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セブン&アイの挑戦

2018年11月

特集「リアル× デジタル」戦略を読み解く

「セブン&アイ・データラボ」の現在地。

前号(140号)では、<セブン&アイグループの「リアル×デジタル」戦略>の重要施策の一つとして、ビッグデータを活用してお客様の潜在ニーズや潜在マーケットにアプローチしながら社会課題解決を目指す「セブン&アイ・データラボ」の活動をご紹介しました。そこで今号では、同プロジェクトに参画いただいている3社の皆様にお集まりいただき、現状や課題、今後の展望などについてお話をうかがいました。(この座談会は、2018年10月10日に実施しました)

左から
・株式会社セブン&アイ・ホールディングス デジタル戦略部 執行役員 清水 健
・三井住友カード株式会社 統合マーケティング部長 佐々木 丈也様
・株式会社NTTドコモ スマートライフビジネス本部 プラットフォームビジネス推進部 マーケティング事業推進担当部長 川本 裕子様
・ANA X株式会社 顧客戦略部 企画チーム マネージャー 中野 洋平様

持続可能で豊かな生活を実現する〝顧客体験価値〞を提供する

清水6月のセブン&アイ・データラボの立ち上げから4カ月が経過しました。改めて各社様の参加の動機、目的などをお聞かせいただけますでしょうか。

中野お客様の日常生活に密着したいとの想いがありました。ご存じの通りANAグループでは、お客様に航空サービスを提供しています。当社サービスをご利用になる方とは一部のお客様を除いて多くの方々が非日常のご旅行での接点に止まります。より良いサービスのためにお客様お一人おひとりのことを深く理解する、コミュニケーション機会を増やすという観点では、自社だけでは限界があり、そこをブレイクスルーする意味で、セブン&アイグループ様と連携することにしました。

川本NTTドコモは、携帯電話ネットワークの仕組みを使用して、いつ、どんな人が、どこからどこへ移動したのかという、人口に関する統計情報を蓄積してきました。このデータを活用して自治体や提携企業様とまちづくりや防災計画、観光振興を推進していますが、より大きな目標――消費の活性化や社会課題の解決のためには、ANA様と同様「移動したお客様が何を必要としているか」という情報が必要になります。その点で、多様な小売ビジネスを展開しているセブン&アイグループ様と連携すれば、お客様の潜在的なニーズまで読み解くことができ、より効果的なアクションができると期待を持ちました。

佐々木「お客様が何を必要としているか」がわかる、という期待は私ども三井住友カードも同様です。現在、当社グループは約4300万人のお客様とお取り引きをいただいていて、年間12兆円以上のクレジット決済データを有していますが、決済情報だけでは、お客様個人の嗜好の変化はわかりません。「いつどこで何を買ったのか」、単品ごとに売れ行きを把握しているセブン&アイグループ様の知見が大いに参考になると考えました。

清水私どもの「いつどこで何が売れた」というリアルワールドでの情報にご期待いただいているのは大変ありがたいことです。一方で私どもも日々の消費動向は理解できても、各社様がお持ちの旅客動向や位置情報、決済情報などは持ち合わせておらず、消費社会全体から見れば偏りのあるデータと言わざるを得ません。こうした中、それぞれが持つデータを掛け合わせることで〝お客様がどのような生活をしているか〞、その中で〝何を欲しているか〞という分析をより高度化し、適宜適切にお客様のニーズを予測しながら新たな顧客体験価値を提供することで、お客様の持続可能で豊かな生活を実現すること。それがこのプロジェクトの大きな目的と考えています。

相互送客の可能性

川本顧客体験価値という点では、多分野にわたるデータを融合することで、消費の予兆をとらえた手を打つことができるのではないかと期待しています。たとえば当社で持っている子育て世代のデータを活かして、関連商品を販売する赤ちゃん本舗様が情報発信し、その反応を見ることで「求められている商品」を予見できるのではないかと思います。また、新生児の名前を検索した方の情報を活用すれば予兆をより精緻化できると思います。

中野当社では、若いお客様の獲得が経営課題の一つとなっています。そこで、ロフトに来られる若いお客様が買った旅行用品といったデータを活かして、初めての海外旅行や飛行機のご搭乗につなげていく手法を模索しています。自社のサイトや旅行代理店といった旧来のチャネルにこだわらず、データ・ドリブンの発想でお客様にアプローチしながら、他社様や社会とのWin-Win関係の構築に貢献できればと考えています。

佐々木旅行用品の購入データが航空会社の潜在顧客へのアプローチに有効活用されるのと同様に、そのデータは海外旅行に不可欠なクレジットカードを持つことにもつながります。これまではお客様がカードの申込書をわざわざ探しにいく必要がありましたが、そうした情報を共有させていただくことで、こちらからより積極的に提案することができます。

清水データを相互共有し、「相互送客」することで、一社では提供できない新たな顧客体験価値を創出することが当面の目標だと思います。この目標を実現できればストレスなくスムーズに、日常・非日常も境界なく個々のライフスタイルに合った生活ができるようになると思います。

