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国内コンビニエンスストア事業の戦略(シナリオ分析)

事業会社:セブン-イレブン・ジャパン

 セブン&アイ HLDGS.は、2019年10月に環境省の「TCFD に沿った気候リスク・機会のシナリオ分析支援事業」に参加。グループの営業利益の約6割を占める(2019 年時点)セブン‐イレブン・ジャパンの国内店舗運営を対象に分析を実施し、2020年6月に結果を初めてウェブサイトで開示しました。さらに、2021 年度、それまでの分析に加え、実質的な対応策の立案やリスク・機会の定量化で分析を深化しました。

シナリオ分析の前提条件

  • シナリオ分析の前提(2021年度)
    シナリオ 脱炭素シナリオ(1.5℃~2℃)・ 温暖化進行シナリオ(2.7℃~4℃)
    対象事業 セブン‐イレブン・ジャパンの国内店舗運営
    分析手法 店舗が直接受ける物理的な影響に加え、店舗運営に伴って発生するコスト、店舗運営に大きな影響を与える商品のサプライチェーン(原材料・商品を製造する工場・商品の配送)やお客様の行動変容について分析
    対象年 2030年時点の影響

 本分析では、1.5℃目標が世界的に主流になっていることを踏まえ、1.5℃目標に対応した分析を実施しました。 具体的には、IEA「World Energy Outlook」で示されている STEPS ※1、SDS※2、NZE2050※3などのシナリオをはじめとして、政府や国際機関が発行した将来予測に関するレポートなどを参考に、「脱炭素シナリオ(1.5℃~2℃)」と、「温暖化進行シナリオ(2.7℃~4℃)」の2つのシナリオを設定。2030年時点の影響を分析しています。

    • ※1  STEPS:公表政策シナリオ(Stated Policies Scenario)。これまでに公表された脱炭素政策や目標が反映されているシナリオ。
    • ※2  SDS:持続可能開発シナリオ(Sustainable Development Scenario)。パリ協定で目標とされている2℃シナリオの達成に向けてクリーン・エネルギー政策や投資が増え、エネルギー供給システムは持続可能な開発目標の達成に向けて、順調に進展することを想定するシナリオ。
    • ※3  NZE2050:50年実質排出量ゼロシナリオ(Net Zero Emissions by 2050)。パリ協定の目標を上回る1.5℃シナリオにあたり、2050年以前に排出量ゼロをめざすシナリオ。

シナリオ分析体制

 本分析では、実質的な対応策の立案や正確な事業インパクトの定量化を目指して、セブン‐イレブン・ジャパン社内に取締役を責任者とするプロジェクトを発足し、気候変動に関わる10部門が参加。各部門でリスク・機会や対応策を議論したことで、実態に即した分析ができ、気候変動への対応力向上につながりました。

  • 体制図(各部門長をはじめ実務担当者が参加)

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重要なリスク・機会および対応策について

 TCFD提言で示された各リスク・機会の項目、SASBなどの国際的な基準を参考に、セブン‐イレブン・ジャパンの事業に影響を与えるリスク・機会を各部門で具体的に議論し、合計約160のリスク・機会があがりました。これらリスク・機会が、売上・利益などの財務面、店舗運営・商品調達などの戦略面に与える影響の大きさを検討。重要なリスク・機会の項目として、「各国の炭素排出目標/政策(炭素価格の導入を含む)」「消費者の嗜好変化」「異常気象の深刻化・増加等」「降水・気象パターンの変化」を抽出し、それらが事業に与えるインパクトを定性・定量で評価し、対応策を立案しました。
 対応策については、リスクを低減し、機会を拡大するために、各部門で議論を重ね、約50の対応策に整理。この議論を通じて、脱炭素シナリオ、温暖化進行シナリオともに、『GREEN CHALLENGE 2050』に基づいて進めている環境負荷低減活動が、有効な対策であることが確認できました。


【セブン-イレブン・ジャパンのリスク・機会および対応策の一覧表】


◆移行リスク・機会(脱炭素シナリオ1.5℃~2℃)

重要なリスク・機会の項目

具体的な

事例

影響 シナリオ

事業

リスク

事業

機会

主な対応策
政策・
規制
各国の
炭素排出
目標/
政策
炭素価格の
導入

運営

コスト

  • 高額な炭素税が導入され、CO2排出量に対して炭素税の負担が発生
  • サプライチェーンを通じてコスト増が見込まれる
  • 『GREEN CHALLENGE 2050』に基づいたCO2排出量の削減推進
  • お取引先の省エネ。再生可能エネルギー利用拡大への支援
電力小売
価格の変動

