いま、「考動」力が感動の輪を広げ新しい時代の流れを切り拓く
HOST
セブン&アイHLDGS.
CEO兼会長
鈴木 敏文
GUEST
東海大学体育学部 准教授 日本陸上競技連盟理事・強化委員長
高野 進 氏
(たかの・すすむ)
1961年 静岡県生まれ。
1980年 東海大学入学、1982年 日本代表としてニューデリーアジア大会400mで金メダル獲得。1984年 ロサンゼルスオリンピック400mでベスト16進出。1987年 東海大学大学院修了後、1988年 東海大学体育学部講師に就任。同年 ソウルオリンピック400mでべスト16進出。1992年 バルセロナオリンピック400mで8位入賞。1995年アリゾナ大学留学、翌1996年に帰国後、東海大学体育学部講師兼陸上部コーチに就任。2001年 東海大学体育学 部助教授(現准教授)に就任。この間、末続慎吾、宮崎久など、世界で活躍する有力選手を育成。現在に至る。現、400m日本記録保持者。
2009年2月収録
鈴木 高野さんは、ご自身400m走でロサンゼルス、ソウル、バルセロナとオリンピック3大会に出場され、バルセロナでは日本選手として60年ぶりとなる決勝に進出されるという成果をあげられました。また、その後、陸上競技の指導者としても活躍され、日本の短距離界を代表する末続選手などを育てられました。私も実は高校生時代に陸上部におりまして、その後も陸上競技にはずっと関心を持ってきました。当時は100mで12秒を切るのがやっとでしたが、長野県大会に出場した思い出があります。高野さんが、陸上競技を始められたきっかけは何だったのですか?
高野 私は、静岡と山梨の県境の山村で生まれまして、小学生の時に転校したのですが、田舎で育ったというコンプレックスがあってずっと転校先になじめませんでした。ただ、足が速かったので、走っている時は周りからも注目されて、自分でも楽しいというような経験がありました。それで、中学校では陸上部に入り、高校に進学する時には先生に勧められて、陸上競技の強豪校に行きました。高校時代にはいろいろな種目をやらされて最終的に400mに落ち着きました。しかし、当時400mというのは世界とのレベルの差が、短距離走の中でも最も大きかったですし、人気もない種目でした。それでも走っていると記録が出るようになったので、だんだんと面白くなりました。
ですから、自分から積極的に選んだというより、受け身で始めたという感じです。ただし、いったん始めたら適当にというのではなく、与えられた環境に対して積極的に立ち向かってきました。これを自分では「ポジティブ・ノンレジスタンス=肯定的な無抵抗」と呼んでいます。生きていく過程では、さまざまな環境に置かれるわけですが、それを肯定的に受け入れて、自分から一歩前に踏み出していく、そうすることで世界が広がっていくのだと思います。
鈴木 それはたいへん重要なことですね。最初は誰かから与えられたテーマや仕事でも、「やらされている」と感じて取り組んでいるのと、自分から興味を持って先へ先へと切り拓いていくのとでは、結果がまるで違います。
私たち小売業では、天候の変化、流行など、いろいろな要素が日々変化していますから、毎日お客様のニーズも変わっていきます。そういう変化に合わせて売場も商品も変えていかなければ、お客様に買っていただけません。毎日新しいことに挑戦し続けることが重要になっています。それには、高野さんがおっしゃられるように環境を受け入れて、その中で関心を持って自分から前に前にと進んでいくことが必要です。しかし、それを持続するモチベーションは、どこから生まれるのですか。
高野 まず流れに乗ってみると、この流れの先はどうなっているのだろうという好奇心が生まれるものではないでしょうか。その好奇心を原動力にして前に進み、先頭に出ると今度は自分が流れをつくる立場に立てます。流れをつくるという意識で行動すれば、そこに周囲の共感も集まり、協力してくれる人も出てきて、おのずと自分の流れの幅や奥行きが生まれてくるように思います。
私は自分で考えて行動することを「考動」と言っています。動いて考えれば、動きも巧みになってきて、周りから認められるようになります。そうすると自分の行動が「公動」になり、自分でも面白くなってきます。それが持続へのモチベーションになってくるのではないでしょうか。
鈴木 なるほど、自ら考えて行動に移すということは大切ですね。それによって、周囲に働きかけていけば、周囲も変わっていく。それが再び自分自身への刺激になって、次の興味や意欲が湧いてきます。それは私たちの商売にも通じることです。しかし、考えて動くという場合でも、独り善がりになってはいけませんね。私たちの商売では、独り善がりになって商品やサービスを提供していたのでは、押しつけになってしまい、お客様には決して喜ばれません。お客様のニーズの変化に対して、自分たちで仮説を立てて新しい商品やサービスを提供し、お客様の反応を検証することで、さらに私たちは次のステップへと入っていく、そういうサイクルを重視しています。高野さんのおっしゃる「公動」にしていくには、やはり独り善がりにならないように注意する必要がありますね。
高野 おっしゃる通りです。自分でアウトプットしたことを、もう一人の自分がアンテナをもっていてとらえ返すことが大切です。「行動する自分」と「自分を映し出す自分」、二人いないと間違えてしまいます。それとともに、自分にとって都合のいい人とばかり行動していると間違いを起こしやすいですね。自分の近くに、自分にとっては理不尽と思われるようなことを言う人を置いておくことも重要です。