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[対談] イノベーションの視点

「携帯電話を持ったお客様」の
心をつかむ新たな小売業へ

内田 さらに重要な点は、もはや競争は一つの業界や業態の中ではなく、まったく違う出自を持つ企業や商品・サービスが競い合っている状況です。
過去の思い込みにとらわれて、同じ業種や業態の競合相手だけを見ていると、時代の変化から業界全体が取り残されてしまいます。

鈴木 私は以前からずっと、自分たちのほんとうの競争相手はお客様のニーズの変化であって、競合のお店ではないと言い続けてきました。

内田 おっしゃる通り、消費者起点で新たな事業連鎖を考える必要があります。実は異業種間の競争という点では、すでにコンビニがその先鞭をつけてきたと言えます。たとえば、コンビニが普及した結果、若い人たちはレストランに行って食べるのではなく、コンビニのお弁当で手軽に済ませるというようになりました。こういう点をとらえれば、外食事業とコンビニの競争になっているわけです。

鈴木 お弁当やおにぎりなどのように、どこの家庭でもつくっているものは、発売当初は、商品として買ってもらえるはずはないと強い反対がありました。しかし、家庭より新鮮でおいしいお弁当を目指して新しい商品を提供し続けた結果、新たなマーケットが育ち、コンビニの主力商品となりました。そういうイノベーションが異業種間の競争の中でも生き残る活力を生むのだと思います。

内田 いま、そういう異業種競争を生み出している最も典型的な例が、携帯電話です。最近、ラッシュ時の電車に乗っても、新聞を広げている人がたいへん少なくなりました。その一方で、車内にいる多くの人が携帯電話の画面を見ています。携帯電話でニュースはもとより、さまざまな情報を得られ、ゲームも楽しめます。ですから、ゲーム専用機も携帯電話と競争関係にあると言えます。
さらに重要なことは、携帯電話が消費支出の内容を大きく変えた点です。たとえば、女子高生はいままで、限られたお小遣いの中から、衣服や雑貨を買い、何か食べたりしていたわけですが、携帯電話の登場によって、お小遣いの大部分が通信費に充てられるようになりました。その分、モノの消費が減ったわけです。

鈴木 家計支出全体でみても、通信費をはじめとするサービス分野に振り向けられる金額が伸びる中で、衣料や雑貨などモノへの支出が減っています。近年、モノからコトへと言われるように、消費に対する指向が大きく変化しています。

内田 そういう「携帯電話を持った消費者」を取り込むことが、小売業にとっては大切ではないでしょうか。「携帯電話を持つ消費者」の心をとらえる戦略が生まれれば、既存の小売業がこれから大きく成長する可能性を持っているように思います。

鈴木 インターネットなどを通じてのバーチャルなマーケティングと既存の小売業の融合など、私どもも現在の高度なITインフラの発展に対応した新たな取り組みを進めています。グループ全体でこれまで培ってきた幅広いお客様との接点という財産を活かしながら、新しい流通サービスに挑戦していくことが、これからの成長につながっていくと考えています。その点で、今日の内田さんのお話からいろいろとヒントをいただけたと思います。ありがとうございました。

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