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[対談] イノベーションの視点

思い切った女性の登用で組織を活性化する

鈴木 女性だけで運営する店をつくる取り組 みの場合、実は1店舗つくったからといって、すぐに何か成果が上がるとは考えていません。売場によっては男性社員の方が向いているところもあるでしょうか ら、本来は女性と男性のバランスのとれた構成が理想的だと思います。しかし、女性だけの店舗をつくることで、これまで男性の担当者や幹部では気づかなかっ たことが見えてくるはずです。また、女性も「それは男性の仕事」と考えていたことを、自分から進んでやってみるという積極性も生まれてくるのではないかと 思います。そうしたことの相乗効果で、組織が活性化することを期待して始めたわけです。

大沢 それはたいへん重要なポイントだと思 います。女性の活用というのは、単に女性にとって活躍の場が広がるというだけでなく、それによって企業が活性化し、成長につながっていくと、私は考えています。

鈴木 グループ会社に女性役員の登用を指示 した時、「同時期に入社した男性社員の中には、女性よりも優秀な者が何人もいるので、それらを飛び越して登用できない」と難色を示した会社もありました。 しかし、まず少数でも女性を役員に登用することで、会社に女性の役員がいることが当然という空気を、社内に生み出すことが大切なのだと思います。そうする と、将来、女性の中に入社の段階で役員を目指そう、社長を目指そうと意欲を持って入ってくる人もいるし、現在いる社員にもそういう希望が持てるようになる のです。最初から無理だといって何もしなければ、いつまでたっても何も変わりません。

大沢 まったく同感です。そういうふうに、 まず女性を登用することで、男女が平等に参画できる社会をつくろうと、社会全体で取り組んだのが1970年代のアメリカでした。実際に、同期で入社した女 性が昇進したことに対して、男性社員が「自分の方が優秀なのに、女性を昇進させたことは逆差別で違憲だ」として裁判を起こしたケースがありました。昇進試 験では、この男性が推薦されていたからです。この時、アメリカの最高裁は、男性の主張を退けて合憲という判断を示し、大きな話題になりました。社会的に男 女共同参画をうながしていく時期には、そういう登用の仕方も必要だという最高裁の判断は、その後の女性の社会進出を大きく後押ししたと思います。

女性が活躍できる風土には管理職の意識改革が不可欠

鈴木 最初の段階では思い切って女性を登用したことで組織内に摩擦が起こったとしても、それは何年か経つうちに解消されていくものです。もちろん、会社は急激に 変えることはできませんから、私はまず1993年にグループ内に2人の女性役員を登用して、そこから「自然体」で女性役員が定着していくように考えまし た。最初に登用した2人の女性役員には「きみたちは、後輩を増やしていく努力をしなさい。そして後輩ができたら、今度は自分たちで後輩を教育してほしい」 と言いました。

大沢 初めて役員になった女性には、何か特 別な教育を行いましたか。

鈴木 いえ、特別には何も行っていません。しかし、彼女たちには経済団体など外部の集まりには積極的に出てもらいました。重要な点は実際に仕事を与えることで す。仕事を進めるうえで、社内からも外部からも自分で情報を取る必要があり、そういう情報交換の中で成長し、自覚も生まれてくると思います。実際に、最初 に役員になった2人も実体験を通じて自覚を持ち、自立して責任を果たしたことで、批判的だった人の目も変わっていったように思います。

大沢 多少無理をしてでも新たな挑戦を行っ ていくことが重要ですね。実際に登用した女性たちの実績を通じて周囲の見方も変わり、また後進の女性たちに自信や働く目標が生まれ、組織も活性化していきます。

鈴木 思い切って女性を登用することで、登 用する側、幹部社員が旧来の考え方から脱け出して、新たなものの見方をするきっかけになると思います。それが組織の活性化につながると考えています。

大沢 おっしゃる通りです。女性が活躍でき る組織風土をつくるには、管理職の意識改革が必要になり、そこから新たな発見が生まれて、企業の活力が高まると思います。
 これはアメリカの弁護士を中心とした会社の事例ですが、そこでは女性の離職率が高く、高度な専門知識を持った人材が離職してしまうのは会社にとって大き な損失だからと、女性が離職する理由を調査しました。すると、そこの社風が女性にとって働きにくいというのが最大の理由だと判明したのです。そこで、女性 が働きやすい社風をつくる改革に取り組んだのですが、その際、最初に行ったのが男性の管理職に対する教育でした。まず、女性がその会社に対してどんなこと を感じ、どう思っているかということを認識してもらい、どういうふうに変えていくべきかという教育をしたそうです。そういう取り組みの結果、社風が変わ り、定着率が上がり、女性の能力を従来以上に引き出せるようになり、業績もぐっと向上しました。
 こうした実例はたくさんあります。それらの事例に共通して認められることが、管理職の意識改革です。女性には男性と違う身体のサイクルがありますが、そ のことを管理職が理解し、配慮するだけでも女性はストレスが減り、働きやすくなります。そういう配慮はコミュニケーションを通じて簡単にできます。

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