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セブン&アイの挑戦
グループの競争力を支える「食」の強み“最前線”

グループの力を結集した「食品製造小売」業態を確立し
選ばれるブランドへ

2023年11⽉

グループの力を結集した「食品製造小売」業態を確立し選ばれるブランドへ

2023年9月1日、株式会社イトーヨーカ堂と株式会社ヨークが合併し、新生「イトーヨーカ堂」が発足しました。前号159号に続き、「グループの競争力を支える「食」の強み“最前線”」をテーマとして、スーパーストア事業の抜本的変革に向け最新の商品政策や店舗づくり、今後の展望をイトーヨーカ堂取締役副会長の石橋誠一郎が語ります。

魅力ある品揃えと生産性向上が成功のカギ

株式会社セブン&アイHLDGS. 常務執行役員 兼 株式会社イトーヨーカ堂 取締役副会長 石橋 誠一郎
株式会社セブン&アイHLDGS.
常務執行役員
兼 株式会社イトーヨーカ堂
取締役副会長
石橋 誠一郎

1966年生まれ。85年セブン‐イレブン・ジャパン入社、2015年同社取締役執行役員商品本部長、19年セブン&アイ・ホールディングス常務執行役員グループ商品戦略本部長、21年Peace Deli代表取締役社長、23年3月イトーヨーカ堂 取締役、4月セブン&アイ・ホールディングス常務執行役員スーパーストア事業統括(現職)、9月イトーヨーカ堂 取締役副会長(現職)。

 2023年9月1日、新生イトーヨーカ堂が誕生しました。同時に、今年3月から進めているセブン&アイグループのスーパーストア事業(以下、SST事業)の抜本的変革が、実行フェーズに入りました。(株)イトーヨーカ堂と(株)ヨークの合併を、発表から実施まで半年というきわめて短時日で進めた背景には、首都圏を中心としたグループ食品戦略を、待ったなしで前進させるという強い思いがあります。私は、2019年にセブン‐イレブン・ジャパン(以下、SEJ)からセブン&アイ・ホールディングスに移り、セブンプレミアムを中心としたグループ商品政策の推進などに取り組んできました。その中で、当社グループのSST事業、とりわけ首都圏における出店などで競合他社に後れを取り、当該エリアでの食品売上のシェアも後退している点を強く認識しました。
 その原因の一つとして、これまでイトーヨーカドー、ヨークともにお客様のニーズにお応えしきれていなかったこと、「ここでしか買えない」商品政策の展開が遅れていたことがあげられます。これを解決するためには、惣菜や生鮮食品の調理・加工を行う製造インフラをグループで共有し、味や鮮度などさらなる品質の向上を実現して差別化商品を開発・製造するとともに、店舗の作業負担を軽減して生産性の向上を図ることが必要です。こうした展望を持って、当社グループは共通インフラ設置を進め、今年3月にPeace Deli(以下、PDL)の「流山キッチン」を開設し、イトーヨーカドーとヨークの首都圏店舗に商品供給を開始しました。共通インフラによる商品供給は、製造拠点から各店舗に惣菜や生鮮商品を供給するという「製販一体」体制で半世紀以上、知見を培ってきたヨークベニマルに原料となる生鮮食品の産地の開発、レシピ開発、製造ラインづくりなどあらゆる面で学びながら取り組みを着実に進めています。
 2024年2月には、「千葉キッチン」の稼働開始も計画しています。千葉キッチンは、精肉のプロセスセンター(以下、PC)とセントラルキッチン(以下、CK)を併せ持ち、PCで加工した精肉をCKで調理して惣菜にするなど、独自の商品づくりに適した構造となっています。
 現在、PDLの流山キッチンから供給できる商品や供給先の店舗は限られていますが、これまで店内で行ってきた精肉や鮮魚のスライスなどの作業負担が軽減されたという成果が上がっています。今後、同社商品の供給エリアが広がり、商品アイテム数が拡大していくことで、確実に店舗の生産性が高まると考えています。PDLという製造インフラが確実に機能していくことで、お客様の声や店舗(地域)ごとのニーズにお応えできるようになります。そうすることで「ここでしか買えない」商品開発が進み、惣菜の品揃えも一段と魅力的なものになります。同時に、店舗経営という視点から見ると惣菜は利益性の高い商品であるため、惣菜の売上構成比を上げることは店舗全体の利益構造を改善し、損益分岐点を引き下げる効果があります。これは、さまざまな分野の価格が高騰する中で、都心部での店舗経営に大きな優位性をもたらします。セブン&アイグループが、食品の加工・製造を手がける共通インフラの構築に積極的に投資しているのはこうした展望があるからです。
 また、もう一つのグループ共通インフラとして、センター集約型のイトーヨーカドーネットスーパー「新横浜センター」が8月に稼働しました。従来の店頭在庫を起点とする店舗出荷型ではピックアップ時に欠品が発生する、注文が多い時間帯の配送便枠がすぐに埋まるといった課題がありました。センター集約型にすることで、これらの課題が改善でき「必ず買えて、必ず受け取れるサービス」が実現できます。現在は、PDLで製造した冷凍の刺身やステーキ肉、ミールキットなどのほか、グループ会社の赤ちゃん本舗の商品を取り扱っており、「食」をはじめとした生活用品などお客様の暮らしに便利な品揃えとサービスを提供しています(図1)。

