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セブン&アイの挑戦
中期経営計画アップデートとグループ戦略再評価

「食」分野への集中を加速

2023年6⽉

グループ一体となった成長力の強化と抜本的改革の加速度的推進を実現します

足元の成果をふまえ中期経営計画の目標を上方修正

セブン&アイHLDGS.代表取締役社長 井阪 隆一
セブン&アイHLDGS. 代表取締役社長
井阪 隆一

 セブン&アイ・ホールディングスでは、21年度にスタートし25年度を最終年とする中期経営計画が本年折り返しとなるにあたり、22年度の定時株主総会で選任された、独立社外取締役が過半数を占める新たな取締役会とガバナンス体制のもとで、当該中期経営計画のアップデートならびにグループ戦略再評価を進めてまいりました。これは国内における、高齢化・単身化などの社会構造の加速度的な変化や世界的なパンデミックを経て、お客様の行動様式・価値観が変化し食のニーズも多様化する中で、コンビニエンスストア(以下CVS)への期待が高まっていること。そして安全・安心で高品質の日常の「食」を提供する領域には大きなチャンスがあり、これを可能とするための事業インフラの構築が重要な状況になってきていることなどから実施いたしました。
 当社は、「中期経営計画2021-2025」において、「すべてのステークホルダーに信頼される誠実な企業でありたい」という創業以来の社是および「常にお客様の立場に立って、新たな体験価値を提供することで、国内外の地域社会に貢献したい」という基本姿勢とともに2030年に目指すグループ像を掲げました。(図1)

(図1)当社グループのビジョン

当社グループのビジョン

 この度、足元の当社を取り巻く経営環境、今般のグループ戦略の再評価をふまえて「2030年に目指すグループ像」についても見直しを行いました。従来のグループ像に『「食」を中心とした』という文言を加えて『セブン‐イレブン事業を核としたグローバル成長戦略と、テクノロジーの積極活用を通じて流通革新を主導する、「食」を中心とした世界トップクラスのリテールグループ』とすることで、成長戦略に基づく当社グループのあり方をより鮮明に打ち出しました。この実現のためには、当社グループで現在進めている諸施策の実行が不可欠であることを改めて確認しました。
 さらに、足元の当社グループの好業績とともに後述する戦略再評価をふまえ、中期経営計画のアップデートを行い、25年度の目標値を上方修正いたしました※1。主な修正点は、以下の通りです。

①EBITDA※2
当初目標値1兆円以上を1.1兆円以上に修正。

②営業CF※3(除く金融)※4
当初目標値8000億円以上を、9000億円以上に修正。

③フリーCF水準(除く金融)※5
当初目標値4000億円以上を、5000億円以上に修正。

④ROE
当初目標値10%以上を、11.5%以上に修正。

⑤ROIC(除く金融)
当初目標値7%以上を、8.0%以上に修正。

⑥Debt/EBITDA倍率
当初目標値2.0倍未満を、1.8倍未満に修正。

⑦EPS(CAGR)
15%以上を18%以上に修正。


 この目標修正を通じて、より高度な財務健全性を追求し、アップデートされた目標達成と先を見据えたグループの持続的成長と企業価値向上に集中的に取り組みます。(図2)

  1. ※1M&Aなどの戦略投資は含めずに算出
  2. ※2EBITDAは営業利益+減価償却費+のれん償却費として計算
  3. ※3キャッシュフロー
  4. ※4金融事業を除くNOPATをベースとした管理会計数値
  5. ※5金融事業を除く管理会計数値。なお、M&Aは戦略投資として投資CFからは除外して計算

