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[対談] イノベーションの視点

いま、チェーンストア理論を超えて
店舗主導の実現とオムニチャネル戦略による変化への対応

企業経営や企業価値に関する研究の第一人者として
幅広い視野から環境の変化に対応した経営に対する提言等を
積極的に進めている伊藤教授をお迎えし
今、セブン&アイHLDGS.が取り組んでいる
脱チェーンストアオペレーションやオムニチャネル戦略などの
新たな挑戦について示唆に富んだご意見をうかがいました。

HOST

セブン&アイHLDGS.
会長兼CEO
鈴木 敏文

GUEST

一橋大学大学院商学研究科教授

伊藤 邦雄

(いとう くにお)

1951年千葉県生まれ。1975年一橋大学商学部卒業。1984年一橋大学助教授。1992年一橋大学教授。2002年一橋大学大学院商学研究科長・商学部長。2004年一橋大学副学長。現在、一橋大学大学院商学研究科教授。2014年8月、経済産業省プロジェクト『持続的成長への競争力とインセンティブ~企業と投資家の望ましい関係構築』最終報告書(伊藤レポート)を完成、提出。『グループ連結経営』『コーポレートブランド経営』『ゼミナール企業価値評価』『危機を超える経営』『次世代リーダー育成塾 経営の作法』(共著)など、著書多数。

四季報 2015年 SPRING掲載

過去の成功を支えたチェーンストア理論を否定する

鈴木 セブン&アイHLDGS.は、今年、設立10周年を迎えます。今日は企業経営に関して幅広い知見をお持ちの伊藤さんに、私たちのグループ戦略について、お話をうかがえればと思います。
 この10年間、おかげさまでグループは成長を遂げてきましたが、個々の事業会社に格差が生じていることも事実です。私としては各社に対して同じように方針や指示を出しているのですが、その指示を素直に受け止めて実行する会社と、過去の仕事の仕方から脱却できない会社があり、その結果、市場の変化に対する対応の差が生まれていると考えています。

伊藤 私は「成功は1回だけ」という考え方を大事にしています。企業でも一人の人間でも、成功するということは、ある特定の環境の下で打った手が、うまく環境にマッチングした結果です。しかし、ずっと同じ環境が続くということはありません。時にはガラッと変化してしまうこともあります。それにもかかわらず、人はかつて打った手が成功したことをずっと覚えていて、まだ同じ手が通用すると考え、変化した環境とミスマッチが生じます。

鈴木 消費市場は、いまや完全に買い手市場になっていますが、この変化に対応するうえで、大きな障害となっているのが過去のチェーンストア理論だと考えています。本部が商品を大量に仕入れて店に送り込むというチェーンストアの考え方は欧米で発展し、日本では高度成長時代に、アメリカの小売業から採り入れてスーパー事業を興しました。当時は売り手市場で、需要も旺盛でしたから成功したわけです。しかし、1970年代以降、日本ではモノが行き渡り、買い手市場に変化しました。
 一方で、ちょうどその頃、私はセブン‐イレブンを日本で始めたわけですが、アメリカのセブン‐イレブンも、当時は本部から店に商品を送り込み、店はその商品を売るだけというチェーンストア理論に則っていました。私は、そのやり方では日本の市場に通用しないと感じ、本部は商品開発に専念し、店に商品を推奨して、店が商品を主体的に発注するという体制をつくりました。本部主導のチェーンストア理論の否定をして、店が商売の主体となる仕組みにしたわけです。
 そしてもはや、いわゆるチェーンストア理論では、お客様のニーズに応えられない時代になりました。私はつねづね、環境の変化に対応することこそが大切であると言い続けてきましたが、スーパー事業などは、過去の成功体験から抜けられずにいました。そのため、年頭から「脱チェーンストアオペレーション」を掲げ、従来のやり方を大幅に変える方針を打ち出しました。店が中心となって商圏に合った品揃えを目指し、本部はその実現に向け魅力ある商品開発を行い、店はさらに本部に要望を伝える仕組みに転換していきます。
 また、セブン‐イレブンは創業以来続けてきた店と本部の関係をさらに進化させ、商品開発とオペレーションの組織をより細かく分割し、地域性を採り入れたMD(マーチャンダイジング)と店の運営を図ります。

伊藤 セブン‐イレブンは全国を9地区、イトーヨーカドーも13地区に再編し、これまでの本部主導の商売のあり方を打破して、地域限定商品の比率を2017年度までに5割に引き上げるという戦略転換ですね。私は素晴らしい取り組みだと思います。買い手市場へと変化した時代に、消費の現場から最も遠い本部から指示を出すというチェーンストア理論は、変化の流れと逆方向になってしまっています。確かに本部主導というのは効率性に優れ、ある時期までは功を奏しました。ところが、その環境が変化してしまった結果、非効率な仕組みになってしまったのだと思います。いまや地域ごと、あるいは個店ごとにきめ細かく対応することで、効率性と多様性の両立を図らなければ、成長は望めません。

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