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セブン&アイの挑戦

~いま組織風土の革新と物販を超えた新たな価値創造へ~
「子育て総合支援企業」を目指す赤ちゃん本舗の挑戦リ・ブランディング

2022年8⽉

2022年、創業90周年を迎えた赤ちゃん本舗。これまでの歩みを振り返りながら、本年を「100周年に向かう10年の始まりの年」と定めた、赤ちゃん本舗の今後の展望と挑戦を味志社長が語ります。

創業90周年を迎えた赤ちゃん本舗

2022年、創業90周年を迎えた赤ちゃん本舗。これまでの歩みを振り返りながら、本年を「100周年に向かう10年の始まりの年」と定めた、赤ちゃん本舗の今後の展望と挑戦を味志社長が語ります。

創業90周年を迎えた赤ちゃん本舗

日々の仕事の拠りどころとなる「ブランディング」を追求して

株式会社 赤ちゃん本舗 代表取締役社長 味志 謙司
株式会社 赤ちゃん本舗
代表取締役社長 味志 謙司

1970年東京都生まれ。1993年法政大学経営学部卒業後、イトーヨーカ堂入社。2007年赤ちゃん本舗出向、2009年執行役員経営企画部長、2011年取締役常務執行役員管理本部長兼経営企画部長、2014年取締役常務執行役員販売本部長、2019年取締役常務執行役員営業本部長を経て2021年3月より現職。

1932年に創業した赤ちゃん本舗は、今年「創業90周年」を迎えました。セブン&アイHLDGS.の傘下に入った2007年以降、店舗網の見直しやインフラの整備、事業構造の適正化などの経営再建に取り組み、成長力を回復させてきました。現在は、国内124店舗(FC含む)を展開し、売上高791億円(21年度)まで成長しています。
 私たちが経営再建の一環として力を注いできたのが、リ・ブランディングです。お客様とのコミュニケーションや日々の仕事の拠りどころとなるものが、ブランドの全体像を描き出すブランディングの役割。このリ・ブランディングを通して会社の目指す姿や存在意義(パーパス)を従業員が共有し、組織風土を革新することが、新たな成長への基盤となってきました。
 リ・ブランディングに向けたプロジェクトは再建に着手した2007年から始動、2015年には企業理念を刷新し、新たなロゴマークとコーポレートメッセージを発信しました。これらの社内浸透を図るために従業員に向けたブランディングノートを発刊し、日常の仕事の中で、会社の目指す姿をはじめ企業理念やウェイ(仕事の姿勢)などを参照できるようにしました。
 リ・ブランディングは一過的なイベントではなく、変化に対応しながら永続的に進めなければならない取り組みです。しかしながら、5年先にどのような経営環境の中で自社がどうあるべきかという姿をイメージすることはできますが、数十年先を想像することは難しいでしょう。実際に、2020年からの新型コロナウイルス感染症の拡大などは、リ・ブランディングに取り組んだ当初は当然ながら想像していませんでした。ですから、数年ごとに見直しを行い、その時点の課題をふまえた明確なメッセージを社内で共有することが大切と考えています。

