この記事でわかること
企業にとって「サステナビリティ」への取り組みは、長期的な経営や成長を目指す際に欠かせないものとなっています。企業は利益だけを目的とした経営ではなく、社会的な責任を果たすことや持続可能なビジネスの実現が重要な経営課題です。
この記事では、サステナビリティについて詳しく解説し、企業が取り組むメリットやサステナビリティ経営のポイント、企業事例も併せて紹介します。
目次
サステナビリティとは?
サステナビリティと聞くと、地球にやさしいエコなイメージを抱く方も多いことでしょう。サステナビリティが浸透してきたのはここ数年です。まずはサステナビリティの本来の意味や概念の変遷、企業活動でも取り組みが求められている点について解説します。

本来の意味は「持続可能性」を意味する言葉
サステナビリティ(Sustainability)の本来の意味は、直訳すると「持続可能性」です。しかし、近年では地球環境や社会、そして人間の持続可能性という意味合いが含まれて使われるようになっています。
地球の環境問題は深刻化し、このままでは自然災害の増加や生態系への影響、さらには人類の存続まで危惧されています。さらに世界では、貧困や食糧不足など解決しなければならない社会問題も多数抱えています。そのため、サステナビリティ(持続可能性)の視点を持って発展していくことが必要不可欠であり、世界共通認識となっています。
企業活動においても取り組みが求められている
日本の企業としても、地球と人々を守るために短期的な利益を目的とした行動ではなく、サステナビリティを意識した企業活動が求められています。
環境負荷の低減に対する取り組みを含め、自然災害の増加に備えた災害に強い街づくりや、働き方改革による働きやすさ・働きがいを感じられる体制構築など、あらゆる社会問題の解決を図っていかなければなりません。サステナビリティはこれからのビジネスには欠かせないキーワードになっています。
サステナビリティと「CSR」との違い
企業が求められる取り組みのひとつに、「CSR」があります。CSR(Corporate Social Responsibility)は直訳すると「企業の社会的責任」です。企業は自社の利益を求めるだけではなく、顧客や取引先、株主、従業員といったあらゆるステークホルダーに対しての責任を持たなければなりません。ステークホルダーに情報開示しコミュニケーションを図りながら、信頼を得る取り組みがCSRです。
CSRはサステナビリティを含め企業が社会的責任を果たす考え方であり、企業が主体となって行う取り組みです。一方サステナビリティは企業活動だけではなく、地球やすべての人々を対象にした理念であるため主体や範囲などに違いがあります。
サステナビリティで重要視される3つの概念
サステナビリティは持続可能性という意味を持つワードですが、さまざまな概念を持つようになりました。ここでは、企業のサステナビリティで重要視される3つの概念を解説します。
1.環境保護
サステナビリティの中で重要視される概念のひとつに、「環境保護」があります。日本を含め世界では、地球温暖化の影響による干ばつや砂漠化、ハリケーン、洪水などの自然災害が頻発しています。
さらに、廃棄物や汚染物質の流出などによる海洋汚染、森林伐採などによる森林の減少といったさまざまな環境問題も深刻化しており、環境保護への取り組みが必要不可欠です。
とくに企業は、生産や販売により多くの人や社会に影響を与える存在です。環境保護の視点を持って「製品に使う素材はなにを選ぶか」、「どのような工程で生産を進めるか」、「使用ずみの製品はどのようにリサイクルや廃棄をするか」といった細部まで考えなければなりません。具体的には、地球温暖化の原因となる温室効果ガスを削減する活動や、海洋汚染の原因となっているプラスチック量を削減する活動に取り組む必要があります。
2.経済発展
サステナビリティは、経済発展の観点でも非常に重要です。企業は利益だけを考えるのではなく、環境保護や社会問題にも対応していくことが求められています。しかし、利益のないボランティアとしての取り組みでは、資金に余力のある大企業しか取り組めません。
そのため、長期的に利益を出し続け、なおかつ環境保護や社会問題の解決にもつながる経営であることが求められます。企業は持続可能性に配慮した経営活動を行って、自社のサステナビリティを高める必要があります。
また、従業員がパフォーマンスを維持しながら働き続けられるように、安全で健康な労働環境を確保することはもちろん、産休や育休、介護休業を取得しやすい環境や、在宅勤務・フレックス勤務など、多様な働き方ができる体制の構築なども必要です。
3.社会開発
3つ目の概念として「社会開発」があります。紛争などによる貧困や飢餓、差別やジェンダーなどによる格差問題など、社会的な問題にも取り組む必要があります。先進国である日本でも所得格差が広がっており、日本の人口の6人に1人の割合が貧困層にあたるとされています。
