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日本のコンビニエンスストアは、2021年に開催された東京オリンピックを機に世界で一躍有名になった。来日したアスリートやジャーナリストはコロナ禍で飲食店に行けなかった代わりに、日本全国のコンビニで手に入る食の世界に魅了され、弁当や食べやすく工夫された商品パッケージ、「例えようのないおいしさ」のたまごサンドがSNSで絶賛された。中には畏敬の念さえ抱き、明るく清潔なコンビニを「地球上で最も幸福な場所」かもしれないと感じた人もいたほどである。 1 それだけ話題になったことで、コンビニへ立ち寄ることは訪日観光客にとって外せない行動となった。
一方、日本人にとってコンビニは日常生活の一部で、楽しい場所というだけでなく生活必需品を買う場所でもある。大半のコンビニは食品や飲料品だけでなく、化粧品から靴下まで日用品も豊富に取りそろえており、その上、各種の便利なサービスも幅広く提供している。

一般的なコンビニにはATMやマルチコピー機があり、荷物の受け取りや発送、コンサートチケットの受け取りができるほか、税金や公共料金の支払い、住民票などの各種公的証明書の出力もできる。遠隔地に住む人々や、銀行や役所に営業時間内に行くことが難しい人々にとって、こうしたサービスは必要不可欠なライフラインとなっている。
これらはすべて、1974年にセブン‐イレブン1号店が東京に開店してから50年間にわたり、変わりゆく顧客のニーズに応えようと進化を続けてきた集大成といえるだろう。日本国内のセブン‐イレブンのほか、セブン&アイグループは世界各国で約85,000店舗を展開し、利用者は1日あたり約5,990万人に上る。
しかし今本当に問われているのは、このコンビニエンス(利便性)の快進撃をどのように持続可能なものにし、あらゆる人々にとって公正なものにするかということであり、それこそが、セブン&アイ・グループが照準を合わせている重要な課題なのである。

信頼と誠実さを伴う進化 信頼と誠実さを伴う進化

「今の時代は、環境問題にも人権問題にも、その場しのぎやうわべだけの方法ではない、真摯な対応が求められています。」とセブン&アイグループ創業者、伊藤雅俊氏の次男でセブン&アイ・ホールディングスの代表取締役専務執行役員最高サステナビリティ責任者(CSuO)を務める伊藤順朗氏は語る。「これには、対話を通じてあらゆるステークホルダーから信頼される誠実な企業となり、その信念に基づいて変化に対応するという、社是が反映されています。」

セブン&アイグループは、コンビニエンスストアを中核事業として多角的に事業を手掛けるグローバル小売企業で、22年度(23年2月期)の年間売上高は17兆8000億円、従業員数は16万7000人を超えた。
セブン‐イレブンの歴史は、1927年に近代的なコンビニエンスストアの先駆けとなった米国テキサス州の氷小売販売会社、サウスランド・アイスまでさかのぼる。1991年、イトーヨーカ堂とセブン‐イレブン・ジャパンと共同で、セブン‐イレブンブランドのライセンサー、サウスランド社(現7-Eleven, Inc.)の株式の過半数を取得した。今日、7-Eleven, Inc.はセブン&アイ・ホールディングスの完全子会社となっている。セブン‐イレブンは長い歴史を通して、変わりゆくライフスタイルや消費者ニーズに対応し、コンビニ業界の著しい革新を先導してきた。
米国ではセブン‐イレブンは、セルフサービスのソーダファウンテン(清涼飲料水を提供する簡易装置)、フローズンドリンクの「スラーピー」、ピザなどのフレッシュフードで有名になり、現在はデリバリーサービス「7NOW」や、アプリでポイントをためる「7Rewards」など、最新のデジタル技術を活用した利便性の高いサービスを提供している。

