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[対談] イノベーションの視点

「編集」の力でリアルもネットももっと面白くできる

大手出版社で数々のヒット作品を手がけ
現在、数多くの作家、クリエーターと連携して
新たなコンテンツを送り出している佐渡島庸平さんを迎え
リアルとネットを融合した新たなビジネスのあり方などについて
AR(拡張現実)を応用した作品などもご紹介いただきながら
示唆に富んだお話をうかがいました。

HOST

セブン&アイHLDGS.
会長兼CEO
鈴木 敏文

GUEST

作家エージェント/株式会社コルク代表取締役社長

佐渡島 庸平

(さどしま ようへい)

1979年生まれ。南アフリカで中学生時代を過ごし、灘高等学校、東京大学を卒業。2002年、講談社に入社。週刊モーニング編集部に所属し、『バガボンド』『ドラゴン桜』『宇宙兄弟』などの編集を担当。担当した作品の累計販売部数は5000万部を超える。2012年、講談社を退社。作家エージェント会社、株式会社コルクを設立。

四季報 2013年WINTER掲載

大きな変化の波に積極的に対応するために独立

鈴木 佐渡島さんは大手出版社で編集者として成果を上げられ、今は作家やマンガ家だけでなく、ITのクリエーターとも一緒に新しい世界に挑戦されているとうかがいました。私も出版界に多少関わりを持ってきましたの で、まず、現在の出版を取り巻く環境を、佐渡島さんたち若い世代の方は、どのようにご覧になっているかうかがいたいと思います。

佐渡島 電子書籍の登場をはじめ、今、出版の世界は大きく変化していますが、出版業界は、このままではその変化についていけないと感じています。出版社は本質的な価値を産み出す素晴らしい仕事をしているのですが、変化に対しては素早い対応ができていません。その一因は、不振に陥った原因を外部の問題に帰してきたからではないでしょうか。たとえば、読者の質が落ちたとか、たくさんの娯楽が生まれてきて、それに時間を奪われるようになったとか。しかし、今までも他の娯楽との競合などはつねに起こっていたはずです。

鈴木 おっしゃる通り、出版の世界は唯我独尊という面があって、世の中の動きに遅れてしまうということが、これまでもありました。私がトーハンに入社したのは、今から60年近くも前になりますが、その頃の出版界はまだ書籍や雑誌がどれくらい発行されているかという統計さえありませんでした。それでトーハンでは出版科学研究所をつくって、統計などの手法を取り入れて、出版マーケットの分析を始めようとしていたところでした。私は、その出版科学研究所の立ち上げに携わって統計学や心理学などの勉強もしました。
 昨今では、電子書籍も広がる兆しを見せていますが、出版業界は当初、あまり積極的に関心を持っていませんでしたね。

佐渡島 むしろネットの世界は、紙の本と敵対関係にあるように思われていました。しかし私は、リアルとネットは対立するものではなく、リアルを活かすためにネットが使える、そう考えて大手出版社にいた時に、ネット事業を積極的に進め、ネットを活用することで書店にある紙の本も売れるといった実績を上げました。それでも、さらにネットの活用を拡大しようとすると、必ず「紙の本が売れなくなる」という抵抗を受けました。これを繰り返していたら変化の波にのまれて、何もつくれない弱い産業になってしまうという危機感を持ちました。それで、現在の変化を積極的に取り入れたビジネスを成功させることで、出版界の人にも理解してもらうほかないと考えて、自分でベンチャーとして独立したわけです。これからの5年間は、出版界が過去100年間に経験したのと同じくらいの 変化が起こると思います。

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