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[対談] イノベーションの視点

PBは他にはない「価値」の提供が最も大切なポイント

鈴木 100円ショップをはじめ、今成功しているのは、独自に商品開発を進めてきた企業ばかりです。小売業が、問屋さんから既存の商品を集めて売るだけでは、時代のニーズに対応することはできず、独自の商品開発によって今までにない商品を提供していかなければお客様に支持されません。私どもセブン&アイグループでも、セブンプレミアムやセブンゴールドをはじめとしたPB商品、オリジナル商品の開発に力を注いでいます。こうしたPBについてはどうご覧になっていますか。

牛窪 私は食品メーカーさんと仕事をさせていただく機会も多いのですが、NBの商品開発の現場では、コスト削減のために新しいことに挑戦できないなどの不満や閉塞感も生じています。そういう環境の中で、セブンプレミアムやセブンゴールドのように、新しいものや品質にこだわった商品をつくるというのは、メーカーさんにとっても得がたい機会になっているのではないでしょうか。PBを通じて、貴社がつねに新しいことに挑戦を続けておられることに大きな意味があるように感じます。

鈴木 私は数年前、サントリーさんのトップの方に、「御社でつくれる最高の品質のビールをつくってください。全部買い取って販売しますから」とお願いしました。その方は、そういう要望は初めてだと、最初はたいへん驚いていましたが、そこから上質ビールの取り組みがスタートしました。当初は3カ月で売り切る予定でしたが、実際に販売を始めたら1カ月で完売してしまいました。これにはメーカーさんも驚いていましたね。

牛窪 メーカーさんにとって、新しいことに挑戦する大きなチャンスになったわけですね。お客様の中でもかつては、NBの代替商品というとらえ方だったのが、私たちが消費者インタビューなどを繰り返すと、PBをすでにブランドの一種ととらえていることがわかります。PBだから安いとか、品質が劣るという認識ではありません。
 また、PBを購入する時の比較対象が必ずしもNBとは限りません。たとえば、セブンプレミアムの惣菜を買う場合など、外食に比べてセブンプレミアムを買って家で食べた方が、味に対する満足感や、品質面での安心感、割安感もあるという考え方だったりします。

鈴木 そういうPBに対するお客様の認識の変化を、まだ多くの人たちは理解していないように感じます。マスコミの記事などを見ても、PBはNBより安いが質が劣るという過去の考え方から脱け出せず、NBよりもPBの方が高いのはおかしいというような論調さえ散見します。しかし、PBにとって大切なことは、価格がNBより安いか高いかではなく、お客様に満足いただける絶対的な品質の高さです。PBの持つ価値に対して「この味でこの値段なら安い」と安さを感じてもらうことは必要ですが、それには「品質が高い」ことが不可欠です。セブンゴールドのカップ麺も、メーカーさんのトップの方に「最高の品質のものを」とお願いして開発したのですが、NBのカップ麺より価格が高くても、お客様から大きなご支持をいただいています。

メーカーとともに味・品質を徹底追求

牛窪 セブンプレミアムの食品は、どれもおいしいという定評があります。消費者の味覚は多様化しつつありますが、その味はどんな方法で決めていかれるのですか。

鈴木 各商品の担当者はメーカーの開発担当者の方とチームになって商品づくりを進めていますが、さまざまな味の要素を数値化し、おいしいと評判の専門店の味と比べるなど、いろいろな角度から検討を重ねています。できあがった試作品は、できる限り私をはじめ役員が試食するようにしています。専門的な知識を持っているわけではありませんが、食品などは、私自身がおいしいと感じられるかどうかを一つの指標にしています。

牛窪 味に関するディスカッションは、現場でも相当されるし、また鈴木さんご自身も試食でいろいろな意見を言われるわけですね。

鈴木 私が納得できない商品を店頭に並べるわけにはいかないという思いから、納得がいくまで何回でもやり直してもらいます。冷し中華を発売する際は、実に12回目にしてようやく販売のゴーサインを出しました。
 また、最初の頃は、メーカーさんの中には、PBをつくることや、会社名を明示することに躊躇されるところもありましたが、セブンプレミアムの品質に対するお客様の認知度も上がり、最近ではメーカーさんの方から「一緒に商品開発を」と声をかけていただけるようになりました。

牛窪 現在のような消費環境では、家計支出の切り詰めには、食費をまず切り詰める傾向にあり、これは若い世代ほど顕著です。このことは、セブンゴールドのような商品の利用頻度を上げてもらうのが難しい環境のようにも思いますが、この点をどうお考えですか。

鈴木 やはり、絶対的なおいしさの提供ということが最も重要だと思います。セブンゴールドなら、どれも専門店と同等以上のおいしさがあると、安心してお客様にご利用いただけるようになることが大切です。
 また、「安さ」という点では、かつては同じ価格なら量を増やせば「安い」と感じていただけました。しかし、今は少子高齢の時代で、お客様は量が多いということに魅力を感じるわけではありません。むしろ、単身世帯や2人世帯が増加して、量が少ない商品が求められています。ですから、同じ価値がある商品なら、量を減らして価格を安くするとか、同じ価格なら質を上げるなど、さまざまな方法があると思います。要は、その時々のお客様の心理を読み続けることが重要です。

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