このような社会問題を多く抱えている状況では、経済発展もできずサステナビリティも危ぶまれます。そのため、人種や性別などの違いが不平等の原因とならない社会開発が求められています。
すべての人が平等に教育や医療、福祉、社会サービスを受けられる環境づくり、多様性ある働き方推進、同一労働同一賃金なども必要とされています。
サステナビリティが注目された背景
サステナビリティの重要性については30年以上も前から有識者の中で認識されていましたが、近年では一般的に取り上げられるようになり多くの方に注目されています。

SDGsの取り組みが拡大
サステナビリティが近年注目されている背景は、SDGsと大きく関係しています。
SDGs(Sustainable Development Goals)とは、直訳すると「持続可能な開発目標」という意味です。世界で達成するべき17のゴール(目標)を掲げており、2030年までの達成を目指しています。2015年の国連サミットで全193カ国の全会一致で採択されたことで、国際社会において認知度が一気に上昇しました。
SDGsの17の目標には、環境問題や貧困、ジェンダー問題など社会的な問題などがあげられています。SDGsの目標は、サステナビリティで重要視される3つの概念とも深く関係しているため、SDGsの浸透とともにサステナビリティの重要性についても認知が拡大したのです。
企業がサステナビリティに取り組むメリット
近年サステナビリティの重要性を認識し、取り組む企業が増えています。サステナビリティに取り組むことでどのようなメリットにつながるか紹介します。
企業イメージの向上、社会的信頼の獲得
サステナビリティへの取り組みは、企業イメージの向上や社会的信頼の獲得につながります。近年では投資家が投資先を選ぶ時に、サステナビリティの活動実績を判断材料にする傾向が強まっています。また、消費者ニーズも変化しており、環境に配慮した商品やサービスが選ばれるようになってきています。
そのため、サステナビリティに取り組む企業は企業イメージを向上させ、投資家や消費者をはじめ、多くのステークホルダーや社会から信頼を得られます。結果として、企業価値の向上にもつなげられるといった大きなメリットを生み出せます。
従業員エンゲージメントの向上
サステナビリティにおける取り組みには、従業員一人ひとりが働きやすい職場環境づくりなど社会開発の視点も含まれます。多様性を尊重した働き方や、どのライフステージにいても働きやすい環境を整えることで、従業員エンゲージメント(会社への愛着心)の向上が期待できます。
従業員エンゲージメントの向上はモチベーションの維持や高いパフォーマンスにつながるため、企業にとって大きなメリットです。
事業活動におけるコストの削減
サステナビリティの取り組みを推進することで、エネルギーの使用量や廃棄物量の削減が実現できればコスト削減にもつながります。企業は事業活動を行ううえで大量のエネルギーや資源を消費しているため、再生エネルギーへの転換やリサイクル技術は長期的なコストカットにつながります。
ビジネスチャンスの拡大
サステナビリティへの取り組みは新たな発見や、市場の開拓、イノベーションにつながる可能性もあります。たとえば、環境問題を解決するために製品や技術を開発できれば、新規事業を立ち上げたり、新たなビジネスパートナーと連携したりと企業経営の幅が広がります。
また、社会問題にも目を向けることで、新たなビジネスの創出につながるかもしれません。消費者ニーズの高まりもありサステナビリティ関連の事業拡大が予想されているため、ビジネスチャンスを秘めているといえるでしょう。
優秀な人材の確保
ミレニアル世代以降の人材は社会問題に高い関心を持っている傾向にあるため、サステナビリティに取り組む企業は人材確保に有利です。反対にサステナビリティに取り組んでいなければ、この世代の人材確保は難しくなる可能性があります。
また、環境や社会に貢献できる活動は従業員のモチベーションの維持にもつながり、離職率の低下防止も期待できます。若者の労働人口の減少が叫ばれる中、人材が集まりやすいという点は企業にとって大きなメリットです。
サステナビリティを意識した経営をする為の「4つ」のポイント
長期的な視点で環境や社会、経済に与える影響に配慮して企業活動を行う経営は、「サステナビリティ経営」と呼ばれています。サステナビリティ経営の4つのポイントを紹介します。

ポイント1:自社の事業に関連した課題の特定
自社の事業に関連した課題を特定してから、サステナビリティに取り組むことが大切です。まずは、環境・社会・経済という広範囲に渡り、サステナビリティに関わるさまざま情報を多角的に収集し、自社で優先すべき課題を特定するのがポイントです。国内外問わず、法令や動向にもアンテナを高く持っておく必要があります。
また、従業員やステークホルダーとの対話を通じて、関わりが深い内容に取り組むことも上手に進めるポイントです。
