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[対談] イノベーションの視点

種類を絞って展示を工夫し
特徴を明確に伝える

鈴木 聞けば聞くほど奥が深いですね。そうした取り組みを進めるうえで、展示している動物の数も変えていかれたのですか。

小菅 そうですね、以前は160種、800点ほどいましたが、これを減らしました。戦前、動物園というのはバラエティ豊かにいろいろな種類を飼育しているのが評価基準だったので、旭山は歴史が浅いのですが、そういう古い形態をマネてスタートしたようです。しかし、いくらたくさんの種類を飼育していても、ただケージに入れて並べていただけでは、お客様にはそれぞれの特徴も違いも伝わりません。それで、種類や点数を減らしても、群れで生活する動物、単独で生活する動物、それぞれの特徴が最もわかるような展示方法に変えました。

鈴木 なるほど、そういう点も私たちの仕事と共通するところがあります。売り手からすると、どれも特徴のある良い商品を並べて売っているわけですが、その魅力や特徴がお客様に伝わらないのでは何もなりません。お客様が手に取ってみたくなるような陳列を工夫しないといけないわけです。そのためには、たとえば商品の種類を絞り込んで、これという商品は大きな陳列スペースをとって訴求していくというような方法を取り入れています。

小菅 動物たちの魅力をお客様に伝えていくには、なによりも動物たちが楽しく1日過ごせるようにすることが大切だと考えています。動物たちが退屈して寝ころんでいるようではいけません。動物たちが楽しく過ごしている間に1日が経ってしまう、そういう暮らし方をしている動物が見られれば、それがお客様にとっても一番良いわけですから、私たちはそれを目指して徹底して追求し、仕掛けを考えています。ところが、動物は一つの仕掛けを楽しんでいても、すぐに飽きてしまうんです。それで、次々と新しい仕掛けを考えていく必要があります。もっとも、1年経つと動物は忘れているので、また、1年前の仕掛けに戻してやると、しばらくは喜んで使ってくれます。

日々、明確なメッセージを
発信し続けることが大切

鈴木 旭山動物園は、いまやたいへんな人気とうかがっていますが、入園者数はどれくらいですか。

小菅 私のいた頃は、夏季が約230万人、冬季が70万人で、年間約300万人です。いま国内で年間の来園者数が50万人を超える動物園は数えるほどしかありません。
私は、今後、冬場の来園者数はもっと伸びる可能性があると考えています。夏はよその動物園とあまり環境に違いがありませんが、冬の旭山動物園は、ダイヤモンドダストが舞う中にキリンが立っていて、首の周りには、陽炎が揺らいでいる。そういう動物園は他では見られませんから、国内だけでなく海外からのお客様にも人気が出ると思います。

鈴木 冬場でも、夏と同じように動物は活動できるのですか。

小菅 オランウータンやチンパンジーなど南方系の動物は、さすがに屋外での展示はできません。しかし、キリンやゾウ、サイなどは、夏場の暑さに耐えるために断熱性に優れた体型をしているので、低温にもある程度耐性があります。時々、冬にそういう南方の大型動物を展示するのは虐待ではないかと言われますが、科学的に説明すると皆さん納得されます。

鈴木 お話を聞けば聞くほど興味が尽きませんが、最後にこれからの動物園についてどうお考えか、お聞かせください。

小菅 これまでのように珍獣や奇獣でお客様を集めるという考え方では、もはや動物園は成り立たないでしょう。それぞれの動物園が、何のためにあるのかというメッセージをしっかりと伝えていかなければ淘汰されると思います。すでに国内でもかつて100以上あった動物園が、91に減っています。つね日頃、動物園が積極的にお客様にメッセージを発信していかなければ、お客様から「もう要らない」と言われてしまうでしょう。

鈴木 小菅さんが進めてこられた動物園の改革は、お客様の気持ちにも、動物の気持ちにもならないとできないことで、ほんとうに奥が深いですね。私たちが新しいことに挑戦していくうえでもヒントになることがたくさんありました。本日は、ありがとうございました。

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