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[対談] イノベーションの視点

成功体験がチャレンジの芽を摘む

鈴木 ところで、今後、出版界はどのようになるとお考えですか。

鳥嶋 今以上にも、今以下にもならないと思います。発展する可能性もないけど、滅びることもない。それは出版社の心がけ次第ではないでしょうか。むしろ、昨今、商店街の本屋さんが極端に減ってしまったことが憂慮されます。これは出版社、販売会社、あるいは書店さんそれぞれの努力が不足していたこと、さらにはコンビニで書籍や雑誌などが売られるようになり、本屋さんの存在意義が変わってしまったのではないでしょうか。

鈴木 確かにそうです。そこで私どもでは、「セブン‐イレブンは街の本屋」と位置付け、スマートフォンやご自宅のパソコン、さらにはセブン‐イレブンの店頭の端末からもご注文いただき、グループの各店舗やご自宅で受け取れる仕組みをつくっています。取り扱い書籍は約150万点にのぼります。

鳥嶋 これは全国に1万7000店のセブン‐イレブンを持つ強みですね。

鈴木 昨今は、商品のライフサイクルが極端に短くなっていますから、同じことを続けていると、すぐに飽きられてしまいます。ですから、「セブンプレミアム」の人気商品なども、どんどんリニューアルを行っています。この点、マンガの世界ではどうなのでしょうか。

鳥嶋 やはり、新しくしていくことは大切です。しかも、子どもたちは、作家名などの「ブランド」で判断しているわけではなく、作品そのもので判断します。ですから、人気の出たマンガ家を起用しても、前作と同じような内容では、タイトルを替えただけで新しくはないとすぐに見破られてしまいます。しかし、編集者の方は、今まで実績のあるマンガ家の方が安心感がありますから、どうしても人気マンガ家に、似たような作品を描いてもらったりしがちです。それでは子どもたちは満足しません。

鈴木 なるほど、編集者として経験値を積むほど、そういう過去の成功体験にとらわれる危険に注意する必要がありますね。

鳥嶋 私は新人の編集者には「先輩の言うことは聞かなくていい」と言っています。なぜなら、先輩の言うことばかり聞いていると、その先輩のコピーになってしまい、編集者のさまざまな個性を活かせず、結果、いろんな作家をピックアップできなくなって、雑誌としての魅力が損なわれてしまいます。

鈴木 同感です。私はマンガの世界については、まったく知らなかったので、今日はいろいろ新鮮なお話を聞くことができました。お忙しい中、ありがとうございました。

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