運営

コスト

  • 再生可能エネルギー導入などに伴う電力小売価格上昇で電力料金の支払い増加
  • 店舗の省エネ設備の開発・導入
  • オンサイトの再生可能エネルギー導入の強化
配送用燃料費の変動

運営

コスト

  • 配送車両のEV化が進み、配送に伴う燃料費は減少
  • EV車両など環境配慮車両の拡大
  • 車載端末により取得したデータに基づいたエコドライブ講習の実施で燃費向上
  • 配送効率の向上による配送車両の削減

配送車両の

EV化対応

運営

コスト

  • 規制強化や社会的な変化に対応して、配送車両のEV車両への入れ替えが進み、コストが発生
  • 配送効率の向上による配送車両の削減
評判

消費者の

嗜好変化

サステナブル商品販売による売上の変化 売上
  • 消費者のサステナブル商品への関心が高まり、それに応える商品を販売することで売上が増加
  • 『GREEN CHALLENGE 2050』に基づいた環境配慮型容器包装の導入やペットボトル回収・リサイクルの推進
  • 『GREEN CHALLENGE 2050』に基づいた認証原材料の導入などのサステナブルな商品の販売拡大


◆物理的リスク・機会(温暖化進行シナリオ2.7℃~4℃)

重要なリスク・機会の項目

具体的な

事例

影響 シナリオ

事業

リスク

事業

機会

主な対応策
急性 異常気象の深刻化・増加等 自然災害に
よる被害

売上/
運営
コスト

  • 自然災害の発生頻度や強度が強まり、自然災害による店舗被害や商品損害、休業による売上損失、復旧費の発生等で損害額が増加
  • 「7view」の活用による災害時の情報収集と早期復旧に向けた体制構築
  • 止水版やガードパイプの設置拡大による浸水被害の防止
  • 蓄電池の性能向上などフェーズフリー設備による災害時の営業の継続
  • 緊急物資配送用の燃料備蓄
自然災害に関する保険料の支払い

運営

コスト

  • 自然災害の発生頻度や強度が強まることで、自然災害に関する保険料の支払い額が増加
  • 各種被害防止策により損失を抑制
慢性 降水・気象パターンの変化 農畜水産物の原材料価格の変動

運営

コスト

  • 農畜水産物の収量や品質が低下することで、原材料価格が上がり、調達コストが増加
  • 原材料生産地の分散
  • 野菜工場や陸上養殖などからの調達拡大による安定的な仕入の確保
  • デジタル技術やAIの活用
  •  
平均気温の上昇

運営

コスト

  • 平均気温の上昇により、夏季を中心に、空調にかかる電気使用量が増加し、電気料金の支払いが増加
  • 店舗の省エネ設備の開発・導入

※事業インパクト評価にあたっては、それぞれ影響が大きいほうのシナリオを参照

(1)重要な移行リスクと対応策  脱炭素シナリオ(1.5℃~2℃)

 移行リスク・機会については、1.5℃目標達成に向けて、様々な規制が導入される脱炭素シナリオに基づいて検討。中でも、最も大きな影響があると予測される、炭素価格の導入による「炭素税制度の影響」について、以下の通り試算しました。

【重要な移行リスク:炭素税制度の影響】

項目 事業インパクト
炭素税額(2030年) 126億円

<前提> 炭素税額 :135ドル/トン-CO2(IEA「World Energy Outlook2022」の最大金額)
為替レート:131.62円/ドル(23年2月期決算時に使用したレートに合わせています)

 2021年度、IEA「World Energy Outlook 2020」を参考に2030年時点の炭素税額を130ドル/トン-CO2と設定し、最大金額でインパクトを試算。事業活動の成長に伴いCO2排出量が増加した場合の単純計算で221億円の炭素税の影響を試算しました。
 さらに2022年度には、IEA「World Energy Outlook2022」をもとに、2030年時点の炭素税額を135ドル/トン-CO2と設定し、炭素税の財務影響を再試算。事業活動の成長に伴いCO2排出量が増加した場合の単純計算では275億円になりました。しかし、環境宣言『GREEN CHALLENGE 2050』の目標のとおり、CO2排出量を2030年に50%削減(2013年度比)することで、炭素税額は126億円(149億円削減)になります。さらに、2050年目標であるCO2排出量実質ゼロに向けて取り組みを推進することで、最終的に炭素税の影響は無くなると見込んでいます。

