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[対談] イノベーションの視点

いま、女性の活躍が会社に「成長の活力」を生み出す

経済と女性の能力活用などに関する研究に取り組み、アメリカ、日本の大学で教鞭をとられてきた大沢教授をお迎えし、女性活用を通じての会社組織の活性化や女性の働きやすい環境づくりについて欧米での実例なども織り交ぜた興味深いお話をうかがいました。

HOST

セブン&アイHLDGS.
CEO兼会長
鈴木 敏文

GUEST

日本女子大学人間社会学部教授

大沢 真知子氏

(おおさわ・まちこ)

南イリノイ大学経済学部博士課程修了。

Ph.D(. 経済学)。コロンビア大学社会科学センター研究員、シカゴ大学ヒューレット・フェロー、ミシガン大学助教授、亜細亜大学助教授を経て、現在、日本女子大学 人間社会学部教授。専攻は労働経済学。「仕事と生活の調和連携推進・評価部会委員(内閣府)」などの政府委員も務める。

四季報 2012年AUTUMN掲載

女性が自信を持って働ける環境をつくる

鈴木 セブン&アイグループでは、この4月か らグループ会社の西武やイトーヨーカドーなど、いくつかの店舗で女性を中心とした運営に切り替え、女性の視点を活かした店づくりを進めています。今日は、大沢さんに、女性の能力活用についていろいろとお話をうかがいたいと思います。
 女性の登用という点では、実は私どもは早くから積極的に取り組んできたと自負しています。役員に関して言いますと、1993年にはイトーヨーカ堂とセブ ン-イレブンで女性を登用しました。その後、各社にも広げて、現在ではグループ全体で24名の女性役員がいます。将来的には、役員の3割くらいが女性にな るのが望ましいと考えています。

大沢 経済界の方とお話すると、そのように目標値をつくって女性を登用することに消極的な経営者の方もいまだに多くいらっしゃいます。経済界全体では、まだ女性 を活用しようという意識はそれほど大きくないように思いますが、鈴木さんがそのように女性活用が重要だと考えられた背景は何だったのでしょうか。

鈴木 私ども小売業の場合、お客様の7割は 女性です。お客様の立場に立って考える、あるいはお客様の声を聞くためには、やはり女性社員の視点や感覚をもっと活かすことが大切だと考えています。セブ ン-イレブンでも、オーナーさんがご夫妻でお店を経営されている場合、奥様はお客様のニーズがどこにあるかといった点を、きめ細かくとらえていて、それを 店舗運営に活かしているケースが多く見受けられます。そのことに気づいてOFC(店舗経営相談員)に女性を登用したところ、オーナーさんの奥様とOFCが 女性同士で円滑にコミュニケーションがとれるようになり、店舗運営がいっそううまくいくようになったという事例が生まれています。そういうこともヒントに なっています。

大沢 コミュニケーションという点では、男 女がいるグループ、女性だけのグループでは、確かに女性の関わり方に差異があります。学校でも男性が過半数を占める場では、優秀な女性でもほとんど発言し ません。議論をリードしていくのは男の子です。ところが、女子大で女の子だけのグループになると、実力のある学生がリーダー役となって議論を引っ張ってい きます。力のある女の子が自信をつけるには、女子大という場はけっこう良いのではないかとも感じます。

鈴木 なるほど。今回、女性が中心となって運営するようにした西武所沢店でも、女性が 活き活きと意見を出し合える環境が生まれていると聞いています。男性の上司の時には「こんな意見を言ってもわかってもらえないだろう」と思って黙っていた ことも、女性の上司には積極的に言えるようになり、そういうところから新しい発見や新しい取り組みも生まれてきているようです。

大沢 ヨーロッパの社会は男女平等の原則が 厳しく守られていますが、学校で男性だけ、女性だけというグループをつくって、教育するという取り組みをしています。いまでも社会には、伝統的な役割分担 にもとづいた男性らしさ、女性らしさという意識が残っていて、職業の分布にも男女差があります。それを是正するには、男性の分野といわれる授業を女性だけ でやる、また、女性の分野といわれる授業を男性だけでやる。そうすると、教育効果が高まるといわれています。

鈴木 男性、女性という意識の面で言います と、会社が女性を登用してその能力を引き出していこうとしても、女性の方で、「自分は女性なので、それはできない」という意識が強く残っているケースもありますね。もちろん、女性の中にも制度やシステムを活かして、自分の能力を積極的に仕事に活かしていく人もいますが。

大沢 大切なことは、最初の段階で女性が「自 分にはできません」と言った時に、会社側が「ああ、そうですか」とあっさり引き下がらないことではないでしょうか。私自身、アメリカに留学した当初は、生 涯仕事を持ち、家庭と両立させるということは考えていませんでした。しかし、周囲のサポートもあり、自分を過小評価してはいけないと繰り返し励まされたこ とで、研究者としてのキャリアを積み重ねることができました。
 最初に「私にはできない」と女性が考えても、それを乗り越えて前に進めるよう、社会全体で環境を整えて、いまの状況をブレイクスルーしていく必要があると思います。

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