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[対談] イノベーションの視点

毎日の仕事に息づく「戦略」論 ~日々の仮説・検証のサイクルが、企業の将来を切り拓く~

厳しい時代こそ、イノベーションを起こし、新たな成長をつかみとるチャンス。そのための「戦略」が強く求められる中、戦略をいかに組織に根付かせ、実効性のあるものにしていくか―――
いま注目を集める経営戦略研究者の清水教授を迎えて、その要諦を語っていただきました。

HOST

セブン&アイHLDGS.
CEO兼会長
鈴木 敏文

GUEST

慶應義塾大学大学院経営管理研究科教授

清水 勝彦 氏

(しみず・かつひこ)

東京大学法学部卒、ダートマス大学MBA、テキサスA&M 大学 Ph.D.。8年間の戦略コンサルタント経験を積み、研究者に。テキサス大学サンアントニオ校で10年間教鞭をとり、2010年から現職。専門分野は、経営戦略立案・実行とそれに伴う意志決定、戦略評価と組織学習および企業の国際化。

著書に『戦略の原点』、『経営意志決定の原点』など。近著に『戦略と実行― 組織的コミュニケーションとは何か』がある。

四季報 2011年WINTER掲載

競合の動向に惑わされず
自社の特徴を打ち出す

鈴木 今回は、経営戦略を専門に研究されている清水教授をお迎えして、戦略と実行についていろいろとうかがいたいと思います。「戦略」と言いますと、いかにも堅苦しく感じ、毎日の仕事とはあまり縁がないと一般的には受け止められがちです。また、長期計画を立てますと、どうしても計画を固定的に考えてしまい、消費や経済の環境変化に柔軟に対応できなくなる恐れがあります。そこで私は、これまであえて戦略や長期計画を示さずに「変化対応」と言い続けてきました。
しかし、清水さんの『戦略と実行』という本を読みますと、「戦略」とは「企業の未来に関する仮説である」と書かれていました。そして仮説の実行によってお客様などの反応を見て検証を行い、間違いを正して、さらに質の高い仮説を立てる、その繰り返しが大切だとあり、私としては、まさにわが意を得た思いです。

清水 あちこちで戦略という言葉を耳にしますが、日本では戦略という言葉が何を指し示しているのか、かなりあいまいなところがあるように思います。戦略というのは、会社が長期にわたって競争に勝ち抜いていくための計画だと私は考えています。会社の限られた経営資源を効果的に活用し、顧客満足を得て競争に勝つためには、資源をどこに集中的に使うのかを決めないといけません。その結果、一見不公平な資源配分が生じるかもしれませんが、それを恐れずに実行することが必要です。
また、戦略を立てる場合に重要なことは、自社の特徴をしっかりと理解して、そこを強くアピールしていくことです。自社の強み・弱みをよく把握しないで、競合会社の動向などに振り回されて戦略がブレてしまう、昨今はそういう問題も増えているような気がします。

鈴木 外部環境をきちっとつかむことは重要なことですが、ともすると競合他社の動向を見ることが外部環境を見ることだと錯覚してしまいがちですね。競合他社の店を見て回ると、どうしても競合他社のマネをしたくなります。外部環境をとらえるというのは、あくまでもお客様のニーズやご不満がどこにあるかといった情報をとらえることで、競合の動向をなぞることではありません。ですから、私は一時期社員に、競合他社のお店を見ないようにとさえ言っていた時期がありました。

清水 一つの会社、あるいは一つのお店が持っている成長の可能性というのは、計り知れないものがあるはずです。ところが、競合他社に基準を置いて物事を考えてしまうと、そこと比較して、良ければ満足してしまいます。それでは、その会社の持っている可能性を活かしきることができません。
たとえば、いまiPhoneなどで注目を集めているアメリカのアップル社も、一時期はもうこの会社は成長の可能性がないとまで言われたことがありました。その後、先日亡くなられたスティーブ・ジョブズ氏を再度CEOに迎えて、アップル社の強みを活かした独自の戦略で革新的な商品を送り出し続けた結果、再び成長に転じました。競合他社に基準を置き、比較することで考えていたら、アップル社が現在のように発展することはなかったと思います。

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