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[対談] イノベーションの視点

危機を克服する変革への挑戦 ~「行動展示」を生み出した発想の原点を聞く~

アザラシの円柱トンネルやオランウータンの空中散歩などいきいきとした動物の姿が人気の旭川市旭山動物園。閉園の危機に陥っていた同園を日本有数の人気動物園に変えた小菅正夫前園長をお迎えし旧来の常識を乗り越えた発想の原点などをうかがいました。

HOST

セブン&アイHLDGS.
CEO兼会長
鈴木 敏文

GUEST

前旭山動物園園長
小菅 正夫氏

(こすげ・まさお)
1948年札幌生まれ。北海道大学獣医学部卒業後、旭山動物園に獣医として就職。95年、園長に就任。入園者数の落ち込みから廃園の危機に直面し、仲間と経営立て直しを図る。ペンギンが泳ぐ様子を水中トンネルから見上げる「ぺんぎん館」、円柱水槽の中をアザラシが行き来する「あざらし館」など、「行動展示」の施設を次々に設立。入園者数が300万人を超えるまでに至る。09年、引退。名誉園長就任。現在、北海道大学客員教授。

四季報 2012年SPRING掲載

お客様側から見たら「面白くない!」

鈴木今回は、旭山動物園を立て直された前園長の小菅正夫さんをお迎えしました。私は小菅さんの『仕事学のすすめ』を読んで、閉園の危機にあった旭山動物園で、「行動展示」など新しい取り組みに挑戦し、ついには日本中にその名を知られる動物園に変えられていったお話に、なるほどと思うことが多々ありました。そういう新しいアイデアは、それ以前から温められていたのですか。それとも、動物園が危機的な状況にあると知ってから思いつかれたのでしょうか。

小菅私は旭山動物園に獣医師として就職してからずっと、関心があったのはもっぱら動物の世界だけで、動物園がいまどんな状況に置かれているかなど、知ろうともしていませんでした。ところが、飼育係長の辞令をもらいに市役所の本庁に行った時に、もうそろそろ動物園は廃園にするという話を聞かされました。これには驚きましたね。それまで私は動物を飼って、繁殖させ、研究成果を論文にまとめるといった自分の仕事にたいへん満足し、誇りを持っていましたから、廃園と言われてもすぐには理解できませんでした。動物園に戻って、私を含めて10人いた飼育係にその話をしても、みんなもやはりキョトンとしていました。しかし、そのままにしていたら間違いなく動物園はなくなってしまうので、なんとかしようと考え始めたんです。
まず動物園の歴史を調べてみたら、なんと動物園は紀元前11世紀からあるんです。それから三千年間、動物園はどんな時代にも存在していました。そういうことを知って、動物園は社会にとってなくてはならないものだと確信しました。それで、私は旭山動物園を存続していくために、改めて動物園は何をする場所なのか位置づけを明確にして、自分たちでできることをしっかりやろうと提案したんです。

鈴木なるほど、改革を進めるには「何のために自分たちの仕事があるのか」という原点をはっきりさせて、ぶれない軸を持つことが大切ですね。

小菅それから、なぜ「動物園は要らない」とお客様たちに思われているのか、それを知るために、まずお客様の立場から動物園を見直してみました。私たちは、ふだんお客様から見たら動物園の裏側で仕事をしていますから、お客様側から動物園を見る機会はほとんどありません。それで、改めてお客様側から動物を見て驚きました。動物がみんなお客様にお尻を向けているんです。
しかし、考えてみるとこれは当然です。動物たちにとって、ふだん餌を運んできたり世話をしてくれる飼育係も、私のように痛い注射を打ちにくる獣医師も、みな裏側からやってくる。動物たちにしてみれば、お客様の側にはとくに用がないので、つねに裏側に注意を集中させていたのです。お客様からすれば、面白くないのも当然です。

鈴木説明を聞くとなるほどと思いますが、そこに気づくというのはたいへんなことだと思います。従来の動物園は、全部、飼育係は裏側から動物に接していたわけでしょう。また、お客様にしても、動物園というのはそういうものだと思い込んでいたわけですから。そういった常識にとらわれていると、当たり前の事実にさえなかなか気がつかないものです。

小菅はい、私たちもお客様に「動物は寝てばかりで面白くない」と言われてもピンときませんでした。それもそのはずで、動物たちはおいしいものが食べられるとか、いやな注射を打ちにきたということで、私たちの前ではいつでも緊張感を持っていきいきとしていたんですね。私たちは特等席で動物を見ていたようなものです。
それに気がつきましたから、お客様側から飼育係が動物に近づいていき、世話をするように変えました。すると、動物はすぐにこの変化を理解して、今度はお客様側に向かって、いつ飼育係がくるか、獣医師がくるかと、緊張感を持って注意を向けるようになりました。

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