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[対談] イノベーションの視点

過去の成功体験を捨て去ることが新たなイノベーションを生む

『異業種競争戦略』などを通じ、いま進行しているマーケット変化に新たな論点をもってビジネス戦略の創造を提起している内田和成教授。過去の成功体験や思い込みを断ち切り、いかに現在の消費行動の変化をとらえ新たな戦略構築を図るかについてお話をうかがいました。

HOST

セブン&アイHLDGS.
CEO兼会長
鈴木 敏文

GUEST

早稲田大学ビジネススクール教授

内田 和成氏

(うちだ・かずなり)

1951年生まれ、東京都出身。東京大学工学部卒業後、慶應義塾大学大学院経営管理研究科を修了、経営学修士(MBA)。日本航空を経て、1985年ボストン・コンサルティング・グループ入社。2000年6月~2004年12月、同グループ日本代表。2006年、早稲田大学大学院商学研究科 早稲田ビジネススクール教授に就任。現在に至る。

●著書に『仮説思考』『論点思考』『異業種競争戦略』など。

2010年11月収録

「上質」と「手軽」を通して
ニーズの変化をとらえる

鈴木 私は、今年『トレードオフ』(ケビン・メイニー著 プレジデント社刊)という本を読む機会がありまして、内田さんがその本の解説をお書きになっておられました。「上質をとるか、手軽をとるか」という事業戦略について、さまざまな実例をもとに分析している本ですが、内田さんはその解説の冒頭に「中途半端はだめだ」と書かれています。私もまったく同感で、たいへん印象深く読ませていただきました。
日本の流通業は、いまたいへん厳しい環境に置かれています。しかし、それだけに、いまここで新たな挑戦を進めれば、大きな成長機会が得られるのではないかと考えています。今日は内田さんに、そういう新たな成長戦略へのヒントをうかがえればと思います。

内田 「上質か手軽か」というコンセプトは、たいへんシンプルですが、実は人によっても何が上質で、何が手軽かは違います。そこまで踏み込んで考えるとたいへん興味深く、本質的に奥行きが深いものといえます。たとえば、3万円もするオペラのチケットをためらいなく買い求めて劇場に出かける音楽ファンにとっては、家のオーディオセットでCDを聴くことは「手軽」です。一方で、日頃デジタルの携帯端末にネットから音楽をダウンロードして聴いている人にとっては、家にオーディオセットを備えて鑑賞するのは「上質」と感じるでしょう。ですから、「上質」「手軽」を考えていく場合、最も重要なことは誰を対象にしているのかという点です。あくまでも消費者起点で考える必要があります。

鈴木 私もお客様の立場で見るということがたいへん重要だと思います。それとともに「上質」や「手軽」は、時代によってもどんどん変化していきますね。過去の感覚で固定的にとらえてしまうと、時代の変化に取り残されてしまいます。
たとえば、コンビニエンスストアはもともと「手軽さ」でお客様に価値を認めていただいた業態です。しかし、現在のお客様は、その中にも商品によっては上質なものを求めています。手軽さの中にキラっと光る上質なものを散りばめていくことで、お客様に他にはない魅力を感じていただけます。
ですから、セブン&アイグループでは、人気専門店や名店と同等以上の味や品質を備えた商品を、手頃な価格で提供するというコンセプトで、ワンランク上のプライベートブランド『セブンプレミアムゴールド』を発売しました。その第一弾として、この9月からセブン‐イレブンで、カレーやビーフシチュー、ハンバーグなどのチルド商品の販売を始めました。

内田 私たちの世代は、コンビニがない時代に生まれているので、24時間、年中無休で、いつでもほしいものが買える便利さに驚きました。しかし、いまの若い人たちにとっては、コンビニはあって当たり前ですから、そこでの消費に対する姿勢も当然変わってきます。もはやコンビニという業態だけでは差別化ができませんね。

鈴木 おっしゃる通りです。コンビニでも、いまお話したような上質さを取り入れるとともに、「上質」の中身もどんどん新しいものに入れ替える必要があります。
また、「上質」に挑戦する場合は、コンビニだから、スーパーだからこのレベルで、というように中途半端に抑えないで、味や品質に徹底してこだわって、専門店に負けないレベルを追求しなければ、お客様に認めていただけません。

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