[対談] イノベーションの視点

経験を超える「新しさ」の追求がメガヒットを生む

編集者として『Dr.スランプ』『ドラゴンボール』といった国民的人気マンガを手がける一方
編集長時代には『ONE PIECE』などの記録的ヒット作を世に送り出した鳥嶋和彦さんをお迎えし
ヒット作を生み出した背景や考え方について縦横に語っていただきました。

HOST

セブン&アイHLDGS.
会長兼CEO
鈴木 敏文

GUEST

株式会社集英社 専務取締役

鳥嶋 和彦

(とりしま かずひこ)

1952年生まれ。1976年慶應義塾大学卒業。同年、(株)集英社に入社、『週刊少年ジャンプ』編集部配属。1993年ゲーム誌『Vジャンプ』創刊編集長に就任。1996年『週刊少年ジャンプ』編集長。2005年に取締役。2009年に常務取締役となり、2010年に専務取締役に就任。この間、編集者として『Dr.スランプ』『ドラゴンボール』の鳥山明氏をはじめ多くの新人マンガ家を世に送り出すとともに、連載マンガのメディアミックスを推進。

四季報 2014年 WINTER掲載

読者の声をもとに次の展開を迅速に修正

鈴木 鳥嶋さんは、多くの人気マンガを世に送り出されただけでなく、アニメやゲームとのメディアミックス戦略でも成果を上げていらっしゃいます。今日は、そうした成功の背景にある考え方などをお聞きしたいと思います。
 いまやマンガ、アニメなどは、日本を代表する文化と目されるようになりました。マンガの歴史はいつぐらいから始まったのですか。

鳥嶋 いわゆるコマ割りの形をつくったのは手塚治虫先生が最初です。週刊少年マンガ雑誌としては約60年の歴史がありますが、その中で『週刊少年ジャンプ』は、後発でのスタートでした。当時の編集長は、作家さんを集めるのに非常に苦労したそうです。すでに活躍されている作家さんは先発の雑誌が押さえている。そこで新人のマンガ家を発掘して、使うわけです。ところが、彼らはまだ経験が浅く、いろんな面で既存の作家にはおよびません。そこで、それまで作家さんにお任せだった作品づくりを、編集者との二人三脚でつくる形にしました。

鈴木 コンビニを始めた時、既存の品揃えではなく、新たな価値を持った独自の商品づくりを始めることにしました。その際、いろいろな専門知識や技術が必要ですから、メーカーさんなどの専門家と一つのチームをつくり、私どもがプロデューサー役になって、お客様のニーズに合わせた商品づくりを進めていきました。これをチームMD(マーチャンダイジング)と言っていて、今も商品づくりの基本的な手法としています。また、製造工場はいまや180近くありますが、実にその9割超がセブン‐イレブンの専用工場であるのも強みです。

鳥嶋 なるほど。今までにないビジネスモデルゆえのイノベーションですね
 先ほどの初代編集長のもう一つの功績が、ハガキをつけて、子どもに面白いものを3つあげてもらうという手法を採り入れたことです。これは創刊以来現在まで続けているもので、毎回、ダイレクトにその週の反響がすぐにわかります。

鈴木 アンケート結果は、すぐに連載マンガに反映されるわけですか。

鳥嶋 アンケートの速報値がわかる発売日翌日の火曜日の夕方というのは、次の号の原稿の手直しができる、ギリギリのタイミングです。ですから、今のマンガ展開が支持されていないとわかると、すでにできあがっている原稿でも、すぐにマンガ家に連絡をして打ち合わせを行い、描き直してもらいます。
 なぜそこまでするのかというと、一つの展開で4週から8週にわたって話が進みますから、新展開の一番最初の肝心の回を間違えると、1カ月、2カ月分の失敗になります。『週刊少年ジャンプ』では、10週単位で新連載が入ってきますから、8週間も人気が得られなければ、そこで勝ち残れずに連載が終わってしまいます。

鈴木 私は日頃から目の前のお客様の変化に対応することが大切だと言っていますが、マンガについても同じことが言えるのですね。大変興味深い話です。
 また、お客様の声を活かすという点は、私たちの商品づくりと共通しています。私たちの場合は、毎日の販売実績という形で商品に対するお客様の評価が明確に表れます。その他にも、売場を通じて得られるお客様の声など、さまざまな情報が集まってきますから、それらを商品開発の現場に活かすようにしました。そのようなことから、私は社員にはもちろん、メーカーさんにも、今売れているからといって現状に満足するのではなく、つねに新しさ、さらなるおいしさを追求してくださいとお願いしています。

鳥嶋 日本のマンガも、子どもとの「やりとり」を通じて、最初から子どもたちの声を採り入れてつくってきたからこそ、世界でも例を見ないほどの成長を遂げたのだと思います。私は世界各地に出かけて、海外の出版事情なども見てきましたが、子どもの声を聞いた、子どものための出版物というのは日本のマンガしかありません。伝記を含め、絵本や児童文学などは、大人視点で「こういうのを読んでくれるといいな」と考えて書かれたものです。しかし、マンガは、子どもたちの声を活かして、子どもたちの等身大のところでテーマを出し、キャラクターをつくってきました。しかも、子どもたちの声によって、作品が残ったり、大きく育っていったりします。子どもたちからすれば、誰かに与えられたのではない、自分たちで見つけた本といえるわけです。

鈴木 キャラクターやテーマ設定でも、子どもたちが受け止めやすいように工夫されていることがあるわけですね。

鳥嶋 マンガにとって大切なことは、中のエピソードをどうつくるかより、魅力的な人間、気になる人間をどうつくるかだと思います。それで、少年マンガの主人公で一番多いのは読者の年齢に合わせたキャラクターです。たとえば、『ドラえもん』ののび太君は小学生で、野球マンガの主人公の多くは中学生です。また、スポーツや学園ものが多いのは、その世界について子どもたちに改めて説明する必要がないからです。登場人物が自分にとって大切だと感じさせることを「キャラクターを立てる」と言いますが、読者が自分のこととして感じるという点で、マンガというのは一見泥臭い世界のようでも、マーケティング的に見ればよく練られてつくられていると思います。

鈴木 私などはマンガについてそこまで深く考えてみたことがなかったので、たいへん新鮮なお話です。小売りの世界でも、お客様がモノを買うだけでなく、その先にある「コト」をどれだけ具体的にイメージしていただけるかが、とても大きな要素になります。

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