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[対談] イノベーションの視点

乾電池一つでも買物は「喜び」を生む

鈴木 今回のメッセージに「どんなことでもいい。そこに行けば、いつも必ず小さな幸せに出会える。」とありますが、どんな小さな買物にもお客様にとって喜びや感慨に結びつくと気づくことは重要ですね。

岩崎 私は、小売業の仕事を比較的たくさん手がけており、その中で気付いたのですが、たとえ乾電池一つ買いに行った時でも、自分が求めていたものがそのお店にあり、手に入れることができた瞬間には喜びがあります。まして、こういうものがあればいいなというものや予期せぬものに、そのお店で出合うことができれば、これはもう相当大きな喜びが生まれます。そういう点を考えると、買物は一つの大きなエンターテインメントではないでしょうか。
鈴木さんは「決して欠品を起こしてはいけない」と強くおっしゃっていますが、買物にそういう喜びがある以上、ほしい物がいつもきちっとあるということは、本当に大切なことです。自分が買物に行った時に、目指す商品が売り切れていると、本当にがっかりします。

鈴木 お客様がお買物から得る喜びや期待感を考えれば、たとえ一品でも品切れがあればそれだけでロイヤルティを失ってしまいますね。

岩崎 セブン‐イレブンをはじめとするグループ会社では、そういうお客様の期待に応えて、ロイヤルティを高めてきたのだと思います。近年では、公共料金の収納代行はもとより、ATMサービスなど、社会インフラとしての役割を果たすようになっていますね。
グループ全体でみると、さらに大きな社会的役割を担っていると思いますが、そういう点をこれまであまり積極的に発信されていませんが、それは何かお考えがあってのことでしょうか。

鈴木 特別な考えがあるわけではなく、私たちは個々の商品やサービスを通じて、粛々と差別化を進めることで、私たちグループの価値をお客様にご理解いただければと考えてきました。

他にはない上質と品揃えで差別化を進める

岩崎 なるほど。実は、私の事務所の近くにセブン‐イレブンがありまして、平日はよくそこで「セブンプレミアム」のサラダやお惣菜などを買って食べています。ですから「セブンプレミアム」のヘビーユーザーでもあるんです。

鈴木 「セブンプレミアム」は、それまでのプライベートブランド(PB)の概念を捨て去り、安売りという考え方をやめて、質の高いもの、他にないものを独自に開発するという考え方を基本にしてきました。本当に質が良くてリーズナブルな価格の商品であれば、スーパーであろうとコンビニであろうと百貨店であろうと、どの業態でも同じものを同じ価格で売ることができる。そのことで、お客様の信頼感をいっそう高めることができるはずだと考えました。
また、「セブンプレミアム」は、値下げを行わず、つねに同じ価格で販売するという方針を貫いていますが、どの業態でも値下げや売れ残りなどのロスを出すことなく売れています。つねにお客様のニーズに合わせて、質の良いものをリーズナブルな価格で提供していけば、お客様の信頼を得ることができて、それが他社との差別化につながっていくわけですね。このような商品を通じて、一つひとつ実績を積み上げていくことが、価格競争に巻き込まれることなく、グループ各店舗のロイヤルティを高めていくことにつながると考えています。

岩崎 コンビニエンスストアにしても、かつては、どのコンビニチェーンも似たような商品が並んでいるという印象がありましたが、最近はお店によってかなり違いが出てきました。いまのお客様は明らかに「どこのコンビニでもいい」というのではなく、この商品があるからこのお店に行くというようになってきました。これもセブン‐イレブンが、「セブンプレミアム」などを通じて差別化を続けてきた結果でしょう。

鈴木 単身世帯の増加や、働く女性の増加という社会構造の変化にともない、ライフスタイルにも大きな変化が表れています。そこで、セブン‐イレブンは、3年前から「近くて便利」をテーマに、品揃えから売り方まで、そのような変化にいち早く対応しました。結果、セブン‐イレブンと他のチェーンのお店では平均日販(1日の売上高)で10万円以上の差がついています。「コンビニはもう飽和状態だ」という意見を耳にしますが、きちんとお客様ニーズをとらえていれば、自社競合以外は、消費飽和など起こることはありません。そういう意味では、今回のステートメントの中にある「答は、お客さまの中にある。」というのは、まさに商売の本質をついています。

岩崎 「セブンプレミアム」がすごいと思う点は、それぞれの商品をつくっているのが一流メーカーで、それをしっかりと表示されているところです。そういう一流メーカーと一緒につくっているというところにも、信頼感が生まれます。メーカー名を明記したという点も従来のPBとは違うところですね。

鈴木 おっしゃる通り、お客様にとっては一流メーカーの商品であるということが、一つの信頼性につながると思います。最初の頃、メーカーさんの中には、「当社ではPBはつくりません」とおっしゃるところもありました。しかし、「セブンプレミアム」がディスカウントせずに、質の良さやおいしさに徹することでお客様の支持を集めてきた実績を見て、最近ではメーカーさんの方から積極的にPBの提案をいただけるようになりました。

岩崎 これからは、むしろ「セブンプレミアム」をつくっているということが、一種のステータスになるのかもしれません。

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