南場 私が驚いたのは、セブン‐イレブンのドリップコーヒーを、発売後1年ほどしたらリニューアルされたことです。私は、あのコーヒーが発売された時、100円でこんなに本格的なおいしいコーヒーが飲める、と感激しました。ですから、これほど成功しているものをもうリニューアルするのかと、セブン‐イレブンの本領を見た思いがしました。
鈴木 私は昔から言っているのですが、「おいしいものほど飽きるのも早い」ということなのです。料亭の料理はおいしいですが、1週間も食べていたら飽きてしまいます。ですから、お客様がおいしいと言ってくださる商品ほど、どんどんリニューアルする必要があります。そのために、私は創業以来、ずっと自分のところで販売する商品の試食を続けています。それで、自分で納得のいかない商品は絶対に店頭に出さないようにしています。
南場 トップがそういうようにダメを出したら、現場は大変ですね。スティーブ・ジョブズも、みんなが苦労してほぼ完成というところまで行っても、納得のいかない点があるとダメだと言ったそうです。そうすると、もう社員はもとより部品業者や流通業者まで含め、関係者は大騒ぎになったとか。
鈴木 いや、宣伝をして、それを見たお客様がその商品を買った時に、おいしくなかったのでは、お金をかけてマイナスの宣伝をしているようなものです。
南場 企業には、ふつう2つのタイプがあります。新しいことをどんどん採り入れるタイプと、とくに新しいことはしないけれど実行力に抜きん出ている会社。
ところが、セブン‐イレブンは、新しいことを採り入れつつ、実行力も最も優れているという位置づけになっていると思います。そこがすごいところです。
鈴木 それは、セブン‐イレブンが創業当初、商売の仕方も商品も、全部自分たちで考えて創り出していかなければならなかったというところから生まれた社風だと思います。
セブン‐イレブンがこれまで手がけてきた仕事の中に、メーカーさんを含めて世界初が13件、日本初が138件、業界初が約80件ありました。何も、世界初に挑戦してやろうと思ってやってきたわけではありません。お客様のニーズの変化を見て、こういうことが必要だろうと自分たちで考えて実行したことが、結果的に世界初のことだったのです。
南場 新しいことへの挑戦は、一人ではできません。仲間を集め、目標を共有し、チームを引っ張る力、動かす力が求められます。
私自身が経営者の立場になって、一番身に染みて感じたのは、当たり前のことを実行するには、いかに当たり前ではない努力が必要かということです。
もう一つ大切なことは、自分の頭で考える組織風土です。どんな優秀なトップでも、すべての事業について誰よりも詳細に把握することはできません。ユーザーやお取引先と直接触れ、現場で正しい情報を持つ人が、自らの意思で独自の思考をすることが重要です。
鈴木 おっしゃる通りです。
今、私たちは、グループの方針として「脱チェーンストアオペレーション」を掲げ、個々の店が商圏に合った品揃えや売り方を工夫し、地域のお客様のニーズに応えられるように従来のやり方を大幅に変えることに挑戦しています。
この方針が定着するには、一人ひとりが自分で考え、行動に移すことが重要です。