2017年11月 |
特集
先頭に立つ気概! 成都イトーヨーカドー
10年間で一人当たりGDPが4倍にも成長している中国・四川省成都市。
そこで1997年に開業以来、一貫して「お客様第一」を掲げ小売業の近代化と発展に取り組んで、成長を続けている成都イトーヨーカドー。変化も激しく、競合ひしめく中で、どのように成都市民から愛される店づくりをしているのかその事業戦略をご紹介します。
中国・四川省の省都が置かれる成都市。古くから中国西部地域の拠点として発展し、2000年に中国政府の西部大開発計画が始動すると、その開発拠点として重要性を高めてきました。2010年、米国の経済誌『フォーブス』が「今後10年で最も成長する都市」で成都市を世界ランキング1位に選出するなど、グローバルな注目度も高く、中心部は欧米、アジアの有力流通業が進出を続ける商業の激戦地です。一方で、市街地を取り囲む地域は、今も地下鉄や新たな高層住宅地、ショッピングセンターの開発が進んでいます。
この成都市の中心部に成都イトーヨーカドーの1号店、春煕店がオープンしたのは1997年11月。流通業の近代化と市民の豊かな生活の発展のために、四川省から要請を受けての出店でした。その後店舗展開を進め、今年1月に隣接する眉山市にオープンした眉山店を含め、現在は7店舗を展開。2016年度の成都イトーヨーカドー6店舗それぞれの3キロ圏内にある競合店舗の合計は90店舗以上に達します。厳しい競合環境の中、新規に出店する店舗が数多くある一方、撤退する店舗も多数。その中で成都イトーヨーカドーは、20年間にわたって着実に成長を続けてきました。
その成長力の源について、成都イトーヨーカドーの幹部社員が揃って指摘している点が、「誠実と信頼」という社是や「お客様第一」という考え方を、言葉だけではなく行動を通じて示してきたこと。成都イトーヨーカドーは約3500名の社員のうち日本人は16名のみ。中国人社員のトップに立つ黄亜美副総経理(副社長)は、こう言います。
「急激な経済発展が続く中、儲け第一主義でお客様を省みない会社が少なくないことも事実。その中で、私たちは言葉通り、お客様やお取引先との約束を守るといった、誠実な姿勢を一貫しています。それが、お客様やお取引先との強い信頼関係をつくっています」
その誠実な対応は、ビジネスだけでなく2003年のSARS(重症急性呼吸器症候群)発生時の安全・安心の打ち出しや2008年の四川大地震の際のいち早い営業再開といった社会の緊急時にも発揮されました。そうした緊急事態のたびに、地域社会だけでなく中国人社員と会社の信頼の絆も、より強くなったと言います。
成都市の消費市場の主役となっているのは、1980年代に生まれた30代のお客様。その9割は仕事を持っており、毎日の食事の支度などに時間をかけられません。そのために、食品では即食性にすぐれた商品へのニーズが高まっています。同時に、安全・安心や健康への関心も高く、お客様のニーズは、いまや日本やアメリカなどとまったく変わりません。こうしたニーズの変化に応え、売場では下味をつけたメニューセットや少量パックなどを豊富に揃え、飲み物や調味料などの関連販売とともに展開しています。さらに、同質化を防ぐためにも力を注いでいるのが自主開発商品です。食品フロアで目につくのが、品質と買いやすい価格を両立した「毎日伊藤」、より質を重視した「伊藤品質」といったプライベートブランド(PB)。それらは日常性を重視しながら確かな品質を追求した、いわば中国版のセブンプレミアム。さらに、安全・安心へのニーズに応える「顔が見える食品。」シリーズも独自に展開しています。
簡便ニーズに応えてレンジで調理できるメニューセットが並ぶ鮮魚売場。バラエティも豊富で、ケーキのように美しい彩りと盛り付けが印象的(高新店)。
「毎日伊藤」はリーズナブルな価格で日々の生活を応援するPB。
「安全・安心を訴求した『顔が見える食品。』などは、まず社員にその商品の持つ意義を理解してもらい、目立つ場所に陳列するなどお客様への訴求を徹底することで、お客様の関心を呼び起こしてきました」と黄副総経理。自主開発商品に限らず、新しいことへの挑戦は、社員たちの積極的な取り組みなしには成り立ちません。その意欲を引き出すためには、全員がベクトルを合わせて取り組めるようにすることが不可欠です。
「社員が判断に迷った時に、拠り所となる方針を明確に打ち出すことがトップの務めです」と樋口総経理。その方針を社員全員に徹底するため、毎週2回、各店では300〜400名の社員が集合して朝礼を開催し、会社の方針をダイレクトに共有するとともに、幹部が率先垂範することで、売場まで方針が徹底するように図っています。また、すぐれた成果をあげた社員を顕彰し、役職への抜擢や中国内や海外視察研修などの報奨をきめ細かく実施してきました。
「会社が人材育成に投資し続けてきたことで、社員自身がお客様に満足してもらえる接客や新しい提案などを行えば、自分の実績として評価されるということが浸透してきました。会社が明確な方針を出せば、その内容を自らの仕事に落とし込んで理解し、行動する社員が育ってきたのです」と今井誠董事長は言います。
「成都イトーヨーカドーは厳しいけれどやりがいがある会社。社員は皆誇りを持って働いています。社員の入れ替りが激しい中国で、創業以来、長年働いている社員が他社と比べても圧倒的に多いのは、その証拠です」と黄副総経理は評します。