コンビニエンス(利便性)の持続に向けた包括的な取り組み コンビニエンス(利便性)の持続に向けた包括的な取り組み

サステナビリティの次なるステージに向けて、セブン&アイグループは5,000人以上の利用客、ビジネスパートナー、フランチャイズ加盟店、従業員、株主・投資家を対象に調査と聞き取りを実施し、鍵となるマテリアリティ(重点課題)を洗い出した。
環境、労働条件、多様性、地域社会といった特に小売業に関連するテーマが網羅されている。これらはすべて、対話を通じて信頼を築くことがビジネスを成功させる上であらゆることの基礎となるという創業者の理念に通じるものがある、と伊藤氏は述べる。

2019年、同社は環境分野の四つの目標として「CO₂排出量削減」「プラスチック対策」「食品ロス・食品リサイクル対策」「持続可能な調達」を発表した。
食品ロスの削減を目指し、同社は冷蔵してもおいしさが続く米を品種開発したり、冷凍食品の種類を増やしたり、包装の気密性を改善したりしてきた。プラスチックの削減に向けては、包装容器を薄くしたり別の素材に変えたりするほか、店頭にペットボトル回収機を導入するなどの取り組みを推進している。

「気候変動と世界人口増加に直面する中で、食品の持続可能な調達は極めて重要になってくるでしょう。セブン&アイグループは総合小売会社として、消費者に最も近く、バリューチェーンに強い影響力を持っています。この点において、持続可能な調達と人権の尊重に対して重大な責任が伴います。」と伊藤氏は語る。
また、同グループは、人権、労働、環境の各側面に関する課題について、第三者機関によるサプライヤーのCSR監査を実施している。
米国環境保護庁によると、食品小売会社は大規模な冷蔵設備の使用が欠かせないことから、中小企業の中でも極めて大量にエネルギーを消費する業種となっている。国際エネルギー機関(IEA)の情報に基づくと、食品小売分野の電力使用量は世界の電力使用量全体の約2%と、データセンター分野よりも高い割合を占めている。2
セブン&アイグループは、こうした排出量を削減するため、ソーラーパネルや節電機器を店舗に設置したり、100%再生可能エネルギーで店舗を運営する実証実験を行ったりするなど、さまざまな取り組みを進めている。

また、同社は気候関連財務情報開示タスクフォース(TCFD、Task Force on Climate-related Financial Disclosures)の提言に沿った手法を採用し、事業活動で使用する電力を100%再生可能エネルギーにすることを目指す国際的イニシアチブ「RE100」に加盟している。米国市場では、EVステーションを試験的に設置したり、店舗で使用する電力の再生可能エネルギー比率を増やすことに尽力している。
セブン&アイグループのような大手小売企業は、店舗からの排出量だけでなく、食品関連の温室効果ガス排出量の削減にも影響を及ぼすことができる。食品関連の温室効果ガスは、世界の排出量全体の3分の1を占めており、食品の輸送、包装、加工、農業生産、土地利用等によって発生している。3
これは、より全般的なESGの各種目標にも当てはまる。米コンサルティング大手マッキンゼーの報告書で論じられているように、こうした食品小売企業は「どこにでもあり… 地域や国の経済に不可欠で、最も多くの人々が働いているという地域も多々ある」ため、「消費者の選択に影響を与え、農家やサプライヤー、さらには他の食料品店とさえ協調した取り組み」が可能である。4

世界規模を目指しつつ地域に根差す 世界規模を目指しつつ地域に根差す

セブン&アイグループのビジョンや影響力がいかにグローバルになろうとも、顧客一人一人や地域社会に焦点を合わせるというコミットメントは揺るぎない。
「私たちは 『食を中心とした世界トップクラスのリテールグループ』になることを目指してグローバルなバリューチェーンの拡大を進めていますが、小売業として忘れてはならないのは、地域社会で生活し働くお客さま一人一人のお困りごとやご不満の解決です。」と伊藤氏は語る。
「世界各地で事業を展開する『グローバル企業』は 数多く存在しますが、『グローバルコンシューマー』は存在しません。お客様はあくまでそれぞれの地域にお住まいになり、地域ごとの習慣や文化のなかで生活されています。Think Global, Act Local.の精神で、これからも環境や人権などの重要な社会の課題解決に1店舗1店舗のお店を通して取り組んでまいります。」