統合再編の意義

グループシナジーが生んだ都心店の競争力

店舗規模とお客様からの使われ方での品揃えフォーマット

 お客様から見てご来店の動機となる魅力とは、その店舗の品揃えと商品です。今般、イトーヨーカドー、ヨークの店舗を大型店から超小型店といった規模、そして平日中心の狭商圏型と休日の集客が多い広域商圏型など、使われ方に合わせて改めて区分し、さらに店舗内で商品の調理・加工を行うインストア強化店、商品の調理からパッケージまで、販売店舗以外の場所で行われて納品されるアウトパック強化店、イン・アウト併用店とお客様からの使われ方でフォーマットを分けました(図2)。
 その実例として、昨年10月にリニューアルオープンした「ヨークフーズ with ザ・ガーデン自由が丘」中野店(中野区)があります。リニューアルにあたり、同店の商圏特性を精査したところ、客層には高所得者層も多いということがわかりました。客層を単に構成比でとらえると、学生や若いビジネスパーソン、共働き世帯などの比率が高く、高所得者層はそれほど高くはありません。しかし、人口密度が大きいため、実数を見ると高所得世帯がほかの商圏よりもずっと多く、お客様へのインタビューなどからは高付加価値商品を求める声が多数寄せられました。これまで商圏内では、競合店を含めどのスーパーも価格訴求を中心とした品揃えを行っていましたが、実際は価格よりも価値を重視するお客様が多く、ニーズに合った商品が近隣にないというご不満があったのです。この発見を重視し、リニューアルに際してはグループ会社のシェルガーデンと連携して、高付加価値商品の充実を図り、店名にも「ザ・ガーデン自由が丘」を加えました。また、惣菜ではヨークベニマルの協力を得て、同社のレシピや製造手法に学んだ「レストランデリ」など独自ブランドの展開もスタートしました。こうした取り組みによって、同店はお客様から「新しいお店ができた」「ほしい商品が揃っている」といった評価をいただけるようになりました。駅前という立地柄、商圏内にお住まいのお客様ばかりでなく、お勤め帰りにお買物していただくお客様も増えています。その結果、リニューアルから1年以上経過した現在も改装前を大きく上まわる業績を達成し続けています。これは、商圏内の新たなお客様の獲得、競合店からの誘引に成功した証しです。
 中野店のように、商圏内のお客様のご不満やご要望をきめ細かくとらえ、他店にはない視点、切り口で品揃えを進めることで、商圏の姿を変えることも可能だとわかりました。この実績をふまえ、小豆沢店(板橋区)、新宿富久店(新宿区)といった都心店舗でもリニューアルを実施し、「ヨークフーズ with ザ・ガーデン自由が丘」としてグループ各社と連携した品揃えや商品導入を進めています。一方で、大型店では月1日に「イトーヨーカドー木場店」(江東区)が改装オープンしました。ここでは、ヨーク店舗のリニューアルで得た知見を活かし、シェルガーデン「ザ・ガーデン自由が丘」をテナントとして導入しました。イトーヨーカドー自営売場と「ザ・ガーデン自由が丘」の協業で、高付加価値商品へのニーズ対応を充実させるとともに、従来スーパーストア業態では弱かったスイーツの品揃えの充実なども図っています。