(図2)中期経営計画の上方修正

中期経営計画の上方修正

グループ戦略再評価と今後のアクションプラン

 中期経営計画の策定とともにお示ししたグループ重点戦略についても、新たなガバナンス体制のもとで再評価を実施してまいりました。再評価にあたっては、事業セグメントごとの成長性・効率性をふまえながら当社グループの企業価値向上に資する戦略的取り組みについてさまざまな検討を重ねてまいりました。また、再評価プロセスの透明性および公正性を担保するために独立した外部アドバイザーを起用。あらゆる可能性を排除せず、スーパーストア(以下SST)事業をはじめ、各事業の戦略的選択肢、抜本的なグループ事業構造改革について社外取締役を含む全取締役によって検討を進めました。この結果、当社グループの経営方針として『「食」の強みを軸とし国内外CVS事業の成長戦略にフォーカスすることで、最適な経営資源配分を実行しながら、「食」を中心とした世界トップクラスのリテールグループに成長する』という最重要課題に取り組むことを決定しました。
 また、この経営方針に沿った成長戦略の進行を支えるグループ施策として、①グループのキャピタル・リアロケーションプランの策定および、②戦略委員会の設置を決定しました。①のキャピタル・リアロケーションについては、グループの成長ドライバーとなるCVS事業への戦略投資にキャッシュフロー(以下CF)の集中配分を実施すること。また、自己株式取得を含む機動的な株主還元の実施を通じ、23年度から25年度までの累計の総還元性向を50%以上とすることを決定しました。
 ②の戦略委員会については、独立社外取締役のみで構成し、「国内外CVS事業の成長戦略」「SST事業変革」などのグループ重点戦略に関する進捗状況のモニタリングおよび戦略実現のための最適なグループ事業構造・IPOやスピンオフなども含む戦略的選択肢に関する包括的で客観的な分析・検証を継続的に進め、これらの検証結果をもとに、当社グループの中長期的な企業価値向上のための助言を取締役会に対して行うことを目的としています。

  • 株主還元について:CVS事業への戦略投資とのバランスを重視しつつ、自己資本利益率、一株当たり当期純利益の向上に向けた自己株式取得の機動的な実施を想定し、今般の中期経営計画上方修正と併せ総還元性向を25年度までの累計で50%以上とする方針です。

グループの「食」シナジーを結集しCVS事業の競争力の維持・向上を推進

 グループ戦略再評価では、戦略を定性、定量の両面から分析を進めました。その結果、グループの成長戦略の中心に据える「強み」が、「食」分野にあることを確認いたしました。具体的には、成長ドライバーであるCVS事業においては、社会構造や消費環境の変化をふまえて生鮮・冷凍食品を含む品揃えの拡充と品質の追求を推進すること。また、SST事業については自社運営の衣料(アパレル)事業からの撤退を含め、食シナジーを中心に据えた戦略を加速していくことを決定しました。これによりグループの持つ「食」の強みを競争力の源泉として、国内CVS事業および北米のCVS事業を担う7-Eleven, Inc.(以下SEI)、そしてグローバルCVS事業の成長推進に最大限に活用していく方針です。(図3)

(図3)「食」を軸とした国内外CVS事業の成長戦略

「食」を軸とした国内外CVS事業の成長戦略

 また、再評価にあたり、SST事業がグループの競争力を支える「食」の強みを有していることを改めて確認いたしました。これは、当社グループのSST事業は、CVS事業にはない品揃えの広がりを有し、生鮮食品から加工食品まで幅広いサプライヤーのネットワークを構築して、すぐれた商品調達力を培っている点、高い商品開発力を有する点をふまえたものです。すでに2007年より展開しているグループのプライベートブランド(以下PB)の「セブンプレミアム」は、このSST事業の擁する開発力、ネットワークを背景に、多岐にわたる商品開発を行い、お客様から高い評価を得るといった実績を重ねています。成長ドライバーである国内外CVS事業の実績からは、フレッシュフード(以下FF)の売上構成比と集客力の強い相関性が示されており、今後CVS事業においてより高い競争力の確保・向上を図っていくうえで、SST事業のリソースを中心とした「食」に関わるグループの強みを結集することが不可欠であると再確認するにいたりました。

海外・国内CVS事業の成長戦略

4つの成長戦略の推進〜北米CVS事業〜

 北米においてセブン‐イレブン事業を展開し、現在グループ全体の好調な業績をけん引しているSEIでは、以下の4つの成長戦略を推進することで、よりいっそうの成長を図ってまいります。