中野セブン&アイグループ様はコンビニエンスストアから百貨店まで、日常生活に根差した多種多様な顧客情報をお持ちです。当社サービスをお客様にご利用いただく際にも、相互送客により連携された情報をもとにお客様の日常の趣味嗜好を理解したうえで、より良い顧客体験価値を提供できるのではないかと期待しています。

佐々木そこはポイントですね。多様な業態であるがゆえに、参加企業にとっては顧客の体験価値の幅を広げていくことができます。弊社はいろいろな企業と協業していますが、その点はほかにはない魅力です。その根本にあるのが、視点の違い。総合流通小売業が見る多様な顧客像と、我々が見る顧客像、その違いを知ることで新たなデータ活用への示唆を得ることができることが、このプロジェクト参加の大きなメリットだと考えています。

川本赤ちゃんから若者、壮年、シニアまで、ライフステージに応じた情報を活用できることも魅力です。当社はデータを有効活用してお客様に豊かな生活を提供するという大きな目標があります。それを実現するうえで、今回の協業は大きな基盤となると考えています。

佐々木私どもも、ライフステージの節目を重視してカードのグレードや特典を付与してきましたが、リアルな消費の場で何を買ったかという情報があれば、おすすめ施策の一段のレベルアップが期待できます。

清水当社グループでは複数業態を有する強みを活かし、お客様のライフステージに寄り添った価値を提供し続けることによる「ライフタイムバリューの最大化」を目指しています。そうした発想が評価いただけていることは大変うれしいですね。

データ連携に関わる課題

清水相互送客などの一貫したサービスをきめ細かく実施するためには個人を特定することが不可欠です。一方で、複数企業間でのデータ連携には課題が多いのも事実です。

川本ビッグデータ活用において利便性が高まる一方で、個人情報の取り扱いが難しい時代に来ています。海外の大手IT企業による情報流出の件もあり、お客様に積極的な個人情報活用の理解を得るのが難しい状況です。

佐々木私どもはカード会社という立場から、お客様の決済データを解析しながら保険など金融商品を含む多彩な商品をおすすめするダイレクトメールやeメールをお送りしていますが、お客様が「いらない」と思った瞬間、それらは「不要な情報」になります。本当にお客様が求める情報をいかにスマートにお届けできるか。そこが、今回のプロジェクトで乗り越えるべき大きな課題だと思います。

中野ご指摘の通りで、飛行機に乗られるお客様にとって、ご旅程に関する情報は除いて、ご自身に興味関心のない企業目線での情報が来ることに不信感を持たれる時代になっていると思います。当社グループのブランディングに沿った、お客様にとって快適なコミュニケーションがどうあるべきか、日々改善に向けた議論をしています。

佐々木今回のプロジェクトは、各社のデータを提供することによって得られる経済的・社会的対価をいかに共創していけるかが主たるテーマですが、同時に、個人情報の適切かつ安全な取り扱い方法についての勉強会もやっていただいています。その成果をふまえながら、どなたにも安心いただけるサービスをつくっていきたいですね。

インバウンドから地方創生へ

清水では次に、相互送客を超えて、各社様が具体的にどのようなビジネスを想定しているか、お話しいただけますでしょうか。

川本当社が掲げている一つのキーワードが「インバウンド」です。訪日外国人の方が増加しているのは皆さんご承知の通りですが、当社ではそうした方々が立ち寄る街やエリアの情報を調べることができます。ただし、先ほども言いましたように、実際に何を買っているかはわかりません。そこで、たとえば百貨店などの免税カウンターでの購買動向などと融合できれば、新しい商品開発やより効果的な店舗オペレーションに活かしていただけるのではないかと考えています。

佐々木インバウンド需要には私どもも大いに期待しています。2019年にラグビーワールドカップ、2020年に東京2020オリンピック・パラリンピック、その後には大阪万博構想もあり、2020年の消費額は8兆円という推計も出ています。こうした外国人の方は、カードをはじめとしたキャッシュレス決済というスタイルが主流です。日本は今、政府主導で国内のキャッシュレス化政策を進めていますが、これによりカード利用者とともに決済データが増加し、事業機会が高まります。そうなると、訪日外国人はもちろん、日本に住む人々も含めて、企業様と協働してより快適なお買物環境を提案できるのではと期待しています。

中野「データラボ」という仕組みは、オープンイノベーション――異業種・異分野がもつ経営資源を活かしてスピーディに成果を追求していくという目的の一方で、各社で異なるお客様像や個人情報の取り扱い方法を学び合い、それをビジネスや社会課題解決に活かしていくという、中長期の視点も併せ持つプロジェクトだと考えています。その中で、セブン&アイグループ様との相互送客に代表される各社様との協業により、若者の海外渡航需要の創出、「地方創生」というテーマで他社様とできることはないかと、関心を持っています。

川本地方を元気にするというのは私たち共通のテーマとなりますね。日本では今、過疎化が進んでいます。その中で一人ひとりが充実した生活を送るためには、どういったサービスが必要なのか。データを活用することで見えてくるものがあると思います。

