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- グループの競争力を支える「食」の強み“最...
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2023年8⽉
セブン&アイグループでは、現在、2025年度を目標年とする中期経営計画のアップデートとグループ戦略について再評価を実施し、計画達成に向けた取り組みを強化しています。とりわけ2030年に目指すグループの姿を『「食」を中心とした世界トップクラスのリテールグループ』と定めたように、食品市場での販売力の強化はグループ成長戦略の柱であり、その一翼を担うスーパーストア(以下、SST)事業セクターの役割は大きなものがあります。この点をふまえ、この3月にSST事業の強化に向けた「変革プログラム」を始動させました。同プログラムでは、SST事業セクターのイトーヨーカ堂(以下、IY)、ヨーク(以下、YO)、シェルガーデン(以下、SG)の統合再編を視野に入れ、マーチャンダイジング(以下、MD)、店舗オペレーション、店舗改装、デジタル戦略、組織体制、販売管理コストなどのあらゆる業務分野にわたってテーマごとに19の分科会を設け、施策の策定、実行を推進する体制をとっています。
2025年度に首都圏SST事業のEBITDA550億円、ROIC4%以上を実現するため、この変革プログラムを推進するとともに、SST事業を担う会社や店舗のあり方についても検討を重ね、IYでは自主運営のアパレル事業からの撤退、フード&ドラッグ事業を主軸に据えた業態への転換、首都圏に事業エリアを集中するという点を明確に打ち出しました。この結果、これまで首都圏の食品スーパーを展開してきたYOと業態や事業エリアの面で重なる点が大きくなり、SST事業の成長に向けたシナジー効果の最大化という観点から、9月1日付でIYとYOを合併するという判断にいたりました。
両社が合併することで事業規模が拡大し、まず、規模のメリットを活かすことができます。両社の首都圏における食品売上を合わせると現在の首都圏に展開する食品スーパーの中ではトップクラスの売上規模になります。仕入れやMDなどを一本化することは、お取引先様にも生産性や物流効率の向上などのメリットを提供できます。
第二に、両社がそれぞれに培ってきたMDや店舗オペレーションといったノウハウを共有することから生まれる生産性の向上があります。実際、2020年度に、IYが展開していた食品館20店舗をYOに移管した際、その後2年間で移管した全店舗が売上を伸ばすとともに、生産性の向上による利益改善も実現しました。これは、店舗オペレーションやMD、品揃え、売場づくりなど、あらゆる面でYOが蓄積してきたきめ細かな知見を活かして、店舗改革を行った成果です。これらは、フード&ドラッグを主軸に据えたIYに、すぐにも活かすことができます。
一方、IYはこれまで発注や惣菜の製造計画などにAIを活用し、現在は人員計画の適正化を図る「ワークスケジュールアプリ」の導入などを進め、デジタル融合のノウハウを蓄積しており、それらはYOの店舗運営に活かすことが可能です。合併によって両社のすぐれた面を活かし合っていくことで、現場の生産性をよりスピーディーに高めていくことが可能になります。
第三に、よりいっそうのコスト構造の改善があげられます。本部機能や販促などを一体化していくことで、業務の効率化とコスト圧縮などの促進が期待できます。
IYでは、お客様中心(カスタマーセントリック)という考え方を、経営の根幹に据えており、今回の合併にあたっても、まずお客様にとってどんなメリットがあるかという視点を最優先に置き検討を重ねてきました。IYとYOでは、3月以降、約4万人のお客様にアンケートを実施し、お客様がそれぞれの店舗や商品をどのように評価してくださっているかという調査を行いました。その結果、両社とも競合他社との比較の中で、プライベートブランド(PB)の品揃えの豊富さや食品の鮮度感などについては高く評価していただいている一方で、価格面や「ここでしか買えない商品がない」といった点にご不満があることが判明しました。こうしたお客様のご不満の解消は、先にあげた合併によるメリットを発揮していくことで、迅速に対応していくことが可能になります。
