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[対談] イノベーションの視点

社員一人ひとりが圧倒的な当事者意識を持つ

鈴木 いま、セブン‐イレブンで100円のドリップコーヒー「セブンカフェ」を販売しています。これは、私自身が具体的にこういう商品を開発しなさいと指示したわけではありません。しかし、あのコーヒーは11社のチームMD(マーチャンダイジング)でつくりあげたもので、それだけの高度な技術やノウハウを結集しながら売価を100円に抑えた、他にはマネのできない商品です。

遠藤 鈴木会長の指示ではなく社員が自発的に、そこまでこだわって一つの商品をつくることができる、それが社風ですね。

鈴木 あのコーヒーの開発を手がけたのは、商品部に移ってまだ3年の社員です。商品開発にもコーヒーの分野にも精通しているわけではありません。しかし、自分で市場の情報を取り、どんな商品が必要かを考え、メーカーさんに呼びかけて、いわばたたき上げの感覚で一から取り組んだわけです。

遠藤 そこに、他にはマネのできない商品としての「深さ」が生まれてくるのですね。現場で働く人たちが、そのようにオーナーシップを持っていて、「これは自分で成し遂げるのだ」という圧倒的な当事者意識を感じます。セブン‐イレブンの皆さんには、そういう自分も何かを成し遂げるのだという、ぶれない芯があるように感じます。また、ヨークベニマルの皆さんにも、自分たちの手で会社を成長させてきたという自負や強い意識が感じられます。

鈴木 しかし、同じグループでも、その辺りの社風は事業会社によって差があります。「売り手市場」の時代にはモノマネで成長ができました。そこで成長を遂げた会社は、なかなかその成功体験から抜けられません。ところが、売り手市場が終わり買い手市場へと変わると、そういうモノマネは通用しなくなりました。いまやどの業態でもモノマネではなく、「自分たちで考える」ことができないと現場が活きてこないと思います。

遠藤 日本の企業で、現場力が高い企業は根っこにある社風がしっかりしています。ブレがなくて社員一人ひとりが皆同じことを大事だと考える、価値観が共通しています。その代表が、セブン‐イレブンとトヨタです。中でもセブン‐イレブンの徹底力は他に類がありません。そういう土壌をつくっていくことが経営にとって大切です。いくら種を蒔いても、良い土壌でなければ芽は出ないし、実もつきません。経営には、畑を耕して良い土壌を地道につくりあげる努力が不可欠です。

リスクを恐れずゼロベースで見直す

鈴木 チェーンストアというのは、19世紀後半にアメリカで始まり、これが世界に広まって日本にも入ってきたわけですが、いまやこのチェーンストア理論が通用しなくなっています。アメリカでも大手のチェーンストアが不振に陥っています。もはや、本部が中心になって商品を仕入れ、店舗に配分するという制度は成り立たないということです。そこでチェーンストア理論からの脱却に、グループをあげて取り組むことにしたのです。

遠藤 それぞれの店舗が、店づくりを自ら考えていくということがベースにないと、お客様ニーズには応えられませんね。

鈴木 大きなチェーンで、店舗が発注して商売をするというのは、日本のセブン‐イレブンが世界で初めて取り組んだことです。
 これからはGMSなどでも、個々の店がどんな商品を売りたいかを商品部に伝え、商品部はそれに応えた商品開発を行う。さらに、より地域性の高い商品は、店舗が自店で仕入れを行い品揃えするという方法に転換します。もちろん、一朝一夕ではできないでしょうが、まずは自分たちで試行錯誤して努力することが大切だと考えています。それが現場の力を変えていくと思います。

遠藤 それは壮大な取り組みですね。単に既存の組織の中で商品を仕入れる機能が商品部から店舗に移るということではなく、ビジネスモデルを変える大きな取り組みです。
 また、現場を変えるには、本社、本部が変わる必要があります。以前、日本を代表するあるメーカーの本社の部長さんから、「自分の部は不要ではないか」と相談されて、検討した結果、その部はなくなりました。そこまでできる人は少ないでしょうが、本社や本部のミッションとは何かと考え、ゼロベースで見直していくことが必要です。
 大きな転換の際は、どうしてもリスクを避けたいと及び腰になりがちですが、それでは成果は上がりません。思い切った取り組みをすることが必要です。

鈴木 既存の川からちょっと水を引いてくるというのではなく、わき水を自分たちで探して、そこを掘り下げて井戸をつくるというようなことを実際に体験していかないと、社風として根付いていきません。

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