創業90周年を迎えた赤ちゃん本舗 創業90周年を迎えた赤ちゃん本舗

理念と日常の仕事を結ぶ「会社の強み」の定義

赤ちゃん本舗

 現在進めているリ・ブランディングの第2ステージは、2020年6月からスタートしました。第1ステージでは、リ・ブランディングで刷新した企業理念などが言葉として社内に浸透し、従業員の理解を得ることができましたが、日々の行動に落とし込むまでにはいたりませんでした。また、業績が伸長しないと、どうしても日々の仕事で成果を上げることに追われ、中長期的な目標であるミッション、ビジョン、バリューをいかに実現するかということへの行動は後回しになります。そこで第2ステージを始動するにあたり、第1ステージの失敗点を率直に認めることが重要であると考えました。
 しかし、第1ステージから第2ステージへ移る時期に、新型コロナウイルス感染症の拡大という大きな経営環境の変化がありました。ニューノーマルと呼ばれる新たな環境の中で、私たちはどのように会社を成長し、発展させていくのか。アカチャンホンポというブランドの魅力をどのように再構築していくのか。そこに、第2ステージの大きなポイントがあると考え、ブランディングノートの改編を行いました。2020年のコロナ禍による営業休止などが相次ぐ中で、いかに現場の仕事に根をおろしたブランディングを推進するかに議論は集中しました。その中で生まれてきたのが、「子育て総合支援企業」という赤ちゃん本舗の目指す姿を具体的にとらえ、その強みを言葉として明示するという発想です。『赤ちゃんのいる暮らしを知りつくしている。』という強みを定義した言葉は、ここから生まれました。もちろん、この言葉の背景には、赤ちゃん本舗がまだまだ「知りつくしている」とはいいきれないという現状認識があります。その中であえて「知りつくす」と揚言することで、知るための努力が生まれ、そこからさらにお客様との距離を縮め、お客様の困りごとや不便さなどの潜在的なニーズに目を向ける具体的な取り組みが生まれるのです。
 「知りつくす」の背後には、「知りつくすための努力を止めたときは、赤ちゃん本舗らしさが失われるときである」というメッセージがあります。この点を従業員一人ひとりが受け止め、覚悟を持って日々の仕事に取り組んでもらいたいという思いを込めました。このメッセージは、確実に従業員を動かしており、知るための方法や知ったことを日々の仕事に活かすにはどうすればよいかを模索し、具体的な取り組みも自発的に生まれ始めました。たとえば、社内ネットワーク上の掲示板の活用。各部署や従業員一人ひとりが集めた情報の中から、有用な情報を掲示板にアップする。マタニティアドバイザーという社内資格を持つ従業員が、接客中に得たお客様ニーズや困りごとの解決に役立つノウハウなどを掲示板にアップし、全社的に共有しています。また、助産師のみで発足したベンチャー企業「株式会社With Midwife」様と連携して、出産や育児に関してお客様が知りたいテーマ、たとえば分娩などについて専門的な知見に基づいた動画を作成・発信するといった取り組みも厚みを増しています。このような取り組みを重ねることで、従業員が日々の仕事に理念を落とし込む方法が徐々に見えてきました。

赤ちゃん本舗

リ・ブランディング プロジェクト

赤ちゃん本舗の企業理念

 創業以来の理念を刷新し、提供価値を再定義して理念体系を構築。この理念構築のキーワードが、「子育て総合支援企業」という自己規定(ポジショニング)です。

赤ちゃん本舗の企業理念

再成長のためのリ・ブランディング

再成長のためのリ・ブランディング
新中期経営計画(主要項目)

物販を超えて事業の拡充を図る「子育て支援プラットフォーマー構想」

 赤ちゃん本舗では、2025年度を目標年とする「新中期経営計画」を策定しました。これは、リ・ブランディングをベースとした体系立った経営の視座を据え、「戦略マップ」として計画を具現化するための施策を明示しています。その戦略マップの「顧客視点」という項目には、「研ぎ澄まされた付加価値がありアカチャンホンポに行きたい」「妊娠、子育ての“大変さ”や“不(ふ)”が解消する」「いつも私の近くで、 新しい価値が見つかる」という3つの視点を掲げています。たとえば、「その商品やサービスを目当てにアカチャンホンポのお店に行こう」とお客様に思ってもらえるような付加価値。そこには、リ・ブランディングで取り上げた「提供価値(機能的価値と情緒的価値)」の具体的な商品化のあり方が示されています。機能的な価値とは、商品の素材、機能などの点で、赤ちゃんやご家族の健康、快適で安全・安心な生活に直接役立つ価値のことを指します。情緒的価値とはお客様と関心や興味を共有して、お客様に共感や発見を提供し困りごとの解決に役立つなど精神的にもお客様の支援につながる価値のことをいいます。これらの視点をもとにMD(マーチャンダイジング)を拠りどころとしたオリジナル商品の強化などによって、赤ちゃん本舗の魅力と強みをよりいっそう強化していきます。
 さらに、新たな成長の基盤づくりの一環として、「子育て支援プラットフォーマー構想」を掲げています。これは、物販にとどまらず情報やサービスという領域での事業展開を進め、アカチャンホンポの魅力をよりいっそう高めるとともに、「子育て総合支援企業」としての提供価値をより進化させていく取り組みです。店舗だけでなく公式アプリなどDXを推進しながら、出産や育児でお客様が強く求めている情報の提供から金融サービスまで、トータルな支援の実現を目指しています。コロナ禍で営業休止などを余儀なくされ、物販に頼った事業構造では経営環境の変化に業績が左右されるリスクが明確になりました。さらなる企業成長のためには、新たな領域にも挑戦し、お客様との接点を広げていくことが不可欠です。リ・ブランディングでビジョン(目指す姿)として掲げた「子育て総合支援企業」を具現化していくうえでも、今後ますます重要性を増していくと考えています。
 「プラットフォーマー」とは、お客様が求めるモノやコトをトータルに提供していくため、外部企業と積極的に共創し、子育てに関する多様なニーズや困りごとの解決手段を提供する「場」となることを意味しています。物販を超えた多様な「子育て支援」を通じて、集客力を高める、これが新たな戦略です。