たとえば、価格に対するご不満への対応という点については、あらゆる商品を安くすれば良いということではありません。日常生活の中で購買頻度が高い野菜や牛乳などの商品は、お客様の価格に対する感度が高く、これらの商品価格が高いと感じるとその店舗の商品全体が「高価格」という評価につながりやすくなります。購買頻度が高い商品については、しっかりとベンチマーキングして価格対応を図り、商品特性に応じて価格を訴求することが重要と考えています。そのためにはコスト削減と生産性改善により原資を創出する必要があります。また、差別化商品の品揃え強化については、グループ共通の製造機能を持つPeace Deli(以下、PDL)を活用することで惣菜をはじめとする他社にはできない商品展開を行います。この機能を活用することで、店舗生産性向上や規格統一による仕入れ統合にも踏み込むことが可能になります。
変革プログラムの各分科会で商品特性に応じた施策を練りあげ、2025年度の目標達成に向けた計画を策定しています。この計画では、月別にまで落とし込んだ数値計画やKPIを明示し、現場を担う従業員が自ら進捗度合いを把握できるようにするとともに、各分科会や経営陣が進捗状況を共有できる仕組みをつくっています。
仕組みの中でとくに重視しているのは、従来の昨年比の発想を捨て、予算達成という視点で仕事に取り組む組織風土をつくっていくことです。昨年比に基づいた見方では、「予算計画の目標は未達だったが、昨年を超える実績をあげたのだから良いのではないか」という発想になってしまい、計画を完遂するという意識が希薄になりがちです。これを改めるには、予算計画を立てたら、目標を必ず達成するという意識を浸透させなければなりません。今回の変革プログラムの成否は、このような意識改革ができるか否かにかかっており、そのためにも両社が合併して一体化し、改革の意識を共有していくことが不可欠と考えています。
現場と変革プログラムが一体感を持って改革に取り組むには、常に双方向のコミュニケーションを積み重ねていくことが大切です。その第一歩として各分科会の施策内容の決定に向け、店舗、商品部などあらゆる部門から改革のアイデアを募ったところ、その総数はIYとYOを合わせて約4800件に達しました。これは予想をはるかに上回る件数で、それだけ現場で働く従業員の関心も高いということです。集まったアイデアは、各分科会で精査、検討し、8月末までに施策を決定する予定です。そして、どのように施策を進めるかというマイルストーンとともに、月別の数値に落とし込んだ計画を示し、9月以降これを実行に移します。
変革プログラムの効果をより迅速に引き出していくうえで、9月1日の合併を決断しましたが、これまでお客様に親しまれてきた「イトーヨーカドー」や「ヨークマート」「ヨークフーズ」などの屋号や、商品管理のシステム、店舗オペレーション組織、人事制度などは性急に統合するには適さないと判断しています。これらに関しては両社の既存システムなどを継承して 1社2制度体制でスタートし、本部統合に向けた整備や屋号をまたいだ人財配置のスタート、人財戦略の策定および新たな人事制度の始動などを段階的に計画しています。また、発注や店舗会計などのシステムは、26年度の完全統合を目指し、その間に各システムの統合に向けた環境整備を進める方針です。
今回の合併にあたっては、手続き上はIYが存続会社となり、YOを吸収合併する形ですが、実際の業務においては両社が対等な立場で合併することになります。この点は、合併のベースとなる変革プログラムの19の分科会自体が、会社組織を超えた「屋号横断」の機能別チームとして編成しているのと同様です。
