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[対談] イノベーションの視点

「漢方薬」と「抗生物質」が
理想の企業体質をつくる

鈴木 私もお客様の立場で考えるようにと言い続けてきましたが、仕事になると急に業界の慣習などにとらわれて、お客様のニーズと離れてしまいます。

秋元 鈴木さんの書かれた本の中に、そういうお客様の立場に徹した話がいろいろあって「なるほど」と思いました。たとえば赤飯を商品化する話で、本当においしい赤飯をつくるには、お米を蒸す装置が必要で、その機械がどこにもなかったのでつくらせたそうですね。その話を読んで、僕はそこまでやるかと思いました。

鈴木 私たちは子どもの頃から家庭で赤飯を蒸(ふ)かしてよく食べてきました。ですからよく味を知っています。ところが、セブン‐イレブンの赤飯を試食で食べたらおいしくありません。どうやってつくっているのかと聞いたら、ふつうのご飯のように炊いているということでした。大量にお米を蒸かす機械などないので、大量生産をする場合はどこでも炊いているというのです。それではおいしい赤飯ができるはずがありません。それで、機械がないならつくりなさいと言いました。

秋元 ふつうは、業界がどこでも炊いているならいたし方ない、その中でおいしくしようと考えてしまいます。そこを、機械がないならつくりなさいというのは相当勇気のいる決断だと思います。

鈴木 おいしくないものをつくっても、お客様は決して買ってくださいません。それでは商品として出しても、却ってお客様の信頼をなくしてしまいます。自分では勇気というより、お客様はどう感じるかということから考えて、当たり前のことをしているだけです。

秋元 そういうお客様の立場で考えるという商品開発の姿勢が、グループの基盤ですね。僕はよく言うのですが、長い間処方して体質改善をする漢方薬と即効性のある抗生物質と両方が必要だと思います。長期間持続する漢方薬のような姿勢が基盤をつくり、そのうえで、抗生物質のように即効性のあるヒット商品が出てくるのが理想です。
僕が美空ひばりさんのCDアルバムをプロデュースした時に考えたのは、天下の美空ひばりさんを僕の思い通りにすると、いままでの長年のファンの方々がソッポを向いてしまうのではないかということでした。いままでのファンの方々にも認められつつ、新しいファンも取り込むことが大切だと思いました。その結果生まれたのが「川の流れのように」です。あれは演歌ではありませんし、最先端の音楽でもありませんでした。演歌ファンにもいいねと言ってもらえ、若い人にも入りやすいところで、ちょうど漢方薬と抗生物質の両面の効果を狙いました。

ネットとリアルの両輪で
さらに新しいことを生み出す

鈴木 最近ではネットが大きな力を持つようになってきました。私たちのグループでも、どこよりも充実したネットのサービスで、新しい時代のお客様のニーズに先駆けて対応していきたいと考えています。ネットの活用について秋元さんはどう考えていらっしゃいますか。

秋元 AKB48は、まさにリアルとネットの両輪で広まりました。昔なら秋葉原の劇場で何かやっても、クチコミで広まるのに相当時間がかかりました。しかし、いまは面白いことがあればネットですぐに広まります。それがまた、リアルな劇場の観客動員につながります。ネットとリアルを行ったり来たりすることで、どんどん話題が広まっていきます。
セブン&アイグループもリアル店舗網とネットの両面を持っている強みがあると思います。たとえば、恵方巻などはもともと関東にはない習慣でした。しかし、セブン‐イレブンがそれを取り上げ、さまざまな地域のお客様に広げていきました。そしてあの愉快な食べ方を面白いと感じた人が、ネットを通じてあっという間に全国に広めてしまった。そういう力があると思います。ネットはこれからもっと面白いことができそうですね。大きく取り組むことで、いままでにない新しいことが生み出せると思います。

鈴木 今回グループ横断的に販売促進担当者を集めたプロジェクトをつくりました。情報やアイデアを共有しながらネットとリアルの両輪で、さらにお客様の心理をとらえる企画やアイデアを打ち出していきたいと考えています。今日は、秋元さんのお話からいろいろと重要なヒントをいただくことができました。ありがとうございました。

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