鈴木 昨今の変化の中でも重要な点は、高齢社会が進展する中で、シニア層がたいへん重要な地位を占めるようになってきたことだと思います。流通業でも、アクティブシニア層をはじめとしたシニアへの対応が重要な課題となっていますが、この点についてどうご覧になっていますか。
月尾 シニア層は最大の消費者層ですから、それらの人々が満足するものを提供すべきです。この点で、私はテレビ番組にしてもCMにしても、いまだに従来の発想で若い層を対象にしていることに違和感を持っています。それをガラパゴス放送と呼んでいますが、これからは企業の製品づくりでも広報でも「私たちはシニア層を応援しています」というメッセージを伝えていくことが重要です。品揃えにしても、ファッショナブルなうえに機能性を備えた、高齢者が歩きやすい靴や着やすい衣服などを多種多様に揃えることで、シニア層を優先的に考えていますという姿勢が伝わるようにすることが大切だと思います。
鈴木 まったく同感です。それでは最後に月尾さんが今、関心を持っておられる点についてお聞かせください。
月尾 ここ数年、関心を持っているのは先住民族の生活や社会です。先進諸国では便利で豊かな社会が拡大していますが、人類が歩むべき道は、そういう方向でいいのかという疑問を抱き、伝統を維持している世界各地の先住民族を訪ね、年に4本ほどテレビ番組をつくっています。そういう先住民族の暮らしを見るにつけ、日本が近代化の中で失ってきたものが膨大にあると気づかされます。江戸時代の末期に日本を訪れた西洋の多くの人々が、日本は安全で、そこに暮らす人たちは親切で、世界に現存する唯一の極楽だと書き残しています。ところが同時に、この日本が西洋の文明を導入することにより、苦難の道を歩むことになると予言しています。現実に、そういう状況になりつつありますが、私たちは失ったものを確認しながら、新たな目標を持つ必要があると考えています。
鈴木 なるほど、価値観の多様性を尊重するという点にもつながっていくお話ですね。今日は、社会が大きく変化している中で、物事をどう考えるべきか、いろいろ教えていただくことができました。本日はお忙しい中、ありがとうございました。