目の前のお客様を注視すれば新しいチャンスが見えてくる
経営コンサルタントからインターネットサービス会社ディー・エヌ・エー(DeNA)を起業。
独自の経営戦略で成功を収めてきた南場智子さんをお迎えして
お客様の動向の中に新たなサービスのヒントを見出し
つねに素人の視点を大切にするなどの経営観を交え示唆に富んだお話をうかがいました。
HOST
セブン&アイHLDGS.
会長兼CEO
鈴木 敏文
GUEST
株式会社ディー・エヌ・エー
取締役 ファウンダー
南場 智子
(なんば ともこ)
新潟県生まれ。津田塾大学卒業後、1986年マッキンゼー・アンド・カンパニー入社。1990年ハーバード・ビジネス・スクールでMBA取得。1996年マッキンゼーでパートナー(役員)に就任。1999年同社を退社して、DeNAを設立、代表取締役に就任。2005年DeNA、東証マザーズ上場(07年東証第一部に指定替え)。2011年病気療養中の夫の看病に力を注ぐため、代表取締役社長兼CEOを退任、2013年、常勤取締役に復帰。この間、内閣IT戦略本部、規制改革・民間開放推進会議委員などを歴任。
四季報 2015年SUMMER掲載
鈴木 南場さんはDeNAの創業者であり、プロ野球チーム「横浜DeNAベイスターズ」オーナーとしても、皆さんよくご存じのことと思います。南場さんは、コンサルタントの仕事を辞めて、ご自身でディー・エヌ・エーをお始めになったわけですが、まず、その経緯からお聞かせください。
南場 コンサルタントの仕事というのは、自分自身では経営の主体者にはなれません。その点で、もどかしさを感じていました。それで コンサルタントをしている頃から、小さくても自分で何か事業を手がけてみたいという思いを持っていました。ちょうどその時、ぜひ日本に持ってくるべきだと思うインターネットサービスがあったのです。
そこである企業に、このビジネスはすごく有望だから、ぜひ日本で始めてはどうかと、熱心に説きました。そうしたら「そんなに熱意があるなら、あなた自身が始めるべきだ」とそこの社長さんに言われました。その時初めて「自分で事業を興すという道もあるんだな」と気づいて、自分でそれができたら素敵だと思い始めました。
鈴木 たいへん勇気のいる決断だったでしょう。実際に経営をされて、コンサルタントの時とは事業のとらえ方が変わりましたか。
南場 事業を始めてわかったのは、「正しい道を選択すること」より「選択した道を成功させること」の方が重要であるということです。 どんな選択肢であっても必ず壁にぶち当たります。それをぶち破る力の源泉は、「正しさ」ではなく、時に「情熱」であることを知りました。論理的で分析力に秀でたリーダーより「やりたい」という情熱のあるリーダーが引っ張る組織の方が成功の確率を高められます。
鈴木 実際、始められていかがでしたか。
南場 事業を始めた時は1年で黒字化する計画でしたが、実際には4年間赤字でした。その時、コンサルティングをしていた頃は楽だったなと思いましたね。
コンサルタントは、いわば先生の立場で、経営者の皆さんに「ここができていない」「あそこに問題がある」と指摘していたわけです。ところが自分で経営をしてみたら、コンサルタント時代の「生徒さん」たちより、自分の方がずっと出来が悪い。ですから、コンサルタント時代のクライアントに会うと、勝手なことを言って申し訳ありませんでしたって、謝りたくなります。
鈴木 私は、常々、競争相手は同業他社ではなくお客様だと考え、社員には競合他社を意識するなと言っています。
南場 その通りです。DeNAでこれまで業績が思わしくなかった時は、必ずユーザーの変化を見逃している時でした。
私たちは今、ゲーム、eコマース、ヘルスケアなどの事業を手がけていますが、そのすべてに共通しているのがインターネットです。ユーザーは、インターネットに関してプロではありません。ところが、サービスを提供するわれわれの方は、専門家が多数いますから、ついプロ意識が出て、使い方などがユーザーから見ると複雑過ぎるものになりがちです。ユーザーの中には、それを理解してついてきてくれる人たちも一部いて、その部分を見て喜んでいると、裾野に広がるマスユーザーが離れていってしまいます。ですから、そういう「プロ意識」で仕事をするのは一番良くないと言ってきました。
鈴木 私も、お客様の立場に立って考えなさいといつも言っています。
南場 DeNAがここまで成長したきっかけは、「怪盗ロワイヤル」というゲームが大ヒットしたことでした。それで、何かうまくいかないと、どうしてもその時の成功体験と比べて考えてしまいます。本当は、何かを変えていこうとする時は、ユーザーの動向を注視することが大切ですね。
鈴木 過去は全部否定しないといけません。すべて否定するところから、今の変化に対応した新しい挑戦が生まれてきます。
セブン‐イレブンは、創業から40年以上たって今なお、成長を続けていますが、それは過去を否定し続けてきた結果です。
南場 しかし、過去の経験を全部否定し続けるというのは勇気が要ります。
鈴木 人間は、どうしても過去の成功体験に基づいて考えがちです。
ですから、つねに意識的に過去の成功体験を否定し続ける必要があると考えています。プロになってはいけません。