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セブン&アイの挑戦
サプライチェーンの中に潜む「負」を追放する

お取引先と協調の輪を広げ食品ロス削減へ(2)

2023年2⽉

お取引先とともに進化を目指すSCPF

小容量のお惣菜・サラダ「カップデリ」
小容量の惣菜・サラダ「カップデリ」では、製造工場の盛りつけ場を10℃以下にする、調理器具に加熱蒸気オーブンを活用して飽和水蒸気をあて、冷却後すぐに食材に合わせた独自のガスを充填し、トップシールを貼るなど温度管理や工程を工夫し長鮮度化を実現しています。

石橋 2015年から2020年までの5年間で事業系の食品ロスは357万トンから275万トンになり、約82万トン減っています。また、家庭系の食品ロスも289万トンから247万トンへと約42万トン削減されています(※1)が、今後さらに削減していくには、やはり技術革新が必要です。たとえば、セブン‐イレブン・ジャパンでは、素材や製造工程、温度管理を見直すことで、味や品質を落とさずに従来よりも長い消費期限を可能にしています。主力商品のお弁当をはじめ、惣菜やパン類でも長鮮度化に取り組むことで、店舗での食品ロス削減につなげています。カルビー様も商品の品質を向上させながら、賞味期限をもっと延ばそうと取り組まれており、ポテトチップスなどは以前に比べるとかなり賞味期限が延びています。それぞれの立場でできることがいろいろあると思いますが、飲料の場合はいかがですか。

  • ※1 出典:農林水産省 食品ロス及びリサイクルをめぐる情勢(令和4年8月時点版)

西村 私どもでは、新規商品の展開が多いのですが、新商品の場合は売れ行き予測が難しい面があり、メーカー、卸、小売と各工程において廃棄につながる場合もあります(図2参照)。廃棄を減らすには、新商品の販売予測精度を高めていくことが不可欠と考えています。その観点から、2022年よりセブン&アイグループ様でも本格的にスタートしたサプライチェーンプラットフォーム(以下、SCPF)の取り組み(図3参照)を歓迎しています。とりわけ注目しているのは、販売実績や物流データを共有し、これを分析していくことで新商品の販売予測の精度アップにつながるという点です。

図2 フードサプライチェーンと食品ロスの主な原因

フードサプライチェーンと食品ロスの主な原因

※出典:農林水産省 食品ロス及びリサイクルをめぐる情勢(令和4年8月時点版)

図3 サプライチェーンプラットフォームのイメージ

サプライチェーンプラットフォームのイメージ

石橋 一例として、従来、セブン‐イレブン・ジャパンではお取引先情報システムの開示を行っていましたが、これはご契約いただいたお取引先限定で、自社商品のみ販売実績を閲覧できる仕組みでした。2022年にスタートした当社グループのSCPFは、ご希望いただいたお取引先すべてに、他社商品を含む商品の販売実績をご覧いただけるようになっています。またデータのダウンロードやAPI連携(※2)をすることで、ご利用いただくお取引先でデータを加工して、売れ行き予測や生産計画などに活用いただけます。すでに、22社のご参加を得て、販促計画や売れ行き予測の精度向上などに役立ったとか、ムリ・ムラ・ムダのない物流計画に役立っているといった声をいただいています。

  • ※2 APIとは「アプリケーション・プログラミング・インターフェース(Application Programming Interface)」の略称。ソフトウェアやプログラム、WEBサービスなどの間をつなぐインターフェースのことを指す。APIを連携することで、アプリケーション間やシステム間でデータや機能を連携し、利用可能な機能を拡張することができる

西村 定性的な情報ではなく、定量的なデータが入るというのは、売れ行き予測の精度アップなどに大きな効果があります。蓄積されたデータでの比較分析も可能になるほか、データでご提供いただくことにより、解析結果を生産計画に反映するスピードもアップしました。また、販売の予測精度も向上し、食品ロス削減にもつながります。この予測精度をさらに高めていこうと社内でも力を注いでいますが、過去のデータだけで販売予測モデルの精度を高めていくには限界があります。我々が発売する商品に関連する競合商品の新商品やプロモーションの状況によっても販売動向は変化するため、そのあたりの情報をいかに収集できるかが、一つの課題になっています。もちろん、セブン&アイグループ様も情報の提供にあたり、お取引先とのコンプライアンス上の問題などクリアすべき課題が多々あると思います。それをふまえたうえで、SCPF上で実績データとともに、将来の販促計画などのデータが共有できるようになればと期待しています。


