[対談] イノベーションの視点

自ら考え行動する「現場」が新しい価値を生み出す

日本の再生には、「現場」の復権、蘇生が不可欠だ!
その問題意識から、企業の競争力を高める「非凡な現場」づくりを
一貫して研究してこられた遠藤教授をお迎えし
優れた現場を育む社風とは?といったテーマについて
数多くのコンサルティング経験を踏まえた貴重なお話をうかがいました。

HOST

セブン&アイHLDGS.
会長兼CEO
鈴木 敏文

GUEST

早稲田大学ビジネススクール教授

株式会社ローランド・ベルガー会長

遠藤 功

(えんどう いさお)

1956 年東京生まれ。早稲田大学商学部卒業。米国ボストンカレッジ経営学修士(MBA)。三菱電機株式会社、米系戦略コンサルティング会社を経て、現職。総合経営、オペレーション戦略論を担当し、現場力の実践的研究を行っている。また、欧州系最大の戦略コンサルティングファームであるローランド・ベルガーの日本法人会長として経営コンサルティングにも従事。著書に『現場力を鍛える』『見える化』『新幹線お掃除の天使たち』『現場論』など多数。

四季報 2015年AUTUMN掲載

自分たちで考え、行動することで現場の力は育つ

鈴木 私どもは、本部主導型の過去のチェーンストア理論からの脱却という方針を打ち出し、個店が中心になって、それぞれの地域のお客様ニーズに応える、新たな店舗運営のあり方を模索しています。そこで今日は、現場の力をどうやって引き出していくかといった点についてうかがいたいと思います。遠藤さんは、これまで一貫して「現場」の能力に着目されて経営戦略を論じてこられたわけですが、遠藤さんが考えている「現場」とはどういうものか、お聞かせください。

遠藤 私は、お客様に対して価値を生み出すところはすべて「現場」であるととらえています。商品企画から、商品をつくる、運ぶ、売る、それからサービスを提供する、そのプロセスがすべて現場だと考えています。

鈴木 なるほど。その中で、遠藤さんが一番重視される現場はどこでしょうか。

遠藤 それは、やはりお客様との接点となる現場ですね。それがすべての出発点で、そこの感度が高くないと、他のプロセス全部に影響すると思います。

鈴木 私どもは流通業として「さまざまな現場」を擁しており、また、コンビニからスーパー、百貨店、専門店、レストランと、あらゆる流通サービスの業態を持っています。このような現場を見てきた経験から、現場にとって一番大切なことは、過去の成功体験のような既成の知識を教え込むのではなく、自分たちで考えさせることだと思います。

遠藤 おっしゃる通りです。現場といっても、良い現場もあれば悪い現場もあります。私は「日本の現場には創造性が眠っている」と言っていますが、それは、日本の現場にはいろいろな問題点に気づき、工夫することができる力が潜在していると見ているからです。その潜在力をどのように覚醒させるかが、いま重要になっています。それを覚醒させるのが上手な会社と、そうでない会社とではどんどん差が生まれているのが現状だと思います。

鈴木 潜在している力を覚醒させるという点からも、自分たちで考える力を養うことが大切ですね。誰かに教えてもらい、ただモノマネをしているのでは、現場の力は育ちません。

遠藤 自分で考え、行動して、失敗もするといった体験を通じてしか、人は成長できません。私はビジネススクールで教鞭を執っていますが、そこで学生たちに「知識で経営はできないし、いくら学んでも、本に書いてあることがそのまま役に立つわけではない」とよく言っています。人から何か知識を授けてもらうだけでは、力にはなりません。もちろん勉強することは悪いことではありませんが、勉強が目的になってしまうと、成長はないと思っています。ですから、学校で学ぶ際も、仕事をしていれば、いろいろな体験を積めたはずの貴重な時間を、あえて学ぶことに費やしているのだという点を、よく理解して学んでほしいと願っているわけです。

「何もない」という出発点が自分たちで考える社風を生んだ

鈴木 多くの人が「現場を見ることが大切だ」と言いますが、私はその点にも疑問を持っています。現場に行って、ただ成功事例だけを見てきて、それをマネしたのでは、それ以上の発展は生まれません。現場の問題点を見いだして、自分たちで考えるきっかけにする方が、現場に行く価値があると思います。

遠藤 現場を疑ってかかる、現場から気づきやヒントを得ることが大切です。たとえば、セブン‐イレブンのお店で棚を任されて、試行錯誤をしながら商品の発注を考えていく、そういう現場の体験は、人を育てることにつながります。しかし、多くの会社は、そういう意味のある現場をどうやってつくっていけば良いか、その方法論を見いだせないでいます。

鈴木 教えるということは、技術やノウハウの伝承という点からは、必要なことに違いありません。しかし、うっかりすると成功事例だけを教え、後進の人たちは自分で考えずにマネをするだけになってしまいます。それならむしろ教えない方が良いように思います。

遠藤 知識が思考を停止させてしまうのですね。知識を教えられると、自分で考えたわけでもないのに、何かよくわかった気になってしまいます。それは、大変危険です。

鈴木 一流のアスリートというのは、それぞれ自分たちで、工夫に工夫を重ねてやっているそうです。仕事でも、そういうふうに自ら工夫をすることが重要でしょう。

遠藤 私は、現場力とは「筋トレ」だと言っています。現場で地道な筋トレをやらないと、世界に通用するレベルにはなれない。本ばかり何十冊と読んでも、一流にはなれないわけです。着実に地道なトレーニングを積んでいかなければ、本物の筋肉はつきません。しかし、なかなかそういう筋トレができる社風や企業文化が根付かないのですね。

鈴木 それは私も痛感しています。時流に乗って成長できた業態や会社は、ものごとの本質まで自分たちで踏み込んで解決を図るという社風が育ちにくいと感じます。
 私がセブン‐イレブンを始めた時は、特別なノウハウなど何もありませんでした。そのため、試行錯誤しながら全部自分たちで考えて、仕組みや商品をつくってきたのです。それが、自分たちで問題点に気づき、対応を考える社風を育むことになったと思います。

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