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[対談] イノベーションの視点

「そこに行けば必ず新しいものがある」を発信し続ける ブランドメッセージの背景

セブン&アイグループは、いま広告やテレビCMなどを通じて新たなブランドメッセージを発信しています。今回は、このメッセージを制作したコピーライター、クリエイティブディレクターの岩崎俊一さんをお迎えしてブランドメッセージの背景や企業ブランディングなどについて示唆に富んだお話をうかがいました。

HOST

セブン&アイHLDGS.
CEO兼会長
鈴木 敏文

GUEST

コピーライター/クリエイティブディレクター

岩崎 俊一氏

(いわさき・しゅんいち)

1947年京都府生まれ。1970年同志社大学卒。広告制作会社レマン、マドラなどを経て1979年岩崎俊一事務所設立。TCC賞、ACC賞、ギャラクシー大賞、読売広告大賞、朝日広告賞、毎日デザイン広告賞、日経広告賞、カンヌ国際広告賞など受賞歴多数。
主な作品に「21世紀に間にあいました。」(トヨタ「プリウス」)、「美しい50歳がふえると、日本は変わると思う。」(資生堂)、「年賀状は、贈り物だと思う。」(日本郵便)、「会う、贅沢。」(西武百貨店)などがある。著書に『幸福を見つめるコピー』。

四季報 2012年SUMMER掲載

「お客様の立場」から重要なヒントを得て

鈴木 岩崎さんには、このたびセブン&アイHLDGS.のブランドメッセージでたいへんお世話になりました。社会変化のスピードは速まり、お客様のニーズや生活スタイルが大きく変化しています。その中で、私たちセブン&アイグループは、どのような考えや姿勢で商品やサービスを提供し、お客様にとってどのような存在になることを目指しているのか、その点を改めてお客様とグループ全体に伝え、ブランドとしての価値を高めていきたいと願ってブランディングに取り組んできました。岩崎さんにつくっていただいたメッセージは、社員たちも「自分たちの考え方や姿勢が素直に表されている」とたいへん喜んでいます。あのようなコピーは、どういったところから発想してつくりあげられるのですか。

岩崎 企業やブランドのステートメントを書く場合、まずトップの方にお会いして、その考えや気持ちをうかがうようにしています。今回の場合は、鈴木さんが本に書かれたり、インタビューにお答えになっているものから、何を大切にされているのかという点を調べました。その中で、私が重要だと感じたポイントがいくつかありましたが、中でも「お客様のために」ではなく「お客様の立場に立つ」ということは大きなヒントになると感じました。
「お客様のため」と「お客様の立場」ということは、一見よく似ています。けれども、「お客様のため」というのは、あくまでも自分の立場があって、その立場からお客様のことを考えているわけですね。「お客様の立場で」となると、まずは自分の立場を無色透明にして、お客様の側から見ることが必要になります。ですから、これは根本的に違います。
実は、私もコピーを書く時には、自分をニュートラルな状態、偏見のない状態に置いて、世の中の状況やさまざまなことが向こうから自分にやってくるようにする。自分がゼロになることで、書こうとすることの本質が見えてきます。そういう点は、鈴木さんのおっしゃる「お客様の立場で」ということと通じ合うのではないかと感じました。

鈴木 その通りですね。「お客様のために」では、「自分の立場で」お客様のことを考えているので、どうしても自分にとって苦痛になることや面倒なことは、実行せずにすませがちです。しかし、「お客様の立場で」取り組むということになれば、自分にとって不都合なことでも実行しなければいけません。その点で根本的な違いは、たいへん重要です。

誰にとっても「今日」は新しい一日

岩崎 もう一つ大切なポイントだなと思ったことは、鈴木さんが「どのような業態の店舗であれ、そこに行くと必ず新しいものがあるということが大切だ」とおっしゃっていた点です。いっ時たりとも過去と同じ時間というのはありませんから、人は誰でも、毎日迎える新しい一日を大切に感じています。ですから、自分がよく行くお店や企業がそういうメッセージを発信していると、「私の思っていることがセブン&アイグループの言葉の中にある」という共感が生まれ、よりフレンドリーな結びつきが生まれると思います。「新しい今日がある」というのは、まさに自分たちのテーマでもあると、世の中の人たちにもそう感じてもらえたらいいなと考えています。

鈴木 岩崎さんは企業のブランディングなどを数多く手がけてこられたと思いますが、これを成功させるには、どういうことが必要でしょう。

岩崎 当たり前のことですが、社員の皆さんに「自分も当事者であるという」気持ちを持っていただくこと。しかし、そうした当事者意識を社内のすみずみまで浸透させるのは、たいへん難しいことです。間断なく、持続的に取り組んでいくエネルギーが必要で、途中で飽きてしまうと致命的になります。

鈴木 今回のブランディングをさらに深化させていこうと考えています。どのように進めていくべきか、何かアドバイスがありますか。

岩崎 グループの中にいろいろな業態があり、それぞれ必然性があって各事業会社が生まれてきたと思います。ですから、「新しい今日がある」という新鮮な価値というのは全社共通で持ちながら、それぞれの役割というものを掘り下げていくのが大事なことだろうと思います。いつもそれぞれのお店や会社が、自分たちなりの新しい挑戦を通じて「動いている」ことが重要ですね。

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