①オリジナル商品の強化

 セブン‐イレブン・ジャパン(以下SEJ)が国内CVS事業で培ってきたオリジナルFFを製造する工場をはじめとしたバリューチェーン構築の知見などを採り入れ、独自のFFの開発・品質向上に資するバリューチェーンの強化に取り組んでおり、今後、この取り組みを全米に広げていきます。具体的には新たなFF専用工場の建設を推進するとともに、既存のFF工場への専用設備・技術の導入によって、オリジナルのFFの品質向上と品揃えの拡充を推進。これとともに荒利益率の高いオリジナル商品(FF/専用飲料/PB商品)を強化し売上・利益拡大を追求しています。FFと専用飲料の売上構成比を25年度までに現在の18.1%から25%へ拡大、セブンセレクト(PB商品)は6.3%から8.5%へ拡大し、オリジナル商品の構成比を33.5%まで伸長させることを目指しています。

②デジタル化とデリバリー事業の加速

 2018年よりスタートしたデリバリーサービス「7NOW」は、コロナ禍以降、とくにお客様の要望が高まったことを背景に利用件数、売上とも急速に拡大しています。SEIは、店舗の2マイル以内でカバーできる人口が全米人口の50%に達しており、この優位性を活かして全米平均で28分以内のデリバリーを実現しています。今後、より多様なサービス提供を実施することで、さらなる成長を計画し、25年度に10億ドルの売上を目指しています。

③Speedwayとの統合シナジーの創出

 21年度に実施したSpeedwayとの統合によるシナジー効果は22年度に 6億8千万ドル着地見込みとなり、23年度には約8億ドルの実現を見込んでいます。このように当初の計画を大幅に上回る順調な進捗をふまえ、店舗レベルおよび全社レベルでの統合を完遂することで計画値を上回るシナジー効果の創出を図ります。

④M&Aと新規出店による事業拡大

 現在、米国内のCVS市場は、中小規模のCVSチェーンが大半を占め、細分化されています。SEIは、こうした市場環境の中でM&Aと新規出店を併用することで迅速な店舗網の拡大を図り、事業機会を確実にとらえて成長を継続していく方針です。
 これら4つの成長戦略の遂行によって、「食」を中心とする事業の売上構成比を上昇させることで事業構造を変革し、商品荒利率を大幅に改善するとともに事業全体のROICの向上を図ってまいります

既存展開地域/新規展開地域で戦略推進〜グローバル事業〜

 「7-Eleven」は、現在の19の国と地域で事業を展開しており、その既存エリア、新規エリアとも、大きな成長余地を有しています。このため、グローバルCVS事業の戦略推進を担う7-Eleven International LLCでは、従来のライセンス契約に基づくライセンサーの資本力およびリスク負担に依拠したビジネスモデルに加え、ライセンシーへの戦略的投融資の実行による質とスピードをともなった成長を実現する新たなパートナーシップも採り入れ、加速度的な利益成長を推進する方針です。また、「食」の強みを含め、米国においてSEIの再建を手がけ、目覚ましい成長へと導いてきた事業革新の手法を活かしてライセンシーの潜在的な成長性を引き出すことにより、利益拡大を図ってまいります。これにより、25年度までに5万店の店舗網の確立、30年度までにの30の国と地域での出店を行いM&Aを含む戦略的な投融資によってEBITDA年平均成長率34%を目指します。

  • 日本・北米を除く地域

新たな品揃え、新コンセプトの店舗などに挑戦〜国内CVS事業〜

「SIPストア」「7NOW」

 SEJでは、国内で進む少子高齢化や単身世帯の増加をはじめとする人口動態の変化、女性の就業率増加などを背景とした社会構造および消費構造の変化、さらに近年のお客様の価値観の変容に対応し、グループのSST事業で培ってきた知見を活かして「食」領域の強化を図り、品揃えの拡充および新たなコンセプトの店舗づくりに挑戦していきます。また、22年後半以来の物価高騰局面でも、SEJではPB「セブンプレミアム」の売上伸長が店舗売上を下支えしたほか、独自のバリューチェーンが生む価値ある商品の開発や月次ごとのイベント効果などにより、既存店売上は前年比103.6%と堅調に推移しました。今後さらにグループシナジーを活かした「セブンプレミアム」および魅力あるオリジナル商品の拡充により、商品力を高めることで店舗集客力、収益力の向上による安定成長を実現していきます。とくにイトーヨーカ堂(以下IY)が育成してきた生鮮食品の「顔が見える野菜。」や冷凍食品「EASE UP」、価格戦略ブランド「セブン・ザ・プライス」などを採り入れ、100〜150坪の規模で約5000〜6000アイテムの品揃えの新コンセプト店舗「SIPストア」によって「食」のニーズへのさらなる対応を図り、23年度下期にはテスト店舗のオープンを計画しています。