異業種企業とのアライアンスを通じて提供価値の最大化へ

 先にご紹介したWith Midwife様との取り組みをはじめ、異業種企業とのアライアンスを強化していきます。2022年春からは、食のサポートの一環として食品宅配大手オイシックス・ラ・大地様と組んだ、「Oisix with アカチャンホンポ」の展開もスタートしており、子育てファミリーに特化したサービス展開や商品の共同開発などを目指しています。そのほか、保険業をはじめとした金融関連事業とも連携して子育て世帯の経済面でのニーズにお応えするなど、赤ちゃん本舗だけでは提供できない新たな価値を、外部企業様との連携によって創出していく方針です。
 赤ちゃん本舗には、約200万人に上るポイントカード会員様がいらっしゃいます。このお客様は、ほかの小売業にはない当社ならではの特色として出産から子育ての最中という属性が明確です。このことから、従来もさまざまな外部企業様から連携のお話をいただいていましたが、なかなか実現にはいたりませんでした。しかし、お客様との接点を物販に限定せず、ネットなどあらゆるチャネルに目を向ければ、異業種の皆様との価値共創によって当社のみでは不可能なコンテンツを提供する機会が広がると認識を改め、異業種企業とのアライアンスの取り組みを積極的に推進しています。

100周年に向かう10年の始まりの年

株式会社 赤ちゃん本舗 代表取締役社長 味志 謙司

 SDGsの取り組みは、いまや企業経営に欠かせない視点です。「子育て総合支援企業」として、常に事業を見直し、改革を推進していくことは、少子高齢化や女性の社会進出、共働き世帯の増加、育児と仕事の両立などの子育て環境におけるさまざまな現代社会が抱える課題の解決につながるものと考えています。企業理念の実現を目指す赤ちゃん本舗の取り組みは、そのままSDGsの人と暮らし、平和、平等や公正に関する複数のテーマと重なり合います。そのため、リ・ブランディング活動を通じて「子育て総合支援企業」としての歩みを続けていくことが、持続可能な社会の実現につながるものと考えています。
 そして赤ちゃん本舗では、リ・ブランディングの先に、10年後の創業100周年を見据えています。これまでも周年ごとに、お客様のご愛顧に感謝するイベントなどを催してきました。今回の90周年でも、限定企画や限定商品など、お客様に感謝する取り組みを実施していますが、それ以上に「100周年に向かう10年の始まりの年」という位置づけを大切にしています。
 現在社内では戦略のポイントの一つとして、「二項動態」と示していますが、これは、中長期と短期の二項を同時に推進するという意味を込めています。業績が厳しくなると短期的な成果に目が向かいがちになるという第1ステージでの反省点をふまえ、第2ステージでは、日常の仕事の中でも時と場に応じて頭を切り替え、中長期戦略を実行に移しつつ、短期戦略を進めて成果を上げることを期した表現です。この二項動態の方針のもと、100周年を見据えた中長期的な取り組みと、毎日の中で追求する短期的な成果との両立を図りながら、「子育て総合支援企業」としての内実を着実に育んでいきます。