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[対談] イノベーションの視点

いま新たなイノベーションが「世界と地域」「ネットとリアル」を結ぶ

日本発の優れた企業イノベーションの研究を通じて、日本のビジネス革新に 新たな視点をもたらしてきた小川教授を迎えセブン‐イレブンの革新性やネットビジネス、 グローバル展開など いまセブン&アイグループが推進する 新たな取り組みについて ご意見をうかがいました。

HOST

セブン&アイHLDGS.
CEO兼会長
鈴木 敏文

GUEST

神戸大学大学院経営学研究科教授

小川 進氏

(おがわ・すすむ)

1964年 兵庫県生まれ。1989 年 神戸大学大学院経営学研究 科博士課程前期修了。1994年 神戸大学経営学部助教授。 1998年 経営学博士(マサチューセッツ工科大学)取得。 1999年 神戸大学大学院経営学研究科助教授、 2000年 商学博士(神戸大学)を取得し、 2003年より現職。

受賞:「テレコム社会科学賞」 (2002年)、「組織学会賞(高宮賞)」(2001年)、 「日本商業学会賞」(2001年)など。

2010年5月収録

世界に類のない革新を進めてきた
日本のセブン‐イレブン

鈴木 私どもでは、お客様のニーズの変化に合わせることが小売業の基本であると考え、つねに過去を否定し、いまのお客様ニーズに合った仕事の仕方や、ビジネスモデルを追求してきました。小川さんは研究対象としてセブン‐イレブンを取り上げてくださいましたが、きっかけは何だったのですか。

小川 私はマサチューセッツ工科大学に留学してイノベーションの研究に本格的に着手したのですが、その時、日本企業のイノベーションを取り上げようと考えて、革新的な会社はどこか、いろいろと調べました。世界的に注目されていた自動車産業をはじめ、鉄鋼業、金融業など、さまざまな業界を調べたのですが、世界的なレベルで革新を行っていると思える業界・企業がなかなか見つかりませんでした。
そんな中、もともとアメリカで生まれた事業であるコンビニエンスストアを、セブン‐イレブン・ジャパンが世界のどこにもない革新的なビジネスモデルにつくりあげたことがわかりました。当時の指導教官のエリック・フォン・ヒッペルにその話をしたら、ぜひそれを研究すべきだと言われました。また、ハーバードビジネススクールの著名な歴史学者、アルフレッド・チャンドラー氏と話をする機会があり、セブン‐イレブンの話をしたら、彼に「うちでもセブン‐イレブン・ジャパンの研究をしている。ぜひちゃんと調べなさい」と言われました。それだけ高名な先生も言うなら、これは絶対に研究すべきだと確信を持ちまして、それからセブン‐イレブン・ジャパンのイノベーションについて調べ始めたわけです。
鈴木さんは、アメリカからセブン‐イレブンを導入されても、アメリカの仕組みそのままではなくて、日本のマーケットに合わせた独自の仕組みや商品をつくってこられました。そこにたいへん革新的な取り組みが次々と生まれたわけですが、そのきっかけは何だったのですか。

鈴木 セブン‐イレブンを日本に導入した時に、アメリカの仕組みをそのまま活かしたのは会計システムくらいで、あとは商品から店舗指導にいたるあらゆるものを日本独自のものに変えました。
セブン‐イレブンを日本に導入した当時、中小小売店は近代化・効率化が遅れ、生産性が低いことが課題でした。一方で、大型店が発達していたアメリカで、小さな店舗を展開しているセブン‐イレブンがきわめて優秀な業績を収めていると知り、何か重要なノウハウがあるに違いないと考えたのです。しかし、アメリカで研修を受けてみて、アメリカの仕組みをそのまま持ち込んでも、日本ではうまくいかないとすぐに気づきました。けれども、当時、イトーヨーカドー内でも、外部の流通業の専門家や学識者からもコンビニエンスストアの導入は時期尚早と大反対を受けたのを押し切ってサウスランド社(現セブン‐イレブン・インク)と契約していたので、いまさら引き下がることもできません。必ず成功させなければという一念から、日本のマーケットに合わせた商品・サービスを提供していくために、自分たちで最初から仕組みを考えることにしました。

外部の専門家とチームを組んで
いままでにないものを生み出す

鈴木 ところで、小川さんは私どもの取り組みをいろいろ調べてみて、どうご覧になっていますか。

小川 3つ特徴があると思います。一つは、アウトソーシングを軸としたチームでの取り組みです。たとえば、商品や仕組みを開発していく時に、全部自分で抱えこまず、また、外部に丸投げするのでもなく、専門の知識やノウハウを持った会社とチームをつくって取り組まれてきました。多くの会社は、そういう発想を持ちません。
第二に、外部の方の専門知識を十分引き出す形で協業を行っていることです。専門家といっても、たとえばお弁当の機械を開発する場合、お寿司の自動化を手掛けてきたメーカーなど、自分たちの必要とする関連ノウハウや知識を持つお取引先を探してチームを組み、お互いに切磋琢磨していままでにないものを生み出してきた点が、他の企業には見られない特徴だと思います。

鈴木 なるほど。セブン‐イレブンを始めた当初、私たちは専門的な知識も資金力もありませんでしたから、すべてを自前で開発することができず、技術やノウハウを持っている会社にお願いするほかありませんでした。それがアウトソーシングにつながりました。情報システムにしても、自分たちで開発していたら、コスト的に高くつきますし、逆に丸投げでは徹底的に知恵を出すことはなかったと思います。
相手の技術力を借りることで、私たちは自分が必要とするレベルのシステムを手に入れることができ、専門家の方は新たにビジネスの領域を拡大できる。そういうWin-Winの関係をつくるという考え方で、あらゆるイノベーションに取り組んでいきました。

小川 第三の特徴は、世界中にまだ例がないという最初の取り組みを積極的に進めてきた点です。先例がないことに取り組むのは、チームに参加している会社にとっても、たいへんな決断を要することだったと思います。それでも、一緒に取り組んだということは、セブン‐イレブンにたいへん魅力があったからではないかと思います。
メーカーが流通の主導権を握っていた時は、モノも情報も川上から川下へ流れていました。その状況が変わり、川下の基本的欲求が満たされてくると、神経のように末梢で起こっていたことを中枢で拾い上げて、フィードバックするという仕組み、つまり店舗がお客様をとらえ、マーケットに戻すという仕組みをつくる必要が出てきます。それをつくったのはセブン‐イレブンが初めてだと思います。

鈴木 最初からそれができていたのではなく、つねにお客様ニーズに応えることを考えていたら、結果的にイノベーションが発生したと考えています。

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