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[対談] イノベーションの視点

社員一人ひとりが
戦略を持って仕事をする

鈴木 戦略と言いますと、会社の一部門が立案して会社全体に号令をかけるもので、それに全員が従っていけば良いと受け止められがちです。しかし、ほんとうの戦略とはそういうものではなく、会社全体の方針の下で、各部門や担当、さらに言えば一人ひとりの社員も戦略をもって仕事に取り組むのが本来の姿なのではないかと思います。会社の戦略に対して、自分の部署はどのようにそれを具現化していくのか、あるいは自分は仕事をどう進めていくのか、それを考えることで日常の仕事の中に主体性も生まれてくるように思います。

清水 おっしゃる通りです。経営トップが方向性を出すことは重要なことですが、環境は日々変化し続けていますから、現場では方針だけで解決できない問題が毎日のように生まれてきます。現在のように世の中が大きく変わり続けている時代は、一度立てた戦略でも、実行している最中に環境に合わせて変え続けていかないと、変化から取り残されてしまいます。また、現場の責任感も薄れて、うまく仕事が進まないと「自分が悪いのではない。この方針が間違っていたからいけない」ということになります。
戦略というのは、企業を将来にわたって成長させ続けていくための仮説です。仮説は実行を通じて検証し、間違っているところを修正し、さらに仮説を高めていくことが大切です。

鈴木 私は何事に対しても「まず実行してみないとわからない」と考えるので、仕事を進める際もまず計画を立てて実行してみて、その結果を検証するようにしてきました。いまはこれだけ変化の大きな時代ですから、計画通りに物事が進むことはまずありません。ですから、仮説-実行-検証を続けることで、変化し続けるお客様のニーズに対応することが重要なのだと言い続けてきました。

清水 仮説・検証する場合、注意すべきことは、仮説を正当化してくれる情報やデータばかりを重視して、仮説に合わないものは見ないようにするという傾向です。仮説とは文字どおり仕事を進めていくうえの仮定であって、間違っている点があればそれを直して高めていくためのものです。そこをしっかりと認識することも大切ですね。

鈴木 同感です。仮説を固定的にとらえてしまったのでは何にもなりません。現在のように商品のライフサイクルが短くなっている時代は、一度成果を上げてもたちまち過去の成功になってしまいます。そこにとどまらずに、つねに新しい仮説を持って検証を重ね続けることが重要だと思います。

清水 私は、以前、戦略コンサルタントの仕事をしていましたが、私たちができるのは、顧客である会社に最善と考えられる戦略を立てて提供するというところまでです。その先は、顧客の会社の皆さんに実行してもらうしかありません。どんなにいいアイデアでも、現場で実行してみて検証し、再び実行して検証することを繰り返さなければ、ほんとうに会社の血となり、肉となっていきません。
そのような仮説、検証を会社全体で継続していくには、現場を担う社員の一人ひとりが、戦略的なマインドを持つことが大切だと思います。

鈴木 なるほど、確かに個人としても仮説を持って仕事をしないと仕事が面白くなりませんし、やりがいも生まれてきませんね。そういう意味でも、社員一人ひとりがもっと戦略を身近に感じることが必要でしょう。

清水 戦略というと確かにたいへん難しく聞こえますが、まさに仮説そのものなのです。現場でいろんなことを考えて、実行したら期待通りの成果を得たとか、得られなかったということを見て、また現場で次の段階の仮説を考える、そういうふうに進んでいけば仕事も面白くなります。一人ひとりの社員がそういう仮説を持てるかどうか、それが会社全体の力に大きく関係していると思います。

現場の自主的な取り組みを
拾い上げる環境をつくる

鈴木 清水さんは、社員一人ひとりが戦略を身近に感じ、マインドを育てるうえで、何が重要だとお考えですか。

清水 やはり若い社員の方や中間のマネジメント層の方などが、周囲から反対されても仮説を持って創造的なイノベーションに取り組む、そういう土壌をつくっていくことが重要ではないかと思います。ただ、そのためには社内で議論を戦わすといった環境が必要になるかと思います。

鈴木 私どもの場合、社員数もたいへん多くなっていますから、直接、言葉で全員と議論を重ねていくのは困難です。その代わり、私は大きな方向性を出して、それぞれの部門や売場で、その方針を具体化していくにはどうしたらいいかを、自分たちで知恵を出し合えるようにしています。そして、その中から生まれてきたいいアイデアや事例を見つけ出して全社的に広げる、そういう方法で現場の自主的な取り組みを促しています。

清水 なるほど、上から全部決めてしまうのではなく、現場で自主的に考える環境をつくって、若い社員やミドルクラスの人から出てくる新しい発想や仮説を掬(すく)い上げるということですね。

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