けたキャピタル・リアロケーションプランを策定

 グループ戦略再評価では、キャピタル・リアロケーションに関しても明確な指針を打ち出しています。
 これまで積み上げてきた国内外CVS事業を中心とした営業キャッシュフローを引き続き高めながら、重点構造改革分野における抜本的な変革を通じて資本回収に努めていくことが重要です。また、創出されたキャッシュフローに関しては、中長期的な成長に向けて資本効率性に立脚した投資判断を行いつつ、グループの成長ドライバーとなる海外CVS事業への戦略投資に集中的に配分してまいります。なお、SST事業の投資にあたっては、SST事業内で創出したキャッシュフローを充て、CVS事業のキャッシュフローをSST事業へ配分することは想定していません。
 自己株式取得を含む株主還元に関しては、ROEやEPS向上に向けて機動的に実施していくことを想定しており、2023年度から2025年度までの累計の総還元性向を50%以上とすることを目指しています。

2025年の業績目標(上方修正後)
2025年の業績目標(上方修正後)の図
2025年の業績目標(上方修正後)
2025年の業績目標(上方修正後)の図

Q3:2023年の定時株主総会では、一部の株主から株主提案がなされました。今回の結果をどう受け止めていますか。

長期的な価値創造に向けた対話を強化し、株主・投資家とのさらなる信頼関係を構築

 今回いただいた株主提案の背景には、一部事業のグループからの切り離し要請がありました。先に述べたように、当社グループの競争力の源泉は「食」にあり、長期的な価値の創造には、SST事業を含む当社グループが培ってきた「食」の分野における調達および商品開発に関わる知見やノウハウなどが大きな役割を担います。
 そのため、拙速に一部事業を切り離すことは、企業価値の最大化を阻害する可能性があり、ひいては株主利益の毀損を招くおそれがあると考えています。
 具体的な争点となった取締役選任議案については、会社提案が株主提案を大きく上回る支持をいただくことができました。ただし、会社提案に対する反対も一定数あったことは真摯に受け止めています。当社は以前から、あらゆるステークホルダーから信頼される誠実な企業でありたいという社是を掲げ、ステークホルダーの皆様との対話を大切にしてきましたが、今年の株主総会は、特に投資家の皆様との対話の在り方を改めて考えさせられる機会となりました。当社の具体的な未来の姿について、取締役会では相当議論したものの、投資家の皆様には十分お伝えできていなかったという反省点に立ち、今後は、可能な限り当社の未来の姿をロードマップやエビデンスを添えてより具体的に議論していきたいと考えています。
 今後は、「IR Day」などを積極的に開催し、私が率先して課題意識や将来像を語ると同時に、各事業の統括責任者やコーポレート機能の最高責任者(CxO)が具体的な戦略を説明するなど、IR・SR活動の拡充やIR・SR組織の強化も含め意思疎通の在り方を改善していきたいと考えています。

Q4:長期的な価値創造を重んじるセブン&アイグループの「サステナビリティ」に対する取り組みを教えてください。

重点課題と人的資本経営への取り組みを強化

代表取締役社長 最高経営責任者(CEO) 井阪 隆一の写真

 当社グループは、事業を通じて持続可能な社会を実現していくために、ステークホルダーの皆様との対話を通じて、SDGsの17のゴールにも紐づいた7つの重点課題(マテリアリティ)を特定し、さまざまな取り組みを推進しています。
 これら重点課題に取り組むことは、「世界トップクラスのリテールグループ」として経営の質を高めていくための責務であると同時に、社会課題の解決を通じて社会からの信頼や成長の機会を創出していくことにも通じていると考えています。
 例えば、当社グル ープでは2019年に環境宣言『GREEN CHALLENGE 2050』を公表し、「脱炭素社会」「循環経済社会」「自然共生社会」を当社グループが目指すべき社会の姿として掲げ、CO2排出量の削減、プラスチック対策、食品ロス・食品リサイクル対策、持続可能な調達に関わる2030年の目標、 2050年の目指す姿として公表しています。プラスチック対策では、PETボトルを店頭で回収すると同時に、100%再生PETボトルの飲料を販売しています。このような取り組みは、多くのお客様と日々接する小売業ならではの活動であり、小さなアクションの積み重ねが大きな社会課題を解決していくという在り方は、長期的に当社グループへの事業理解や信頼・期待感の向上につながっていくと考えています。
 また、当社グループは「食」の強みを発揮するバリューチェーンのサステナビリティを確保するために、「セブン&アイグループ人権方針」や「セブン&アイグループお取引先サステナブル行動指針」の策定、 CSR監査などを通じた人権デュー・ディリジェンスを実施しています。

 これら経営の質を高める活動と同時に、ここ数年、我々経営陣が特に力を注いでいることがあります。それは、従業員のエンゲージメント向上に対する取り組みです。これまでお話ししてきたように、当社グループは今、大きな変革のただなかにあります。変革を成し遂げるためには、グループ従業員の「もっと成長したい」「前向きに挑戦したい」という声に応える施策を打ち出し、一丸となって目標に向かっていく必要があります。しかしながら、グループの変革が進むなかで、「この会社はどうなっていくのだろう」と不安を抱く従業員もいることは事実です。私はこのような時こそ、従業員を力づけるインナーコミュニケーションが重要と考えており、グループ戦略再評価の結果を公表した後には、抜本的な事業変革を行うこととしたSST事業については、すぐに従業員向けの説明会を開催しました。もちろん、それだけで不安が払拭されるわけではないですが、直接的なコミュニケーションを継続するとともに、具体的な施策と行動を目に見える成果として従業員に示していくことがエンゲージメントにつながり、グループとしての成長につながると考えています。そうした成果を従業員一人ひとりの力を結集して導き出すことこそが経営者の最も重要な使命であることを改めて心に刻みながら、経営の舵をとってまいります。

Q5:ステークホルダーへのメッセージをお願いします。

信頼・誠実の社是を礎として、持続的な成長を果たしていく

 繰り返しになりますが、当社グループは、あらゆるステークホルダーから信頼される誠実な企業でありたいという社是を掲げてまいりました。この社是は、時代や環境が変わっても決して変わることはなく、これからもステークホルダーの皆様との対話を丁寧に重ねながら持続的な成長を果たしてまいります。
 足もとでは、世界的なパンデミックや紛争の影響もあり、変化が激しく先行きが不透明な環境が続くものと考えていますが、中期経営計画を着実に達成し、「食」を中心とした世界トップクラスのリテールグループとなることで、国内外の地域社会に貢献し続けてまいります。
 皆様におかれましては、引き続き、当社グループへのご理解とご支援を賜りますよう、よろしくお願い申し上げます。