◆主な対応策

 CO2排出量削減の目標達成に向けた取り組みにより、炭素税の影響や電気料金の支払い増加などの移行リスクを大幅に軽減していきます。当社グループのCO2排出量の約9割は店舗での電気使用に由来しているため、省エネ・創エネ・再エネ調達の3つの柱でCO2排出量削減を進めていると共に、スコープ3を含めたサプライチェーン全体の削減を目指しています。

セブン-イレブン・ジャパンでは、特に以下の取り組みを進めています。


  • 1 省エネ
    従業員による節電や、店舗への省エネ設備導入で電気使用量削減
  • 2創エネ
    敷地内の太陽光パネルによる再エネ発電、利用(太陽光パネル設置数:8,823店舗(23年2月末))

 セブン‐イレブンの店舗において、CO₂排出量削減を目指した省エネ・創エネ・蓄エネに係る様々な設備の実証実験を通して、適合性や効果を見極めながら水平展開を進めているところです。2023年6月には、三郷彦成2丁目店で行っている実証実験を本格スタートしました。本店舗においては、購入電力量を2013年度対比で約60%削減、CO₂排出量を約70%削減することを目指しています。

 今後もこの取り組みを水平展開していくことで、省エネ・創エネ・蓄エネによって店舗でのCO2排出量を最大限削減した後、再エネ調達による敷地外からの再エネ電力活用で、更なるCO2排出量削減を進めていきます。

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セブン‐イレブン三郷彦成2丁目店(省エネ・創エネ・蓄エネに係る実証実験店舗)


  • 3 再エネ調達
    全国3ヶ所でのオフサイトPPAの取り組みなど、様々な電力会社と協力の幅を広げています。
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北陸電力グループとのオフサイトPPA

<対応策に関連したニュースリリースなど>
・(2022.6)北陸電力グループがセブン‐イレブン・ジャパンと取り組む再生可能エネルギーの地産地消「北電BESTテクノポート福井太陽光発電所」完成披露式を実施
セブン-イレブンの取り組みについて、詳しくはセブン-イレブンWebサイトのリンクをご覧ください。
CO₂排出量の削減

(2)重要な物理的リスクと対応策  温暖化進行シナリオ(2.7℃~4℃)

【重要な物理的リスク:自然災害の影響】

項目 事業インパクト
店舗被害、商品損害、休業による売上の損失、復旧費用など 112億円

<前提>首都圏店舗の洪水被害(荒川の氾濫を想定)による2030年時点の被害金額を試算

※過去の洪水被害の実績から試算。また、被害の程度を把握するために保険適用を考慮せず試算を実施。

 温暖化進行シナリオでは、異常気象による自然災害の発生が最大のリスクです。自然災害は発生予測が難しく、一度発生すれば甚大な被害をもたらします。近年、温暖化の進行により、災害をもたらす大雨などの極端な気象現象の発生が増加しており、本シナリオにおいて、この傾向はさらに強まります。そこで、過去の災害発生時の被害金額を踏まえ、最も大きな被害が予想される首都圏店舗の洪水被害について試算しました。国土交通省のハザードマップから、荒川の氾濫により5ⅿ以上の浸水が発生した場合を想定して、店舗被害や商品損害、休業による売上損失、復旧費用などの被害金額は、112億円になると試算しました。


◆「自然災害の影響」への主な対応策

 災害対応の充実を図ることで、災害時に店舗の営業を早期に再開し、また、インフラや避難場所などの災害拠点として機能することで、地域のお客様への貢献を続けていきます。自然災害が増大するリスクに対して、以下の対応を進めています。

・早期復旧の体制構築(独自開発の災害対策システム「7VIEW」など)
・止水板やガードパイプの設置拡大による浸水被害の防止
・蓄電池の性能向上などフェースフリー設備による災害時の営業継続
・緊急物資配送用の燃料備蓄

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7VIEW(災害時の情報共有システム)

【重要な物理的リスク:原材料原価の上昇】

項目 事業インパクト
米の原材料原価上昇額 22億円
海苔の原材料原価上昇額 19億円

畜産物(牛肉・豚肉・鶏肉・卵)

の原材料原価上昇額

16億円

<前提>気候変動により収量が低下したことのみによる2030年度時点の原材料原価上昇を試算

※収量の変化は、文部科学省、環境省、気象庁、国立環境研究所、農業・食品産業技術総合研究機構などのデータから試算

次に大きなインパクトをもたらすと考えられる、気象パターンの変化による「原材料原価の上昇」インパクトについて試算。仕入金額の構成をもとに、米・海苔・畜産物(牛肉・豚肉・ 鶏肉・卵)を対象に選定。気候変動の影響で収穫量が低下し、その分仕入金額が増加すると仮定して、その増加額を合計57億円と試算。ただし、この試算には輸入などに関わる影響を含んでいないことから、実際の金額はこの数倍にもなると想定し、 対応策を検討しています。