シェルガーデン
シェルガーデンの協力により従来のスーパーにはない品揃えを実現し、改装前の販売実績を大幅に上まわる売上を記録し続けている。
流山キッチンで加工・調理されている精肉や鮮魚のパック
流山キッチンで加工・調理されている精肉や鮮魚のパック。来年2月の千葉キッチン稼働で、品揃え、供給エリアとも拡大する。
レストランデリ
人気ブランドとなっている「レストランデリ」。今後、ピースデリの本格稼働などで、こうした惣菜の品揃えをいっそう充実させる。

強固な連携で着実に前進イトーヨーカ堂の成長戦略

 グループ連携の中心として、イトーヨーカ堂の存在は欠かせません。都心部の食品戦略から見て、同社の1店舗あたりの売上規模は大きく、その販売力はオリジナル商品の開発製造、お取引先様商品の調達といった面で、大きな役割を果たしています。同時に、生鮮食品などの産地や生産者の皆様との連携には長い歴史があり、強い信頼関係を築いています。これは、SEJを含むグループのバリューチェーンの構築にとって、かけがえのない財産です。私自身、SEJの商品開発に長く携わってきた中で、セブンプレミアムをはじめ、さまざまな商品でイトーヨーカ堂との連携に救われた経験が数多くあります。現在では、セブン‐イレブンでも冷凍食品が重要な商品となっていますが、本格的な味わいの冷凍食品をコンビニで扱えるようになったのも、イトーヨーカ堂との連携があったからです(下記コラム参照)。

 イトーヨーカ堂が20年以上にわたって取り組んできた「顔が見える食品。」は、生産者の皆様との連携、安全・安心や健康など、お客様ニーズへの対応といった面から大変重要な商品です。これは、首都圏のスーパーマーケット店舗が品揃えの差別化を図っていくうえで、今後ますます大きな役割を果たしていくものと考えています。同時に、「フード&ドラッグ」への集中に向けたイトーヨーカドー店舗の改装も進めていきます。ドラッグ&コスメ売場は、8月末時点30店舗で導入をすませており、残り56店舗についても、25年度中の導入計画に沿って着実に進めていきます。改装計画もほぼ固まっており、24年度中にはすべての店舗が新たな「フード&ドラッグ」のイトーヨーカドーとなる予定です(図3)。

買い回りのしやすさを向上し、相互送客をうながす店舗レイアウト(一例)買い回りのしやすさを向上し、相互送客をうながす店舗レイアウト(一例)買い回りのしやすさを向上し、相互送客をうながす店舗レイアウト(一例)

 また、改装にあたっては惣菜売場の拡大も行います。スペースの拡張ですむ店舗、バックルームを含めた施設の改造をともなう店舗など個店ごとに状況が異なりますが、すでに優先順位をつけて改装を進めています。さらに、ライフスタイル(衣料および住関連)の自営売場の撤退で生まれた売場スペースについても24年度末までのロードマップづくりが完了しており、各店舗の商圏、立地に応じた取り組みの検討が始まっています。
 そして何よりも大事なことは、お取引先様との強固な連携です。お客様や現場の声に基づいた「原材料」や「物流」といった課題に対し、お取引先様一社一社とていねいな対話を通じて情報交換を行い、知見や技術を提供いただくことで価値ある商品をお客様に提供していきます。一例として現在、お店ごとにお取引先様の価値あるNB商品をマーチャンダイザーやスーパーバイザーも一緒になって売場スペースや売り方を考え、販売量を設定しお客様におすすめするといった取り組みに挑戦しています。今後は「お取引先様」から、一緒に同じ方向へ進み長いお付き合いをさせていただく「お取り組み先様」へと関係を深化させ、新生イトーヨーカ堂の成長戦略を始動してまいります。

次ページに「製販一体」体制を担うグループ企業の新社長インタビューを掲載