石橋 現在のSCPFは第一ステップということで、当社グループの過去データを開示し、他社様の販売実績もご確認いただけるようにしました。どのように商品の動向があるかをまず見極めようという段階だと考えています。同時に、蓄積してきた販売実績についてAIで解析しながら、最終的には売れ行き予測に結び付ける仕組みにしたいと考えています。ただ、新商品の場合は販売実績のぶれ幅も非常に大きく、予測精度が高いものもあれば、予測と実績の差が大きいものもあります。そういったデータを蓄積する中で、メーカーの皆様にご利用いただけるようなデータのあり方もだんだん見えてくるのではないかと考えています。
 西村さんがご指摘になったように、コンプライアンス上、この月にこのメーカー様が、こういうキャンペーンを実施するという情報をそのまま流すことはできませんが、このキャンペーンを実施するとこういう商品に影響が出るというような傾向を、情報の積み重ねから少しでもつかむことができるようになるのではと考えています。新商品の販売予測精度を高めるというメーカーのニーズが大きい点をふまえて、システムをつくっている部署と連携し、検討を進めています。

カルビー株式会社 営業企画本部 流通戦略部 部長 本田 健様

本田 現状では、他社様の今後の販促情報や商品発売情報をとらえようとすると、手作業でホームページやニュースリリースを確認して、一つひとつ調べていくという方法に頼らざるを得ません。この方法を刷新するには、メーカー間で紳士協定のようなものを設けて、情報を開示することも必要かと考えていましたが、SCPFという共通基盤の中に情報を集め、そこから得たデータで各メーカーが独自にAI解析を行い、予測につなげることは大変有効だと思います。小売業、メーカーの解析を照合することで、予測精度の向上にもつながるでしょう。
 販売実績データについては企業の垣根を越えて見られるようになったため、今後の展開など先々の情報も可能な範囲で共有し、互いに活用していく必要があると感じています。当社の営業責任者とも話し合ってきましたが、将来の販売計画などの情報を開示する時期については、他社様がその情報を見てから何か対応策をとろうとしても間に合わないようなリードタイムであれば良いのではないかという意見も出ています。他社様が対応できず、自社の生産計画には有効な対応ができるタイミングを考えていけば、情報開示も可能になるのではないかと思います。

石橋 そこに関しては情報開示のタイミングとともに、システムの仕組み自体で対応していくという方法もありそうです。たとえば、SCPFのサーバーに完全なセキュリティをかけて、情報を入力した時点では他社はそのデータを見られない仕組みができれば、早い段階で情報自体はアップして、それによって生産計画にアプローチできるのではないかという仮説を立てています。もちろん、これを実現するには合意が必要ですが。

西村 我々も社内でよく話すのですが、プラットフォーム内で新商品やプロモーションの情報が常に更新されていて、それに基づいた販売予測を行うことが理想的な姿だと考えています。セブン&アイグループ様のような大手小売業にリードしていただくことで、プラットフォームの理想が実現できるのではと期待しています。

SCPFの活用状況について
SCPFの活用状況について、すぐれた取り組み事例を共有し、お取引先と意見交換を行いました。

石橋 業界標準となるSCPFを構築していくために、まず我々がリードしていかなくてはならない、という思いを持っています。その意味では行政とも一体となってやっていく必要があると考えています。
 2022年の秋には、SCPF検証会を開催して、お取引先の皆様にもSCPFの活用状況などを発表していただきました。多くのメーカー様に活用いただくという点でも、良い事例があれば公表していただけるとありがたいですね。活用事例を積み重ね、企業の垣根を越えて共有財産を築くことで、SCPFを進化させていけると考えています。

西村 飲料はカテゴリーによって、初めにたくさん売れるもの、徐々に売れ行きが上がっていくものなど売れ方がかなり異なります。さらに、冷たいものと温かいものでも違いが顕著で、ホット飲料は徐々に売れていく傾向がありますが、コールド飲料は発売時に一気に売れ行きが伸び、その後徐々に落ち着いてくる傾向があるように思います。カテゴリーとホットかコールドかという組み合わせの中で、売れ行きの予測精度を上げていくことに苦労しているところではありますが、飲料カテゴリーとして有効な事例をつくり出し、セブン&アイグループ様のSCPFの飲料モデルとして他社様に共有できるようになればと考えています。

本田 どの業種も競争領域と協調領域があると思いますが、メーカーとしても協調領域の幅を広げていかないと、これから国際競争がますます激しくなっていく中で生き残ることができないと考えています。データの共有という点でも、協調領域をどこまで広げられるか考える必要があります。

商品の価値を磨くことが最も重要な「ロス防止対策」

石橋 本田さんがおっしゃるように協調領域という視点は大切ですね。とくに食品ロスの削減のように、社会課題への対応という点では、協調していくことで実現できることも多々あると思います。実際に小売業界では、食品ロスを含む環境領域についてフランクに話し合い、一緒にやっていこうという機運が高まってきたと感じています。直近では、経済産業省を中心に取り組んだコンビニエンスストア大手3社の共同物流などがありました。私は会議に出席させていただきましたが、3社が一つのテーブルに着いて、このエリアでこの商品から実施してみようというような対話ができるようになりました。食品ロスの削減という視点では、メーカー、卸店と協調していくことで、これまでお話に出た納品期限や賞味期限の表示、SCPFといった取り組みを通じて、生産から販売までのプロセス全体に存在するムリ・ムラ・ムダを排除できるという手応えも感じています。これに加えて商品に視点を置いた食品ロスの削減の取り組みという点では、何かありますか。

