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[対談] ブレイクスルーのヒント

ライフサイクルはますます短くなりいまや「ペンシル型」に

鈴木 商売を続けているとどうしても経験に縛られてしまいがちです。その結果、去年のこの時期はこれが売れていたから、あるいは昨日はこれが売れたから、というように過去の延長でしかモノが見られなくなります。しかし、現在のように消費飽和といわれる時代は、以前のように毎年決まったものが売れるわけではありません。7月のこの時期だからこの商品が売れる、という考え方ももはや通用しません。過去の経験に頼っていると、お客様のニーズからズレていってしまいます。

髙島 おっしゃるとおり、昨日と同じものを売っていたのではお客様に飽きられてしまいますので、Francfrancでは定番という考えはありません。年間に3割は商品を入れ替えて、新陳代謝を図っています。
商品開発の担当には、商品の改廃を行う時に、少し色を変えたとかサイズを変えたといった、現在のAという商品をAダッシュにする程度の開発は認めないと言っています。AをかならずBなりCなりにしていくような革新を続けていかなければ、お客様に飽きられてしまいます。

鈴木 お客様のニーズは、短い期間でどんどん変化していて、商品のライフサイクルも短くなっていますから、いかに新しい魅力をもった商品をお客様に提案し続けることができるかが重要ですね。私は以前、商品のライフサイクルは富士山型から茶筒型に変化したと言っていました。つまり、高度成長期は、商品が売れ始めてからしばらくしてピークを迎え、そこからだんだんと売れ行きが落ちていくというカーブを描いていたのですが、それが90年代には売れ始めたと思うとすぐにピークに達して、しばらくするとぱたっと売れなくなりました。ところが最近ではピークの期間がさらに短くなり、ペンシル型になってきたと感じています。それだけ一つの商品のライフサイクルが短くなり、人気商品の交代が激しくなっています。ですから、よそで売れているのを見てから仕入れていたのでは、ニーズがピークの時に売り逃しを起こし、ピークを過ぎてから売場に商品が大量に入ってきて売れ残ってしまいます。この売り逃しと売れ残りの両方のロスをいかに解消するかが、現在の大きな課題です。

髙島 まったく同感です。商品が大量に売れたので追加発注したら、その分が入荷した頃はもうお客様の関心は別の商品に移っていて、大量に売れ残るというケースがありがちです。ですから、どの辺がその商品のライフサイクルのピークかを見極め、旬のうちに売り尽くすようにしています。また、商品によっては、初めから5000個だけ売ると決めて追加発注しないものもあります。お客様はつねに新しいもの、楽しいものを求めているので、それに応えるにはどうしたらいいかを考えなければいけません。

お客様の心理をとらえ商品やサービスとして具現化する

鈴木 現在の商売では、そのようなお客様の心理をしっかりととらえていくことが重要です。不況だからといっても、お客様は安いものを求めているのではなく、新しい価値を求めています。今のお客様は単に安いというだけでは満足していただけません。原料価格の高騰による影響で、さまざまな商品の値上げが続いている中で、最近は価格を抑えたプライベートブランド(PB)商品に注目が集まっています。しかし、PB商品も単に価格が安いものを出せばいい、と考えていては大きな間違いです。私たちセブン&アイHLDGS.では、昨年から食品を中心に「セブンプレミアム」の発売を開始しましたが、この開発にあたって最も重視しているのは、安全・安心、味と品質です。そのうえでお求めやすい価格を追求して、お客様の立場に立った「価値」の実現に取り組んでいます。
髙島さんはデザインというコンセプトで、付加価値の高い商品提供を進められていますね。

髙島 私たちは「VALUE by DESIGN」という理念を掲げています。ここでいうデザインというのは、単に商品の形だけではなく、サービスやお客様とのコミュニケーションなどすべてを包含する、会社の芯ともいうべき考え方です。デザインは、商品に付加価値をつけ、お客様の満足を引き出し、さらに収益性の高いビジネスに導いてくれると考えています。

鈴木 トータルで、お客様に新しい魅力を提供し続けるということですね。どんなにいい商品を開発しても、その価値が店頭でお客様に伝わらなければお買い上げいただくことはできません。商品の魅力を伝える売場づくり、接客サービスまでが一体となることが重要です。

髙島 私は、Francfrancはつねに新鮮な「フレッシュジュース」だと言っています。私どもの店は、お客様の8割がリピーターで、月に1回は来店されるという方が多いので、1カ月間同じことをしていては飽きられてしまいます。ですから2週間くらいで品揃えも、売場も変えていきます。
お店とお客様との関係は人間関係によく似ていると思います。たとえば夫婦関係でもそうですが、つねに新しい魅力が見つからないと倦怠期を迎えてしまいます。この人はここが限界かと思われたら、そこで魅力が失われます。お店も同じで、いつも新しい魅力が見えて、気になる存在でないと飽きられてしまいます。

鈴木 そのためには、つねにお客様の心理を考え、お客様の立場に立ってニーズをとらえていかなければなりませんね。

髙島 そうですね。私たち売り手がお客様の潜在的なニーズを感じとって、具現化していかなければなりません。お客様にどんな商品がほしいかと直接うかがっても、お客様には具体的な答はありません。自分たちで仮説を立てて商品に落とし込み、それを売場で検証するというサイクルで潜在的ニーズに接近していくしかありません。
われわれにとって一番大きな投資は商品です。私は、マーチャンダイジングというのは、ポートフォリオ(※)という感覚を持って取り組まなければならないと思っています。ロジカルにとらえ、投資とリターンという観点をもって、どれだけキャッシュを回転させるかを考えることが重要です。

  • ※ポートフォリオ=資産管理(さまざまな資産をまとめて管理すること。投資のリスク回避と収益性のために資産を1カ所に集中させずに分散投資し、資産の運用を図るという意味でも使用される)
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