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[対談] ブレイクスルーのヒント

目標と価値観を共有して自ら「チャレンジし、変える」心を育てる

入学希望者の減少による経営危機から、学校改革に取り組み、わずか7 年間で希望者数を60倍に増やした品川女子学院。同校の校長、漆紫穂子さんをお迎えし、改革の進め方、時代の変化に対応した経営など、ビジネスの活性化に役立つ示唆に富んだお話をうかがいました。

HOST

セブン&アイHLDGS.
CEO兼会長
鈴木 敏文

GUEST

学校法人品川女子学院 校長

漆 紫穂子 氏

(うるし・しほこ)

1961年 東京都生まれ。

中央大学文学部卒、早稲田大学国語国文学専攻科修了。

都内の私立校の国語科教諭を経て、1986年 品川女子学院に就職、同校改革に取り組む。2006年4月、父の後を継ぎ、第6代校長に就任。著書に『女の子が幸せになる子育て』がある。

2009年8月収録

知らないことを強みに相手の立場で素直にニーズを捉える

鈴木 品川女子学院校長の漆さんは経営危機にあった同校を短期間に立て直し、特色のある教育方針を打ち出して、いまや関東一円から生徒さんが集まる人気校に変えておられます。私も中央大学の理事長をしていたこともあり、学校経営の改革の難しさを体験していますので、漆さんが短い期間に成果を出されたことには驚きを感じています。その改革の考え方や手法について、ぜひうかがいたいと思います。

私ども品川女子学院の場合、改革前も教職員はみんな生徒に良かれと思って熱心に仕事をしていました。誰も怠けていたわけではなく、正しいと思ってしていたことを内部から変えるのは、大変なことでした。

鈴木 会社の場合でも、社員が怠けていて業績が悪化するというよりも、みんな一生懸命に働いているのだけれど業績が低迷する場合の方が圧倒的に多いと思います。しかし、いくら一生懸命に働いても、時代のニーズに合っていなければ、思うように成果が出ないというケースが多いわけです。

私たちの学校も、まさに時代のニーズに合わなくなっていました。もともとは旧制の高等女学校で、手に職をつけることや躾を重視する学校でした。ところが、世の中が変わって女性も大学に進学し、男性と同じような仕事をという時代になった時に、その波に乗り遅れたのです。もう一つは、「中高一貫教育」が私立学校の価値として求められるようになった時に、高校が中心で中学は1クラスという編成のままだったことです。

鈴木 それをたいへん短期間で、時代のニーズに合った進学校に変えられたわけですが、その改革の一番のポイントは何ですか。

学校内の改革と学校外への働きかけを同時に進めたことでしょうか。生徒の立場で改革をし、それを同時に外部にオープンにしていったことが、内部改革との相乗効果を生みました。また、内部改革は、資金がなく、小さなことから始めたのが結果として良かったと思います。小さな改革は短期間で目に見える成果が出やすく、それが積み重なっていくことで、校内に「変えることができる」という雰囲気と自信が生まれました。

鈴木 具体的にどんなことをされたのですか。

たとえば、制服を変えました。制服は生徒にとっては毎日着る大切なものなので、着ていて楽しい気持ちになるようなものにしたいと考えました。デザイナーに依頼する資金もありませんし、生徒を知らない専門家より、毎日生徒に接している私たちが生徒の一日を思い描き、生徒の喜ぶ顔を想像しながらつくった方が良いものになるのでは、と教員のチームで手がけました。セーラー服をブレザーとタータンチェックのスカートに変え、素材も制服用のものではなく、通常の服と同じ、着心地がよく発色のいい素材を使いました。まさに素人の発想で、徹底的に生徒の立場に立って考えた結果、生徒に喜んでもらえる制服ができたと思います。

