鈴木 私が現在のホールディングスの経営形態をつくった時も多くの専門家から批判されました。コンビニ、スーパー、百貨店という異なる業態が集まってもシナジーなど出せないというわけです。とくに、百貨店でシナジー効果を出すのは至難だろうと言われました。
しかし、実際にグループでシナジーを出す取り組みを進めてきて、百貨店でも大きな成果が上がっています。昨年、西武池袋本店は3年間の改装を終えてグランドオープンしました。その改装にあたって、生鮮食品売場にグループのノウハウを取り入れた結果、改装後ずっと好調な推移を見せています。
また逆に、上質な商品を扱ってきた百貨店のノウハウや考え方を、GMSでは衣料品などのマーチャンダイジングや売り方に取り入れ、顧客ロイヤルティを上げることに役立てています。
従来、それぞれの業態の「常識」の中で凝り固まっていたものが、違う業態と一緒になって取り組むことで、だんだん解きほぐされてくるという効果が生まれています。
楠木 そういう「解きほぐされる」という効果が、現場のそこここで起きているというのは素晴らしいと思います。異なる業態がグループの傘下に入っていることで、異業態間の接触から従来とは質の違う新しい商品が生まれるといった効果が出てきているわけですね。
そういった既存の業態の活性化という点で、グループシナジーが効果を上げていることはたいへん重要です。それとともに、私が興味を持っているのは、かつてセブン‐イレブンによって日本にはなかったコンビニという新しい「ストーリー」が生まれたように、セブン&アイグループから今後新しいストーリーが出てくるのかという点です。セブン&アイグループは、世界の中でも類のない規模で異業態の集まっているグループで、そのシナジー効果によって新しいストーリーが生まれてくれば、素晴らしいことだと思います。
鈴木 シナジーを生み出すには、従来の各社間の壁を取り払わなければいけません。壁をつくることも、人の本能の一つですから、その壁をどれだけ取り外し、従来の考え方から脱け出すか、それを進めるには強力なリーダーシップが必要だと痛感しています。
楠木 近年、鈴木さんは「ネットとリアルの融合」「ネットを制する者がリアルを制する」という点を、説かれていますね。私は、そこに新しいストーリーが生まれる可能性を感じています。
鈴木 ネットというのは、お客様が居ながらにして商品を選び、購入することができるので、リアル店舗より早く商品に対する反響が返ってきます。そこで、ネットでどんな商品が売れているかという点がつかめれば、リアル店舗でその商品を置いて、より幅広いお客様に提供していくことが可能になると考えています。ですから、ネットの商売を発展させれば、リアル店舗での在庫や商品生産を、いまよりももっと計画的に行えるようになると思います。
楠木 なるほど、ふつうはネットでの販売が伸びれば、その分、リアル店舗での販売が減ってしまうと考えがちですが、鈴木さんは、リアルからネットに単純に顧客が流れてしまうのではなく、ネットで売れる物がわかればリアル店舗のプラスになるととらえているわけですね。
鈴木 それがネットを制する者がリアルを制するということです。ネットの世界でも小売業が成長していますが、リアル店舗を持っているところはありません。私たちグループには、リアル店舗網や既存の物流基盤等もありますから、そのような経営資源を活かしながら、ネットを充実させることで、グループ全体を強化できると考えています。
楠木 私もネットとリアルの融合によって、いままでにはない新しい買物のスタイルが生まれるのでは、と期待しています。私には百歳になる祖母がいるのですが、彼女は毎日、買物に行くのを楽しみにしています。ただ、リアル店舗での買物の場合、やはり自分で持てる量には限りがあるので、買いたいものがいろいろあっても、自分が持てる量以上は買いません。ネットとリアルが融合していけば、そういう物理的な制約なしに買物を楽しめるようになると思います。
鈴木 イトーヨーカドーでは、各店舗を拠点として、ネットで注文を受けて、各店舗から商品をお届けするという独自の仕組みをつくって、ネットスーパーを展開しています。ネットスーパーなら、重いモノでも家まで届けてくれるので、いまおっしゃったような制約をなくすことにもつながりますね。いま、多くのお客様に、そういった利便性を認めていただけるようになって、135店舗に拡大して利益も出ています。
楠木 ネットが登場した時は、ネットとリアルというのは、何か対立軸のように考えられていましたが、買物をするのは同じ人間なので、融合していくことが自然の流れなのかも知れません。その一つの在り方がネットスーパーと言えそうです。ただ、その場合はインターフェイスがパソコンなので、逆にこれまでお店で買物をする方法を活かしたインターフェイスで、オペレーションはEコマースという形もあるような気がします。買物を楽しみたいというのは、いわば人の本能のようなものだと思いますから、ネットとリアルの融合から、その楽しさを活かした新しい業態が生まれてくることを期待しています。
鈴木 私も、時代がいかに変化しても、消費はなくならないと考えています。重要な点は、その変化をいかにとらえ、変化に合わせていくかということでしょう。今日はたいへんありがとうございました。