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[対談] イノベーションの視点

デフレ脱却へ いま、生活者の視点が日本経済のカギを握る

国際経済学から経済政策全般の論究を進め
政府の各種会議にも数多く参画するなど
実際の政策立案にも積極的に取り組まれている伊藤元重教授をお迎えし
アベノミクス、TPP、消費税など、最新の話題を通じて
今後の日本経済の見通しなどをうかがいました。

HOST

セブン&アイHLDGS.
CEO兼会長
鈴木 敏文

GUEST

東京大学大学院経済学研究科教授

伊藤 元重

(いとう もとしげ)

1951年生まれ。1974年東京大学経済学部卒業。1979年米国ロチェスター大学大学院経済学博士号(Ph.D.)取得。専攻は国際経済学。1982年東京大学経済学部助教授。1993年同教授。1996年より現職。現在、総合研究開発機構(NIRA)理事長、経済財政諮問会議委員。『経済学で読み解く これからの日本と世界』『日本経済を創造的に破壊せよ!』ほか著書・論文多数。

四季報 2013年SUMMER掲載

アベノミクス「3本の矢」が目指す経済の姿とは

鈴木 昨年末の政権交代後、円安、株価上昇などの変化が生まれ、日本の経済はアベノミクスをはじめ、TPP参加交渉、消費税率の引き上げなど大きな話題もいろいろと出ています。今日は伊藤さんに、そのような日本経済の現状や今後の課題などについてお話をうかがいたいと思います。
 最初に、アベノミクスと言われる現政権の経済政策について、どうご覧になっていますか。

伊藤 アベノミクスの3本の矢と呼ばれる「大胆な金融緩和政策」「機動的な財政政策」「成長戦略」の中でも、安倍総理は10年以上続いたデフレ状況を変えたいという強い思いで、最初に金融政策の転換に取り組みました。これがちょうど昨年8月頃から回復を見せ始めた世界経済全体の動きとも合致して、円安、株価上昇という好反応につながったと言えます。現在は、一の矢に続けて、第二、第三の矢にどうつなげていくかというところです。

鈴木 アベノミクスは市場ばかりでなく国民の間でも好感をもって迎えられていますが、単なる「雰囲気」に終わらせないためにも、今後の経済運営がたいへん重要になりますね。

伊藤 大きなポイントになるのは、国民の間にあるデフレマインドをいかに払拭するかだと思います。しかし、生まれてからずっとデフレの中で育ってきた若い世代は、デフレからの脱却といっても実感が持てずにいます。また、企業の人もいまは少し良くなったが、この状態がいつまで続くのか、半信半疑なのではないでしょうか。

鈴木 実際に、人々が変化を実感できるようになるには、どのような経済環境を整える必要があるとお考えですか。

伊藤 今後、物価や金利が上昇することで実質成長率が2%、名目成長率で4%成長にまでなると、国民が確かにいままでと違うという実感を持ち、将来に対する期待感も生まれてくるように思います。そうなればアベノミクスは成功するでしょう。そういうマクロ経済の姿をつくっていくためにも、日本銀行がこれから進める金融緩和の役割と責任はたいへん重いものがあると言えます。

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