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[対談] ブレイクスルーのヒント

不況の時ほど多様な発想で
新しいことに挑戦することが必要

小野 いま企業の使命というのは、お金よりも魅力がある新しい商品を生み出すことです。これは鈴木さんご自身も、セブン‐イレブンのおにぎりで、素材にこだわった価値のあるおにぎりをつくれば価格が高くなっても買ってもらえるというお話をしていらっしゃいますね。

鈴木 いままで身の回りになかった新しいモノを提供すれば、お客様は買ってくれます。価格の問題ではないのです。いまあるものに新しい機能やファッション性を付加することでも、それが価値として認めてもらえれば、大きなニーズを生み出すことができます。
ですから不況の時ほど、いろいろな角度から現状をとらえて、多様な発想を持って新しいことに挑戦しないといけません。ところが、不況になると発想の多様さがなくなり、価格ばかりに目がいってしまいます。これが大きな間違いですね。

小野 現在の経済環境の中であえて新しい事業や商品に挑戦するのはリスクが伴います。それよりも、価格を下げてよそからシェアを奪ってくる方がずっと簡単で、安全に見えます。しかし、それでは需要は増えずに、結局は不況を長引かせることになってしまいます。

鈴木 マクロ経済の視点から、新しい需要の創出という点でどのような取り組みが有効だとお考えですか。

小野 私は環境への取り組みが、今後新たな市場を創出すると期待しています。鳩山首相が国際会議の場で、日本は2020年までに1990年対比で25%温室効果ガスを削減すると発言しました。これに対して、基幹産業などは、そのような目標を達成するために環境規制が実施されたら、コストアップになって日本の産業は国際競争力を失うと反発しています。しかし、コストがかかるということは、言い換えれば新たな需要が生まれるということなのです。そこでの支出は必ず誰かの所得になり、企業にとってもプラスになって戻ってきます。ですから、環境への取り組みはどんどん進めるべきです。エコポイントなどは、1年間だけでなく、ずっと続ければいいと思います。また、輸入製品に関しても一定の環境性能を満たしていなければだめ、というような規制を日本だけで行ったとしても、日本製品の国内需要がかなり増えるはずです。さらに、ヨーロッパなどを巻き込んでこれを国際的なルールにすれば、環境に配慮した日本の製品は国際的に競争力がすぐれているので、大きな需要を生み出すでしょう。

これからの成長のカギは
生活を楽しむための「創造的消費」

鈴木 いま、少子高齢化社会を迎え、人口も減少しています。国内市場が小さくなっていく中で、企業が成長を続けるためにどう考えていますか。

小野 人口減少はその国の経済にとってなんの問題ももたらさないと考えています。人口が減って需要が減るとしても、働く人の数も減っていくわけですから、人余りや過剰供給になるわけではありません。そこで大切なのは、総量ではなく、一人ひとりが快適に暮らせるということです。つまり、経済全体の成長ではなく、一人当たりの経済成長を続ければいいわけです。もちろんその場合は発展途上にある新興国のような経済全体での高度成長は望めません。しかし、一人ひとりの生活が豊かになっていけばそれで十分ですし、ビジネスチャンスも広がっていきます。

鈴木 なるほど、人口が減少していっても、生活を快適にしていく新しい提案を続ければ、成長は可能だということですね。
セブン‐イレブンについて、私はこう言っています。コンビニエンスストアというのは、便利さを提供する店という意味だが、その便利さの中身は時代によってどんどん変化していく。日本では80年代以降、身近な中小小売店が減少し続けており、高齢化が進む中で、セブン‐イレブンは身近なお店として高齢の方々にとっても、貴重な生活インフラとなりつつある。だから、お店の商品・サービスなどを見直して、新しい便利さの提供を図っていかなければならない。便利さの中身は変わっても、便利さに対するニーズは生活の中から消えることはない。だから、その時代に合わせた便利さを提供し続ければ、永遠に成長できるはずだ、と。

小野 おっしゃる通りですね。その便利さということは快適さとも言い換えられると思います。これからは「快適さ」ということが、成長のカギになります。過去の高度成長期のように、倹約してお金を貯め込むことが美徳ではなく、生活を楽しむようにすることが肝要だというように考え方を変えることが大切だと思います。
かつては、お店に行ってテレビを買うだけでわくわくできました。しかし、いまやほんとうに生活を楽しもうとしたら、自分から情報を集めて、行動しないといけません。海外旅行にしても、パッケージツアーで行くのは手軽ですが、それではもう面白くありません。それよりも、航空券の手配から自分でして、現地の情報や歴史を調べて、自分で組み立てた方が、クリエイティブであり、旅行をほんとうに楽しむことができます。ですから、いまや消費こそが創造的な行為なのです。
生活を楽しむことが社会に貢献する創造的な行為だと、みんなが思えるような新しい商品やサービスを生み出していくことは、生活に密着した産業である流通業の責務であるとすら思います。

鈴木 なるほど、生活に新しさや創造性を刺激する価値を提供することが「新・総合生活産業」を標榜する私たちの責務であるということですね。それは過去の発想に縛られていたのでは生まれません。私たちが新しいことに一歩踏み出すことが、新たな需要の創造につながるわけです。
2010年のテーマは「挑戦」であると私は考えています。この点で、小野さんのご意見はたいへん心強い支えになります。ぜひとも新しいことにグループを挙げて挑戦していきたいと思います。今日は、お忙しい中、貴重なお話をお聞かせいただき、ありがとうございました。

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