本田 食品ロスの削減という視点では、商品自体の価値を上げていくことが何よりも重要だと考えています。お客様に支持していただければ、ロスを生じさせずに売り切れるわけですからね。商品の生産から販売までのサプライチェーンを考える際に、お客様に価値を感じていただける商品をつくるにはどうしたら良いかという視点をしっかりと入れることで、真の意味でのバリューチェーンが生まれてくると思います。

石橋 まったく同感です。単品ごとの価値を高めて、しっかりと販売していくということが大切ですね。しかし、新商品を出して売場の活性化を図ると、知らず知らずのうちにアイテムが増えていくのが実情です。我々のセブンプレミアムでも、アイテム数が肥大化し、売れ行きが低調な商品も増えていきました。そこで、2021年からセブンプレミアムのアイテム数を絞って、主力商品の構成比を高めることに舵を切りました。主力商品1単品あたりの売上をしっかり伸ばしていくことで、食品ロスの発生を防ぎ、かつ生産性も効率化します。その結果、メーカー様ともWin-Winの関係を築くことができます。

本田 そのための基盤としてSCPFを活用していくという考え方は大切ですね。

石橋 一つの商品をつくる労力は、売れる商品でも売れない商品でも同じですが、売れない商品をつくると、発売後の業務がすごく増えます。売れ行き予測を間違えて売れ残りそうな場合は、みんなで知恵を出し合って、こういう売り方をしようと工夫を重ねることで食品ロス防止につながると思います。自分たちがしっかりと管理できる範囲で、商品価値を追求しながら新商品を出していくことが必要です。
 商品が売れ残って返品が発生すると、メーカー様やベンダー様としても、作業工数が増えて負担増になりますよね。期限切れの商品をお取引先にお返しする場合は、車両やドライバーも必要になるわけです。これは食品ロスとともに、CO2排出量の増加にもつながります。食品ロスを限りなくゼロにしていくことは、さまざまな面で環境負荷低減になっていくのではないでしょうか。

本田 そうですね。売れ残った商品を当社で引き取ってアウトレットや寄付に回すというケースもありますが、この場合は小売業様の在庫をいったん当社に戻して、アウトレットに持っていくので、やはり物流が発生します。そうするとCO2排出量の増加につながってしまいます。

コカ・コーラ ボトラーズジャパン株式会社 営業本部 チェーンストア企画部 部長 西村 大作様

西村 飲料メーカーとしても同じで、アウトレットに持っていくほか、社販するなど可能な限り消化することになります。セブン&アイグループ様の場合、コンビニエンスストアだけでなく、スーパーマーケットなど大型店もあって、グループ内で消化する取り組みもされていますよね。メーカーとしてはその分負担が減るので、大変ありがたいことです。

アウトレットコーナーやフードドライブの常設窓口を設置

石橋 我々のグループは、責任仕入れ、責任販売をグループの創業者である伊藤雅俊名誉会長の時代から厳しく言われてきたので、グループの力で商品を売り切ることを追求しています。コンビニエンスストアのセンターに残った商品をとりまとめて、スーパーマーケットのアウトレットコーナーで「わけあり商品」としてお客様に提供する取り組みも、メーカー様やベンダー様の合意をいただいて試行しています。グループの中にGMSやスーパーマーケットを擁していて、大量陳列で一気に消化できるのは、セブン&アイグループだからこそ可能な大きな強みだと感じています。また、数量がどのくらいあり、どこに在庫があるかを可視化できれば、フードバンクなど適切な寄付先を見つけることもできます。そのような仕組みづくりを行いながら、本日おうかがいした貴重なご意見も活かし、皆様と協力して今後もさまざまなロス削減に取り組んでいきます。
 本日は貴重なお話をお聞かせいただき、ありがとうございました。

経済産業省「サプライチェーン イノベーション大賞 2020」において優秀賞・特別賞を受賞

セブン‐イレブン・ジャパン
経済産業省「サプライチェーン イノベーション大賞2020」において優秀賞・特別賞を受賞

評価された取り組み

  1. 1オリジナルデイリー品の製造工場での衛生管理レベル向上による消費期限の延長
  2. 2配送センターにおける在庫処分費用の削減
  3. 3販売期限の近づいた商品にnanacoポイントを付与する「エシカルプロジェクト」

「サプライチェーン イノベーション大賞」とは、経済産業省が事務局を務める製・配・販連携協議会が、サプライチェーン全体の最適化に向けてすぐれた取り組みを行い、業界をけん引した企業を表彰するもの。上記3つの取り組みが評価され2020年の優秀賞、特別賞を受賞しました。
※賞の詳細はこちらよりご覧ください。