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[対談] ブレイクスルーのヒント

お客様の心理に潜む期待を「形」に変えて新鮮な感動を提供する

HOST

セブン&アイHLDGS.
CEO兼会長
鈴木 敏文

GUEST

株式会社バルス 代表取締役社長

髙島 郁夫 氏

(たかしま・ふみお)

1956年、福井県生まれ。1979年関西大学経済学部卒業後、マルイチセーリング入社。同社東京営業所長、販売促進部長などを経て、1990年同社の新規事業として子会社の(株)バルスを設立し、常務取締役に就任。1992年インテリア家具・雑貨小売店Francfranc第1号店「天王洲アイル店」開店。同年、(株)バルス代表取締役社長に就任。1996年(株)バルスをMBOにより取得し、2002年、ジャスダック市場に株式上場。2005年東証第2部に株式上場、2006年に東証第1部に指定替え。

2008年8月収録

コンセプトを明確にした店づくりでお客様に働きかける

鈴木 髙島さんが経営されているバルスは、Francfrancをはじめとした小売業だけでなく、いまや洗練されたデザインの家電を提案するプロダクツ事業や、住宅や店舗などの空間デザインを手掛けるスペースクリエイト事業などを展開されていらっしゃいますね。まず、そのバルスという会社を興された経緯からお話しいただけますか。

髙島 私は、もともと家具メーカーに勤めていて、家具専門店や百貨店などに商品を卸すルートセールスをしていました。その中で次第に、家具業界の仕事というのは、消費者の意見が反映されていないのではないか、プロダクトアウトになっているのではないかと強く感じるようになり、自分なりにお客様の声を反映したビジネスをしたいと思うようになりました。そこで、在籍していた家具メーカーの子会社としてバルスを起業し、1992年の7月にFrancfrancの1号店をオープンしました。
当然、家具を売ろうと考えたのですが、業界では、人は一生に3回しか家具店を訪れないと言われていましたので、まずお客様にお店に来ていただくために、雑貨や小物を置くことにしたのです。雑貨によって日常的に店に親しんでいただき、いざ家具がほしいという時にFrancfrancという店を思い出してもらおうと考えました。

鈴木 その頃、家具店というと、リビング、ダイニング、キッチン、寝室などあらゆる家具を揃えた大規模な店舗が主流だったと思いますが、それに伍して成功するための何か秘策のようなものも考えておられたのですか。

髙島 おっしゃる通り、当時の家具店というのは、大規模な店舗を構える傾向が強かったのですが、私はその点にも違和感がありました。そのため、まったく別の方向性をもった店づくりを考えていました。明確なコンセプトをつくり、それに沿ったテイストの商品だけを揃えることで、お客様にはっきりと私たちの店のメッセージを伝えることを重視したのです。
Francfrancという店は、「カジュアル・スタイリッシュ」というコンセプトのもとで、25歳の都会に住む一人暮らしの女性をターゲットとして、品揃えをしました。それで、新しい店舗のコンセプトをしっかりとお客様に伝えることができたのだと思います。その後、「BALS TOKYO」など新しい業態を興す時も、まずコンセプトを明確にするという点を大切にしてきました。

オリジナリティを持たなければ価格競争に巻き込まれる

鈴木 いままでの家具店とはまったく違うところから発想されたのですね。

髙島 私は同業がどうかということはまったく考えませんでした。ですから、会社を設立してから十数年間、外部の人とはほとんど会うこともありませんでした。まず自分たちの土俵をしっかりとつくることに専念して、独自の世界を探求し続けてきました。そして、自分たちのお客様がどう判断してくださるか、それだけを見てビジネスに取り組みました。

鈴木 私もこれまでずっと、われわれの競争相手は決して同業他社ではない、日々変化を続けるお客様のニーズなのだと言い続けてきました。ですから、イトーヨーカドーで業務改革をスタートさせた当初、80年代の前半は、MR(マーケットリサーチ)と称して社員が他社の店を見に行くことも禁止しました。人は、何か見てしまうとどうしてもマネをしたくなるからです。高度成長期には、百貨店や専門店の流行が、しばらくするとスーパーでも流行するというタイムラグがありました。ですからイトーヨーカドーでも、百貨店で売れているものを見てから、似たようなものを仕入れて、百貨店より安い価格で売り出せば売れました。しかし、80年代以降は、商品のライフサイクルがどんどん短くなって、よその店を見てから仕入れていたのでは、ニーズのピークに間に合わなくなりました。それで、よその店の売場のマネをするのではなく、直接お客様のニーズの変化と向き合うように、仕事の仕方を変えていくことを指導してきました。

髙島 自分たちの土俵をしっかりとつくらないと、他社と激しい競争をしなければなりません。しかし、自分たちのオリジナリティのある商品や店づくりができれば、競争に巻き込まれずに済みます。今では、Francfrancの7割がオリジナル商品になっています。

鈴木 セブン‐イレブンも、設立当初からオリジナル商品の開発に力を注いできました。どこでも扱っている同じような商品を品揃えしているだけでは、価格競争に巻き込まれてしまいます。いかに自分たちだけの価値のある商品を品揃えして、他社と差別化できるかが重要です。

髙島 私は、従来いわれてきたチェーンオペレーションの理論というものにも違和感がありました。たとえば、チェーンオぺレーション理論では「標準店舗面積」ということになります。しかし、それは会社側の理論であって、お客様には何の関係もないと感じました。お客様にとっては、30坪のお店であろうと、100坪のお店であろうと魅力的であるかどうかが重要です。あるいは、品揃えの仕方にしても、A、B、Cという商品を100個ずつ置くか、Aという単品を300個どーんと置いてアピールするか、それは店によって違うはずです。そのあたりは、どういう品揃えをすればお客様に魅力を感じてもらえるかを、各店舗でそれぞれ判断すればいいと考えています。既成の理論を鵜呑みにしないで、お客様が求めていることを汲み取ることが重要です。

鈴木 おっしゃるとおり、一律に考えるのではなく、一店舗一店舗がおかれている環境、商圏に合わせて、自分たちのお客様は何を求めていらっしゃるのかを、それぞれのお店がきちっととらえて対応していかなければなりません。セブン&アイ HLDGS.では、どの業態でも個店対応を重視した経営を積極的に進めています。1万2000店あるセブン‐イレブンの店舗も、一店舗一店舗がすべて品揃えも陳列も異なります。かつてのチェーンオペレーション理論では考えられないことです。そのように、いまの時代は、つねに見方を変えて考えることが求められていて、それができる人だけが伸びているように思います。

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