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[対談] イノベーションの視点

販売の現場から得た知識と
ノウハウで店舗支援に当たる

小川 10年ほど前に、ハーバードビジネススクールの先生にセブン‐イレブンの説明をしたら「よくそこまで加盟店の店員を信じて、仕事を託せるなあ」と言われました。彼としては、お店を信頼して任せる「単品管理」を基盤にしたビジネスモデルが驚きだったのでしょう。そこに日米の大きな違いがあるような気がします。

鈴木 確かにそうかもしれません。しかし、お店と本部の信頼関係を基本に置かなければ、一緒になってお客様の立場に立った商売はできません。

小川 フランチャイズビジネスで陥りがちなことは、本部の方がビジネスに精通していて、店はただ本部の言う通りのことをしていればいいという考え方です。

鈴木 そこはたいへん重要です。たとえば、日本のOFC(店舗経営相談員)に類する役割を持っているSV(スーパーバイザー)という制度が、アメリカにもあります。しかし、サウスランド社から再建協力の依頼を受けた当時、アメリカにおけるSVの仕事は、本部がつくったマニュアル通りにお店ができているかどうかをチェックすることが主体で、取り締まるという意味で警察官のようなものでした。日本では、そのお店に合わせた支援を重視し、カウンセリングと教育に力を注いでいます。ですから日本のOFCはいわばティーチャーであって、警察官ではないとアメリカで言いました。いまでは、アメリカでもそういう形に店舗指導の方法を変えています。

小川 「警察官」のようにチェックするなら、マニュアルに基づいて一律に判断するだけですが、お店ごとにカウンセリングして、それに合わせた指導をするには、それなりの知識やノウハウを身につけていないとできませんね。

鈴木 そのため、日本では本部の社員は、まず店舗で販売からマネジメントを自分で体験して、ある程度ノウハウを身につけ、そこからさらに教育を受けてOFCの仕事をするようにしてきました。現場を理解せず、頭に詰め込んだ知識やノウハウだけでは意味がありません。日本の場合、入社したら誰でもまず2~3年ほど店舗で仕事をするようにしています。
さらに今後は、日本で築き上げてきた事業インフラを世界中で共有化することで、各国の店舗の売上げのボトムアップを図り、積極的な出店と合わせ、5年後に売上高10兆円を目指します。

グローバルとローカルの両立が
お客様ニーズをとらえる

鈴木 いま、日本ではセブン‐イレブンに求められている役割が大きく変わってきました。近年は商店街がどんどん減って、身近な所に小売店がなくなったこと、高齢化によって郊外の大型店まで頻繁に出かけられなくなったこと、さらに働く女性も増えて平日に買物をする時間がないということ。こうした点から、近くで生活必需品が揃う店としての役割も求められています。かつては、24時間開いている便利なお店として、若者を中心に利用されていましたが、いまや家庭の主婦や高齢者にも、「近くて便利」なお店としてご利用いただけるということが重要です。そのため、品揃えも変化してきました。グループで共同開発したプライベートブランド(PB)商品の「セブンプレミアム」なども大幅に取り入れて、新たなニーズへの対応を進めています。

小川 私は、近くのセブン‐イレブンで「セブンプレミアム」の炭酸水をよく買うのですが、「セブンプレミアム」が製造しているメーカー名を明記しているのは、実に画期的なことだと思います。これは世界を見回してもほとんど例がありません。

鈴木 もともとPBは、アメリカでナショナルブランド(NB)商品に対抗するために誕生しました。大手メーカー品ではないけれど、低価格を訴求してストアブランドで販売したものです。しかし、日本のお客様は安さだけを求めているわけでなく、また、NBに対する信頼性が高い。そこで「セブンプレミアム」では、一流メーカーがつくったものだということを明確にするために、商品にメーカーさんの名前を表記しました。おかげさまで、たいへん好評で多くの皆様からご支持いただいています。

小川 通常、メーカーさんにとってはお客様だけでなく、販売してもらう小売業も「お客様」ですから、小売業1社のPBには、製造会社として名前を出したがらないのではないかと思います。それをあえて名前を出すというのは、やはりセブン&アイグループのお客様を起点とした商品づくりの姿勢があったからだと思います。つまり、お客様に満足してもらうという目的を共有することで、メーカーと小売業を一つのチームにしたことが、メーカー名の表示を可能にしたと思います。

鈴木 そうですね。いまの時代は、お客様のニーズに合わせた商品でなければ買っていただけません。そのためには、私ども販売業者も製造業者も、「お客様の目線」で考えていく必要があります。お客様目線に徹すると、時にはメーカーさんに厳しい要求をしなければならないこともあります。それでも、メーカーさんがその要望に応えてくれるのは、一つのチームとしてお客様に認めてもらえる商品をつくるという目標を共有しているからでしょう。一つのチームとして私たちとメーカーさんが一緒になってお客様が満足する商品をつくれば、必ず売上げを伸ばすことができ、利益を享受できます。この点をご理解いただいているのだと思います。

小川 70年代以降は、モノ余りの時代で、供給が需要を上回りました。そしてこの10年ほどは、情報についても供給が需要を大きく上回っています。消費者は大量の情報をこれまで以上に選択的に消費するようになっています。こういう中で新しいビジネスモデルや仕組みが求められています。たとえば、セブン‐イレブンだと「現地化」のノウハウがあげられます。

鈴木 そうですね。消費飽和の時代になると地域によってニーズが大きく変化します。かつては、東京で売れていたものを地方へ持っていくと売れましたが、今はむしろ逆です。地方で売れているものが東京で売れます。
一方で、世界共通に売れるものもあります。セブン&アイグループでは、まずワインに取り組みました。最初、年間で100万本の計画だったのを、300万本に修正し、発売して4カ月たった時点でさらに50万本加えた上方修正を行いました。このワインは中国でも発売され、たくさんのお客様から支持されています。
ですから、グローバルなものとローカルなものとの両面を、バランス良く取り組むことが大切ですね。

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