好奇心を持って楽しさを発見し続けることが「成長」の原動力
FISワールドカップで3度の総合優勝を果たし
10代にして世界中から注目されている
スキージャンプ選手 髙梨沙羅さんをお迎えして
その強さの原動力や、世界の強豪に伍して
勝利を勝ち取るための考え方などをうかがいました。
HOST
セブン&アイHLDGS.
会長兼CEO
鈴木 敏文
GUEST
女子スキージャンプ選手
髙梨 沙羅
(たかなし さら)
1996年北海道生まれ。現在、日本体育大学在籍。8歳の時にスキージャンプを開始し、2011年女子ワールドカップ第11戦で日本人女子選手として初優勝。2012-13年ワールドカップ史上最年少、日本人選手史上初の個人総合優勝。2014 年ソチオリンピック出場。2013-14年シーズンワールドカップ個人総合優勝(女子最多優勝記録)。2015-16年シーズンワールドカップ個人総合優勝。
この対談は3月10日に収録されたものです。鈴木会長による対談は今回で最後となります。
皆様には長年にわたりご愛読いただき、ありがとうございました。
四季報 2016年SUMMER掲載
鈴木 ワールドカップ総合優勝、おめでとうございます。今回は髙梨さんとセブン‐イレブンのオーナーさんでもあるお母様に加わっていただき、お話をうかがいたいと思います。髙梨さんは、大変若い頃からワールドカップで優勝して、史上最年少記録や通算優勝記録を塗り替えるなど、短い期間に数多くの成果を上げてきましたが、そもそもスキージャンプを始めたきっかけは何ですか。
髙梨 まわりの友だちがジャンプをやっていたことと、兄の影響もあるかと思います。
鈴木 自分でやると決めて、続けてきたわけですね。髙梨さんにとって、ジャンプの魅力とは何ですか。
髙梨 スピード感と飛んでいる時の感覚です。日常生活ではまったく経験できないものがありますから。飛んでいる時はスローモーションのように感じています。
鈴木 私は髙梨さんが世界的な舞台で、大きな海外の選手の間で活躍されているのを見てたいしたものだなとつねづね思っていました。テレビなどで試合を拝見していると、海外の選手はみんな大きいですね。ジャンプでは、体の大きい方が有利、不利ということはないのですか。
髙梨 体の面積が大きい方が、空中に飛び出した時に浮力をつかまえやすいので有利です。それに、軽い方も有利です。
鈴木 そういう相手と戦っていくためには何か秘訣がありますか。
髙梨 秘訣というより、自分に合ったジャンプをいかに見つけ出していくか、という点に苦労しました。トレーニングなどを通じて、失敗をくり返しながら自分に合ったジャンプを探していき、今では、何が自分に適しているかがだいぶわかってきました。
鈴木 そうするとシーズンオフなども、ずっとジャンプのことを考えたりしているわけですか。
髙梨 意識して考えようとしていなくても、何かの折にふいにアイデアが思い浮かんだり、自然に考えていることがよくあります。
鈴木 髙梨さんは中学を卒業後インターナショナルスクールに入学し、2年目に早くも高等学校卒業程度認定試験に合格され、飛び級で大学に進学されていますね。高校3年分の勉強を短期間で身につけるというのは、相当な集中力がないとできないでしょう。その集中力はどこから生まれてくるのですか。
髙梨 その頃は世界選手権やオリンピックが控えている時期で、できるだけ早くジャンプに専念できるようにしたいと考えていました。ただ、人生全体からすると競技人生よりも競技を離れた後の方がずっと長いわけですから、競技だけに絞ってしまうとその後の生活の世界が広がっていきません。ですから、いろいろな考え方や文化に触れていくためにも進学したいという思いがありました。
インターナショナルスクールに進んだのは英語ができるようになりたかったためです。それから、早めに大学進学の資格を得て競技に専念したいと考えました。そこで、競技が始まる前に決めようと思い、1日11時間くらい集中的に勉強しました。今までで一番勉強したのはこの時ですね。
鈴木 自分の意志で決めたことを確実に実行していく力があれば、大抵のことはうまくできるでしょう。何か苦手なことはありますか。
髙梨 実は、スキー以外の運動、とくに球技は苦手です。
鈴木 ジャンプの競技は自分の調子だけでなく、その時の風の強さなど天候与件に左右される面も大きいでしょう。それだけに厳しさもあると思いますが、どうですか。
髙梨 野外競技なので天候や風のあたりなどで不公平さが出るのは避けられません。ですから不利な条件下でも、本来の力を発揮できるのが本当に実力のある選手だと思ってやってきました。
自分をコントロールしていく力は、たぶん競技を離れても大切だろうと感じますから、これからもそういうところを鍛えていきたいと考えています。
鈴木 ではジャンプに失敗した時も、あまり後に引きずったりはしないわけですか。
髙梨 失敗した時は、必ず何か原因があるわけですから、そこを直せば次はもっと良い成果が出せるはずだと考えます。問題を解決した後にどれだけ成績が伸びるか、その楽しみの方が大きいですね。まだまだ伸びしろがあるということですから。
鈴木 私はこれまでに数多くの人たちと会ってきましたが、こんなにしっかりとした信念を持って物事に取り組んでいる人は初めてです。小さい頃から、こういうしっかりとした考え方を持ったお子さんだったのですか。
髙梨(母) 子どもの頃から、目標を自分で立てると最後までコツコツとやり遂げるところはありました。私から、何かしたらとか、しなさいとか、言ったことはないですね。