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[対談] ブレイクスルーのヒント

価値や情報をアピールするためのコミュニケーション力が大切

鈴木 新しいものを生み出すとともに、その新しさをいかに伝えていくかも大切だと思います。お客様にアピールするというコミュニケーションも、いまの小売業にとっては重要な課題になっています。
たとえば、今年イトーヨーカドーで、「パワーウォーム」という新しい機能性の肌着を開発しました。最近ではいろいろなところが機能性の肌着を出しているので、その違いをしっかりとアピールして、お客様に新しさを理解していただかないと意味がありません。しかし、売場ではいままでの10倍の広さで展開したからと、それでやったつもりになっています。たしかに陳列を広げてアピールするのは大切ですが、肌着売場だけでやっていても、食品を買いに来たお客様には伝わりません。フロアが違えば、存在すら気づいてもらえません。お客様の立場で見たら、いつもと変わってはいないのです。

佐藤 私の世代から見て、不思議に思うことは、日本企業はせっかく良い商品をつくっていても、それを上手にアピールできていないケースがたいへん多いという点です。これには過去の成功体験も大きく影響しているのかなと思うのですが、高度成長期は、良いものさえつくれば、黙っていても売れたという時代があったのでしょうか。

鈴木 確かにモノ不足の時代で需要が旺盛でしたから、商品があれば黙っていても売れた時代でした。モノが良ければ、とくにお客様にアピールしなくても買っていただくことができました。また、その頃は、一つヒット商品が出ると、それが次のシーズンも、その次のシーズンも売れました。ですから、たとえば総合スーパーは、前のシーズンに百貨店や専門店でヒットした商品を見てから、自分たちで似たような商品を低価格でつくって売れば、どんどん売れました。極論すれば、うまくモノマネができたところが成長したと言えるかもしれません。

佐藤 なるほど。日本の企業が良いものをつくっても、お客様に強くアピールしない背景には、そういう成功体験もあるわけですね。

鈴木 しかし、モノが豊富になって、いまや消費飽和の時代になりました。しかも、商品のライフサイクルもどんどん短くなって、前のシーズンには売れたものは、今シーズンは決して売れません。そういう変化の中で、もはやモノマネの商品づくりでは、お客様に買ってはいただけません。そのため、私は過去の成功体験を捨てて、新しいものに挑戦し続けなければならないと言い続けているのです。また、同時に、新しいものをつくったら、その新しさをしっかりとお客様に伝える努力が必要です。

全体と単品の相乗効果がブランドイメージを確立する

佐藤 日本人は「言わないほうが美徳」という意識がありますが、言いたいことを正確に相手に伝えるというのは必要なスキルです。いまは、モノが良いというのは当然のことで、お客様はモノとともに情報にお金を出しているのだと思います。商品のネーミング、広告、お店や売場のインテリアから陳列の仕方まで、すべてが情報としてのコミュニケーションツールです。とくにファッションアイテムなどは、タグをはずしてしまうとどこの商品か見分けがつかないでしょう。つまり、ブランドという情報が、商品の価値にとって重要な部分を占めているわけです。

鈴木 そういうブランドの価値を考える場合、イトーヨーカドーのような総合スーパーでは、食品も衣料品も日用品も扱っている中で、単に衣料品の中の肌着だけをアピールしてもだめなのだと考えています。総合スーパーでその商品がお客様の目にとまるようにするには、全体のブランドイメージが必要ですし、全体の中でアピールすることが必要になります。食品を買いに来るお客様にとっても、肌着は生活必需品です。では、そういうお客様が肌着を買う時、真っ先にイトーヨーカドーで買おうと思ってもらえるか、ということが大切なのです。
また一方で、何単品かお客様に納得していただける商品が生まれ、それがお客様に伝われば、こんどはそのイメージが他の商品にも波及して好循環を生んでいきます。

佐藤 確かにおっしゃる通りだと思います。たとえば、音楽やビジュアルのメディアとして「iPod」が圧倒的な人気を博した結果、アップル社のイメージが大きく変わりました。アップル社では、「iPod」だけでなく、パソコンや周辺機器もつくっていますが、「ウチはこれです」というものを前面に打ち出したことで、アップル社の製品がどういうものかというイメージをわかりやすく伝えることに成功したと思います。

鈴木 自分たちの強みを把握して、その中で何を強くアピールするか、全体観をもって打ち出し方を考えることが重要ですね。そういう発信力を育むにはどうしたらいいのでしょうか。

佐藤 先ほどお話した、ある専門店の海外展開の時は、私は広告やPRの戦略、商品、パッケージや陳列の仕方はもとより、店内のサイン(案内表示)、レシート、ハンガーから、床の材質やごみ箱にいたるまで、どんなデザインのものを使うか、自分自身ですべてに目を通しました。そこまで統一感を追求して初めて、お店に入れば一目でどういう店かと理解していただけるようになったと思います。

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