◆「原材料原価の上昇」への主な対応策
 環境宣言『GREEN CHALLENGE 2050』では、オリジナル商品で使用する食品原材料を持続可能性が担保された材料を使用する「持続可能な調達」の目標を掲げ、自然共生社会の実現に向けて推進。「原材料原価の上昇」への対応策として、以下が代表的な取り組みとなります。

・原材料生産地の分散
・野菜工場や陸上養殖などの気候耐性のある原材料調達拡大による安定的な仕入の確保
・デジタル技術やAIの活用

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セブン-イレブン向け商品専用の野菜工場 (株)プライムデリカ「相模原工場ベジタブルプラント」

<対応策に関連したニュースリリースなど>
・(2023.7)持続可能な原材料調達と新たな商品価値を提供する『みらいデリ』商品を7月14日(金)より全国で発売(『みらいデリ』特設サイトはこちら
セブン-イレブンの取り組みについて、詳しくはセブン-イレブンWebサイトのリンクをご覧ください。
「持続可能な調達」

(3)両シナリオでの事業機会と対応策

【脱炭素シナリオにおける事業機会について】
 本シナリオでは、お客様の意識の変化を大きな事業機会として捉えています。国の政策など世の中の脱炭素化の動きに合わせ、お客様がサステナブルな商品やサービスに大きく関心を持つようになっていくことで、現在の私たちの取り組みが機会に結び付き、更に取り組みが加速すると考えています。
 例えば、環境宣言「GREEN CHALLENGE 2050」で推進している下記のような取り組みです。

◆「CO2排出量削減」の取り組み
 脱炭素シナリオにおいて電気自動車が普及していくことから、セブン-イレブンの駐車場で電気自動車用充電サービスを拡充させることが、来客増加の機会になると考えています。
 電気自動車(EV)・プラグインハイブリッド自動車(PHV)用充電器を一部店舗に設置し、今後も拡大していきます。有料充電サービスを提供し、商業施設としての利便性の向上を目指すとともに、お買い物のついでに充電していただけるEV・PHVの利用スタイルの確立や、環境配慮型の次世代自動車の普及促進による脱炭素社会の実現に貢献していきます。

◆「プラスチック対策」の取り組み
 オリジナル商品の容器包装を環境配慮型素材にしていくことや、ペットボトル回収&リサイクル推進をすることで、お客様に関心を持っていただき、来客増加の機会になると考えています。当社グループでは、環境宣言『GREEN CHALLENGE 2050』の目標のひとつ「プラスチック対策」において、2030年までにオリジナル商品(セブンプレミアムを含む)で使用する容器包装を50%、2050年までに100%環境配慮型素材にする目標を掲げ、容器・包装に係る環境負荷の低減を推進しています。

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 また、ペットボトル回収機について、セブン-イレブン店頭にて2,956台(2023年7月末時点)設置。回収したペットボトルは、国内でペットボトルなどに再生される「循環型リサイクル」システムを実施しています。

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セブン-イレブンの取り組みについて、詳しくはセブン-イレブンWebサイトのリンクをご覧ください。
環境に配慮した商品の開発
石油由来プラスチックの削減


◆「持続可能な調達」の取り組み
 農産物や水産物の認証取得商品や持続可能性が担保されたサステナブル商品の品揃え拡大をすることで、お客様に関心を持っていただき、来客増加の機会になると考えています。セブン-イレブン・ジャパンでは、技術の進歩により環境負荷の低減と安定的な生産を実現し、持続可能性が担保された原材料を採用した新シリーズ『みらいデリ』商品の開発に取り組んでいます。第1弾として、輸入時や飼育時に発生するCO2をはじめとした温室効果ガスの排出量削減につながる「プラントベースプロテイン」と、気候変動の影響を受けず安定した供給が可能となる「工場野菜」を採用した商品を、2023年7月より全国の店舗で展開しています。

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<事業機会に関連したニュースリリースなど>
・(2023.7)持続可能な原材料調達と新たな商品価値を提供する『みらいデリ』商品を7月14日(金)より全国で発売(『みらいデリ』特設サイトはこちら
セブン-イレブンの取り組みについて、詳しくはセブン-イレブンWebサイトのリンクをご覧ください。
「持続可能な調達」