前述の通り各分科会だけが変革の担い手ではなく、現場で働く従業員一人ひとりが変革を担っているという意識を共有することも重視しています。このため、先にあげたように現場を巻き込んだ施策のアイデア出しを実施するとともに、変革プログラムの責任者であるCTO※や各部門リーダーが、現場の皆さんにプログラムの説明を行い、現場の声を聞くといった双方向のコミュニケーションを進めてきました。今回の合併にあたっては、公式の発表直後に両社の幹部を集めて、合併の背景と狙いや、合併後の完全統合にいたるマイルストーンなどの説明を実施しました。また、変革の実行は、お客様に最も近い各店舗の従業員の参加なしには不可能です。このため、各分科会の中核メンバーに加えて現場のリーダーも随時、プログラムの実施プロセスに参加してもらうなど、施策を日々の仕事に具体的に落とし込むために知恵を結集しています。
こうしたすべての従業員が参加するという考え方は、各分科会のメンバー自身も強く求めています。分科会からSST事業セクターの全従業員と変革への意識を共有するために、「変革プログラム」自体にメンバーの協議によって生まれたステートメントを発信しています。こうした自発的な活動が、変革の浸透にとっては不可欠であると考えています。
また、現場の実態を拾いあげるために、今回の変革プログラムには「組織健康度」をテーマとした分科会も設けました。同チームでは、まず両社の組織健康度を測定し、その結果に基づき組織の健全性向上に向けた取り組みを進めています。具体的には、IY、YOから各9店舗ずつを選定し、それらの店舗にチームメンバーが入って店舗従業員の声を聞き、課題を把握して、その解決に向けた施策づくりを進めています。
IYとYOの合併は、リアル店舗におけるお客様に顔を向けた仕事に両社の力を結集し、集中していく体制づくりを推進するものです。この8月にはネットスーパー事業を担う大型センターが稼働し始め、従来IYが取り組んできた、店舗を起点としたネットスーパーのサービスは、順次、大型センターに転換していきます。
ネットを通じたサービス提供は、仕入れ、MDなどに求められる機能などの点でリアル店舗におけるサービス提供とは大きな違いがあります。とりわけ、ネットサービスを支えるIT環境などが加速度的に変化し続けている中で、迅速な経営判断が求められています。これらの点をふまえ、ネットスーパー事業については、2024年度を目途に分社化することとしました。また、IYの杉戸プロセスセンター(埼玉県)については、2023年11月を目途にグループの食品製造の共有インフラであるPDLに移管します。
この一連の組織整備は、製造、リアルサービス、ネットサービスといった機能に合わせた経営を迅速に進めるためのもので、とくに共有インフラを活用した自主MD中心の食品製造小売事業の体制確立に資するものです。グループ内ですでに製造小売業としてのあり方を確立し、成果を上げているヨークベニマル( 詳細はこちらを参照 )をモデルケースとして進めており、将来的には、製造を担うPDLに仕入れ機能を一元化することを考えています。そして、スーパーストアのMDおよび販売機能との連携によって、原材料の仕入れからお客様ニーズに合った商品提供まで、効率よく機動的に推進していくことも視野に入れています。
現在セブン&アイHLDGS.では、独立社外取締役9名からなる戦略委員会を設置しています。これは国内外のコンビニエンスストアの成長戦略やSST事業変革などの実現のために、最適なグループ事業構造と戦略的選択肢に関する包括的かつ客観的な分析と検証に基づき取締役会に助言を行うものです。先に述べたSST事業変革における19の分科会からなる編成と、横ぐしをさしてプロジェクト全体の推進を図るチームの設定に加え、戦略委員会によるアドバイザーの工程管理などの体制で変革を進めており、今後もモニタリングを行いながら状況に応じた適切な判断をしていきます。
今、この変革を実現する中で、改めて私たちは本年3月に逝去いたしましたイトーヨーカ堂の創業者であり、弊社グループの名誉会長伊藤雅俊が残した社是である「信頼と誠実」の精神を礎に、お客様や地域社会の皆様に信頼される企業であり続けるために、一人ひとりの思考と行動を見つめ直していく必要があると考えています。常にお客様の立場に立って、ご満足いただける環境をつくり、首都圏食品SST市場における圧倒的なナンバーワンブランドの実現に向けてまい進してまいります。