鈴木 素人の目で見て、素直に相手のニーズを捉えるということは、たいへん重要ですね。私も流通業を目指してイトーヨーカドーに入ったわけではなかったので、小売業についてはまったくの素人でした。しかし、それだからこそ商品、サービス、売場などを見る時は、売り手の立場ではなく、お客様の立場で見るほかありませんでした。それでおかしい点があれば変えていく、その繰り返しでした。

私は都内の別の学校で3年間教員をしてから、実家が経営している品川女子学院の経営危機を知り、非力ながら少しでも手伝えればと移りましたが、私にも「知らない強み」があったと思います。経営はもちろん、教育という点でも素人同然でしたので、とにかく人の話を聞き、生徒の立場で考えるほかありません。やはり、それが良かったですね。

鈴木 私は、「お客様のために」ということと「お客様の立場で」というのは、似ているようでまったく違うと言い続けてきました。「お客様のために」というのは、あくまでも売り手の主観で、お客様のニーズに合っていないかもしれません。うっかりすると押し付けになります。そうではなくて、つねにお客様の立場に立って、いま何がほしいか、どんなサービスが必要かを考えることが大切なのです。

「人は変えられない」自らが変われる環境づくりが大切

鈴木 経験の浅い漆さんが、改革を始めようとした時、周囲の反発や抵抗も大きかったのではありませんか。

改革に踏み切ることは私が来る前に決まっていて、このままではいけないとほとんどの人が思っていました。ただ、問題点が多すぎて誰が何から始めればいいのかわからないという状態でした。また、一人ひとりの経験や立場によって問題の捉え方や優先順位にも違いがありました。私は経験が浅いことで既成概念がなく、外から来たことで内側からは見えないものが見えていました。しかし、みんながこれまで生徒のために正しいと思ってやってきたことを否定してしまっては受け入れてもらえません。ですから、何か新しいことを始める時は、まず相談から始めたり「ちょっとだけ手を貸してください」と、頼んだりしました。小さな頼みごとなら抵抗なく聞いてくれます。反対の立場にいた人も、こちら側に回って少しでも関わることで視点が変わり、じゃあ、試しにやってみようかというふうになっていきました。

鈴木 私どもも1980年代から改革に取り組んできましたが、いままでの仕事の仕方を変えるということは、たいへん難しいと痛感してきました。繰り返し同じことを言い続けても、なかなか徹底されません。

私は「人は変えられない、目標は伝わらない、人を管理することはできない」と考えています。自分でさえなかなか変われないのに、人を変えようと思うのはおこがましいと。親御さんが「うちの子いつもやる気がなくて」と嘆く子でも、好きなことに対しては見違えるほどやる気を見せる場面があります。これは大人でも同じなのではないでしょうか。同じ人間でも、モチベーションのスイッチがオンの時とオフの時があり、オフの時にいくら外部から働きかけても行動は変わりません。内発的な動機がないのに、自発的に行動しろと言っても難しいのではないでしょうか。
人に動いてもらいたいと思ったら、100%その人の立場に立ち、その人の大切にしている価値観に寄り添い、モチベーションのスイッチがオンになるような環境を整えることが先だと思います。

鈴木 改革を進める際には、自分から取り組むということがたいへん重要です。上司からやりなさいと言われたからやるのでは、改革も挑戦も生まれません。スイッチをオンにする環境づくりとは、どのようなものですか。

自ら参加し自ら選択することでしょうか。なんとか改革が軌道に乗ってきた頃、スピードや効率を重視したことの副作用でコンセンサスがとりにくくなり、内部がギクシャクしてきました。このままでは組織がだめになると思い、創立の時の目標や個人の目標を全員で出し合って、目標を決め直しました。そこで出てきたのは、教育としての原点、「生徒の成長がうれしい」「こういう生徒を育てたい」という共通の価値観でした。そこに立ち返ると、どんなに面倒なことでも、リスクがあっても「これが上手くいけば生徒が喜ぶ、それならやり方を工夫しよう」となっていきます。全員が参加して価値観を共有し、「学校の目標」が「自分の目標」となったことで、同じ方向に向かって歩けるようになりました。

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