このページの本文へ移動します

[対談] イノベーションの視点

団塊ジュニアを境に大きく異なる世代間の消費感覚

鈴木 牛窪さんは、消費に対する世代ごとの差異を詳しくお調べになっていますね。その点についてお聞かせください。

牛窪 私は、団塊ジュニアと呼ばれる世代(30代後半~40代前半)を境に、その上の世代と下の世代では、消費に対する感覚が大きく違っていると実感します。たとえば、いわゆるバブル世代(40代半ば~50代前半)までは、多くの親が戦前生まれで、夕食のおかずを小売店の既製のお惣菜ですませることに抵抗感を持っていました。ところが団塊ジュニア世代以降は、物心がついた時からコンビニエンスストアもファミリーレストランもありましたから、これらの世代が親となった今、夕食のおかずにコンビニのお惣菜を出すことに抵抗感を持っていません。むしろ、コンビニのお惣菜の方がおいしいので子どもが喜ぶ「ごちそう」だと言います。妻と夫も「今日はセルフ(自分)で」と言って、同じ食卓で別メニューを食べていたりします。

鈴木 かつては、コンビニやスーパーの惣菜はどんな原材料が使われているかわからないから、家で調理した方が安心だという考え方がありました。しかし、実際はセブン‐イレブンの弁当や惣菜の場合、野菜などの生鮮食品から醤油などの加工品まで商品に使う原料一つひとつの履歴がはっきりしていますし、どの材料も生産者のもとから直接専用工場に入れて、そこでつくった商品はすぐにお店に配送しているので保存料なども使いません。ですから私は、保存料や着色料などがたくさん使われている材料を買って家庭で調理するより、セブン‐イレブンの弁当や惣菜の方がずっと安心だと、よく言ってきました。

牛窪 また、さらに若い世代になると、既製の商品に、自分たちでちょっとだけ手を加える「ちょい足し」消費も広がっています。商品本来のおいしさよりも、独自の発想で人から「何これ!?」と突っ込んでもらえるような組み合わせをブログやツイッターで発信したいという消費の傾向も生まれています。
 面白いのは、メーカーさんが想定していなかった意外な食の楽しみから、新しい商品も生まれている点です。たとえば、通常のレトルトのお粥を、電子レンジで温めずに食べるというお客様の声が多かったので、そこから味の素さんの「冷やしだしがゆ」が生まれたそうです。そういうお客様からの発信も、これからは商品開発に活かしていける可能性があります。

鈴木 セブンプレミアムでも、ネット上にお客様と商品開発や利用法などの情報を共有するサイト「プレミアムライフ向上委員会」を設けています。今後、こうしたネットの役割はますます高まっていくと考えています。

牛窪 最近では、結婚後も夫か妻の両親の家の近くに住む「近接居住」が、20~30代夫婦の65%に達していて、平日でも3世代が一緒の食卓を囲むというシーンが増えていきそうです。ただその場合、かつての大家族とは違って、全員が同じものを食べるとは限りません。それぞれが自分の好みのものを食べるという食スタイルも広がっていくでしょう。

鈴木 それぞれが好きなものを持ち寄って大勢で会食するというニーズに応えていくことも、これからは必要ですね。

牛窪 鈴木さんは「競争相手は競合他社ではなく、お客様のニーズの変化だ」とおっしゃっています。私も同感ですが、そのお考えはどこから生まれてきたのでしょう。

鈴木 セブン‐イレブンを創業したことがきっかけです。セブン‐イレブンを日本で始めようと言った時、小売業の専門家や学者、マスコミから、「うまくいくはずがない」と言われ続けました。なぜなら、コンビニで品揃えできる商品はどれもスーパーで売っている商品で、店舗面積の小さいコンビニでは品揃えに限りがあり、価格競争をしても勝てるわけがないからです。それなら、お客様のニーズに合った商品を自分たちでつくるしかないと考え、創業から今日にいたるまでずっとオリジナル商品の開発に力を注いできました。

牛窪 トップを走り続けることはたいへんではありませんか。

鈴木 私たちはつねに先頭を走ってきたので、競合他社を追い越そうという考え方ではなく、お客様のニーズをつねに見続けるということが自然に身につきました。他社との競争なら、追い越した時点がゴールになりますが、お客様のニーズは変化し続けるのでゴールはありません。それゆえ、自分たちの競争にはゴールがないという考え方も、自然に身についたように思います。
 今日は、PB開発や今後のビジネスについていろいろとヒントをいただくことができました。お忙しい中、ありがとうございました。

  • 全3ページ
  • 1
  • 2
  • 3