清水実際、NTTドコモ様とは、いわゆるお買物難民の方々へのサービスの研究を始めていますね。商業施設へどんな頻度で行っているか、その手段は何か、そこで何を買っているのか、買えていないのか…そうしたデータの中から〝お買物の不便なお客様を便利にする〞という仮説を立てて、じゃあどんなサービスを提供すればいいのか、と。

川本ネットとドローンで商品を運ぶのか、リアルな移動店舗を提供するのか…いろいろ想定できます。

清水今、お話しいただいたように、データ活用を通じて本業の成長を追求すると同時に、各社様と協働して一社だけではできない社会課題解決を目指すというのがデータラボの存在意義だと考えています。

中野データ活用にせよ、相互送客にせよ、マーケティングは基本的に中長期の価値創造につながるものでないと意味がないというのは共通認識ですよね。

川本加えて、今回の取り組みできわめて有意義だと考えたのが、先ほども指摘がありましたが「仮説」の重要性です。「データを使ってください!」とアピールするだけでなく、「このデータはこうやって使えるのではないか」という仮説を立てることが重要であると改めて気づきました。

清水とにかく膨大なデータを突っ込めばAIとかで答えが出てくるだろう、というような発想はよくある誤解だと思います。この仮説を立ててPDCAサイクルを活用しながら健全な試行錯誤をしていくという行為はセブン&アイグループの成長を牽引してきた重要な要素で、リアルでもデジタルでも同様だと確信しています。

「日本を元気にする場」として

清水最後になりますが、取り組みを進めていくうえで、今後の課題や展望についてお教えいただけますか。

中野グローバルな航空サービスを提供してきた会社ですので、IT技術者はそれなりにいますが、マーケティング視点を備えた技術者、いわゆるデータサイエンティストといった領域での専門人材は社内でも圧倒的に不足しているという課題があります。

佐々木そこは当社も同様で、走りながらスキルと知識を習得している、という状況です。また、経営的には人的リソースの確保は先行投資になりますので、そのあたりの社内コンセンサスづくりも課題の一つと言えます。

清水人材という意味では、まさに我々も同様の悩みを抱えており、外部の人材や知見を大胆に活用することで、これを乗り越えることができないかと思っています。データラボという形でこれだけの企業の皆様にご参加いただいているので、各社共通の悩みごとについても、解決に向けて知恵を結集できるといいなと思います。

中野そのコンセプトは人材に関しても創出するサービスに関しても共通ですね。私自身、社内にいる時は、内向きな発想になりがちで「成長中の旅行系予約サイトと当社サイトの位置づけをどのように共存させるか」と悩んだりしますが、ここでは、皆さん「一緒に日本を元気にしましょう」という発想で大胆なビジネスモデル変革を真剣に検討されている。交通インフラはそのベースとなる社会インフラでもあり、まさに我々自身が社会的意義を果たす取り組みを通じて元気をもらえる場所だと思います。

川本そこは各社さんとも同じですよね。大きな社会課題、経営課題を抱える中で協働して日本を、世界を変えていきたい、その想いは共通しています。

清水皆さんの熱い想いをふまえながら、今後もセブン&アイ・データラボというプラットフォームを活用して活発な議論を推進し、果敢なチャレンジ精神を持って大胆に仮説を立案しながら、日本企業の競争力向上や社会課題解決につなげられるよう努めてまいりたいと思います。
 本日はありがとうございました。


オープン・イノベーションという枠組みとデータ・ドリブンの発想で、自社の経営課題を解決すると同時に、他社様や社会とのWin-Winの関係を構築していきたい

ANA X株式会社 中野様

多様な業態を持つセブン&アイグループ様との協働で「お客様が今、何を必要としているか」が見えてくる。そこで得られる予兆をとらえた的確な情報とサービスを提供することで顧客体験価値を最大化していきたい

三井住友カード株式会社 佐々木様

地方を元気にするというのは私たちの共通テーマ。一人ひとりが充実した生活を営めるよう、一社だけではできない、課題解決に向けた仮説を立てて社会価値を創造していきたい

株式会社NTTドコモ 川本様

膨大なデータを融合すれば答えが出てくるというのは、いわば幻想。「仮説」に基づいて課題解決するという姿勢はリアルでもデジタルでも不可欠だと思います

株式会社セブン&アイ・ホールディングス 清水


「セブン&アイ・データラボ」とは

グループ内外の多様な事業会社、研究機関などとビッグデータの連携を図り、データ分析などを通じて新たなビジネスチャンスの創出や社会課題の解決を目指すプロジェクト。2018年6月、10社以上の多彩な企業 の参画を得てスタート。

参画企業グループの主な情報資源 〔三井住友カード株式会社〕・SMBCグループの顧客基盤4,300万人 〔株式会社NTTドコモ〕・契約者数7,600万人・LTE基地数18万5千カ所 〔ANA X株式会社〕・利用客数国内4,415万人・海外974万人/年・ANAマイレージ会員数3,268万人 〔株式会社セブン&アイ・ホールディングス〕・国内約22,000店の店舗ネットワーク・1日当たりの来店客数約2,300万人

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