  • SIP=SEJ・IY・パートナーシップ
(図4)広告ビジネスへの参入
広告ビジネスへの参入

 新たな価値提供では、SEJ独自の強みを発揮する店舗のリアルタイム在庫と連携したデリバリーサービス「7NOW」により、お客様のご注文に確実に対応するとともにご注文からお届けまでの時間を短縮することで、従来のデリバリーサービスを超える利便性を実現。また、同サービスによって店舗の売上拡大にも寄与してまいります。
 同サービスは24年度末までに約2万店舗に導入する計画で、現在、導入店舗、地域の拡大を加速しています。
 さらにリテールメディアとして、セブン‐イレブンアプリでの広告およびセブン‐イレブン店内での広告を中心とした広告ビジネスに取り組み、新たな成長軸の育成に挑戦しています。(図4)SEJは、これら一連の成長戦略を推進することにより、営業利益の成長を実現し、ROICのさらなる向上を目指しています。
 従来の商品・サービス提供に加え、デリバリーサービス「7NOW」、リテールメディアなどの新規事業展開への挑戦を通じて、競争力強化と利益成長の加速を図っていきます。

SST事業の抜本的変革

首都圏の「食」市場に焦点を定め3年をめどに5つの施策を遂行

 SST事業では、これまで培ってきた「食」分野での強みを結集してグループの成長戦略に貢献するとともに、2016年以来、単一事業としての収益性、資本効率の改善を課題とした構造改革に集中してきました。今後、構造改革の成果を発揮し、グループ全体の戦略方向性に沿った抜本的変革によって、さらなるトランスフォーメーションを推進し、再成長を追求してまいります。このため、これまで以上にSST事業の抜本的な変革を推進するため、今後3年間で5つの施策(図5)を遂行する計画です。

(図5)SST事業の抜本的変革の全体像:5つの施策

 SST事業の抜本的変革の全体像:5つの施策

①アパレル事業完全撤退
「食」分野に集中し、自社運営のアパレル事業から完全撤退

②首都圏へのフォーカス加速と追加閉鎖
IYの首都圏への集中を加速させるため、これまでの店舗構造改革による店舗閉鎖に加え、14店舗の閉鎖を追加

③首都圏事業の統合再編
IY、ヨークなどの首都圏SST事業の統合再編を実施し、首都圏におけるシナジーと運営効率の最大化を図る

④戦略投資インフラの整備
プロセスセンター、セントラルキッチン、ネットスーパーのセンター化といった戦略投資インフラの活用を通じて、さらなる利益成長可能な収益構造を実現する

⑤完全実行の担保と透明性あるモニタリング
外部変革エキスパートの起用による変革施策の完全実行と工程管理を徹底し、取締役会および戦略委員会によるモニタリングと株主への透明性を持った共有を行う

 これらの取り組みを通じて、首都圏SST事業は25年度にEBITDA550億円、ROIC4%以上の実現を目指します。これにより、従来、営業収益1兆円未満の中小規模の事業主体が中心となってきた国内業界において、大規模かつ高収益のSST事業を創出し、独自の事業ポジションを確立してまいります。
 なお、グループのキャピタル・リアロケーションプランの方針に基づき、SST事業における投資にあたっては、SST事業内で創出したCFを充て、CVS事業で創出したCFの配分は想定しておりません。

グループマネジメント体制の刷新

新たなマネジメント体制によるグループガバナンス体制の強化

 グローバル成長戦略によるグループ事業拡大、SST事業などの抜本的構造改革を完遂するとともに、グループガバナンス体制を強化するため、グループマネジメント体制を刷新いたします。具体的には、中長期的視点でグループ経営体制の強化と安定化を図るため代表取締役3名体制に変更。また、セグメント単位で成長戦略および事業構造改革の実行力・推進力を高め、連結ベースでの中期経営計画の必達を図るため、各事業セグメントに統括責任役員を任命します。さらに、コーポレート部門では、部門ごとに最高責任者(CXO)を設置し、拡大するグループ全体のマネジメントチームの増強を図りつつ、各戦略コーポレート機能の体制強化、戦略推進力の向上を図ってまいります。