ポイント2:社内でサステナビリティリテラシーを養成する
サステナビリティリテラシーとは、十分な情報にもとづき有効な意思決定をサポートする知識やスキル、考え方のことです。単純に情報の知識量や理解力だけでなく、価値観や倫理観まで掘り下げた能力です。
サステナビリティの取り組みは大小さまざまあり、社会に大きなインパクトを与えるためには価値観の変革や、適切な判断力、スピード感も重要になります。なぜサステナビリティが重要なのかという習得から始め、積極的に取り組めるような体制構築を図りながら、従業員のサステナビリティリテラシーを養成することが大切です。
ポイント3:長期的な取り組みとして捉える
サステナビリティは、長期的な取り組みとしてとらえることもポイントのひとつです。サステナビリティの取り組みはガイドラインなどがなく、自社で模索しながら進め、長期的に継続していく必要があります。
そのため、「本業が疎かになる」、「一時的にコストがかさむ」といったデメリットに感じる部分が生じる可能性もあります。サステナビリティはすぐに成果があるものではなく、終わりのない活動であることを念頭におかなければなりません。
ポイント4:具体的な目標設定と行動計画を立てる
自社が目指す目標を設定し、そして目標を達成するための行動計画を策定します。目標はポイント1で紹介した自社の事業に関連した課題を明確にしたうえで、実現可能なものに設定する必要があります。サステナビリティは長期的な取り組みとなるため、行動計画を立てて定期的な進捗の評価や、計画の調整などを行いながら進めていきます。
さらに、サステナビリティの取り組みに対する目標や成果は、ステークホルダーに適宜共有しておくこともポイントです。企業への評価につながり、企業価値の向上にも期待できます。
サステナビリティに取り組む企業事例
セブン&アイグループはさまざまな社会環境の変化に対応するべく、全国の店舗ネットワークとサプライチェーン全体で環境負荷低減を推進し、持続可能な豊かな地球環境を次世代に繋いでいくため、環境宣言『GREEN CHALLENGE 2050』を掲げています。
ここでは具体的な取り組み事例を紹介します。
持続可能な原材料の調達
2030年までにオリジナル商品で使用する食品原材料に、持続可能性が担保された材料を50%使用、さらに2050年には100%使用することを目指しています。
【農産物の調達】
セブン&アイグループでは、農林水産省が導入を推奨している農業生産工程管理手法の一つであるGAP(Good Agricultural Practice)認証の取得を進めており、農薬の使用を法律基準値よりも低減させたオリジナル商品の販売を行っています。また、開発途上国の原料や製品が公平な条件で取引されていることなどを認証する制度である「国際フェアトレード認証」を取得した原料を使用して商品販売を行っています。
【再生繊維を利用した商品の販売】
イトーヨーカドーでは、衣料品や衣料用生地を回収してリサイクルした再生ポリエステルから、Tシャツやシャツなどのカジュアルウェアの生産と販売を実施しています。
カーボンニュートラルの実現に向けた取り組み
セブン&アイグループの店舗運営にともなうCO2排出量を、2030年までに50%削減(2013年度比)、2050年までに排出量実質ゼロを目指しています。
【太陽光発電パネルを設置】
セブン&アイグループ合計8,889店舗(2023年2月末時点)に、太陽光発電パネルを設置しています。また、光の明るさを段階的に調節できるLED照明の使用や、従来のフロンガスと比べて環境負荷が少ない新しい冷媒を利用した冷蔵冷凍設備の導入、といった取り組みも実施しています。
【店内正圧化の取り組み】
セブン-イレブンでは店内の気圧を外部よりも高くすることで、外気の侵入を防げる「店内正圧化」の取り組みを実施しています。これにより空調効率が改善され、節電効果が高まるためCO2排出量削減につながっています。
【水素ステーションを展開】
コンビニエンスストア併設の水素ステーションを展開、これは国内初の取り組みとなっています。さらに、水素燃料で走行する小型トラックの導入も進めています。
食品ロス・食品リサイクル対策
食品廃棄物を2030年までに発生原単位(売上百万円あたりの発生量)50%削減(2013年度比)、2050年までに75%削減(2013年度比)を目指しています。また、食品廃棄物のリサイクル率は、2030年までに70%、2050年までに100%にすることを目指しています。
【「てまえどり」を推進】
「てまえどり」とは、食品をすぐに食べる目的で購入するお客様に対して、手前にある商品から選んでもらうことを促進する取り組みです。セブン-イレブン・ジャパンでは、日本フランチャイズチェーン協会とコンビニ大手4社の合同で「てまえどり」を推進しています。
【フードバンク団体への寄付】
フードバンク団体とは、品質に問題はないものの市場で流通できなくなった食品などを、支援が必要な方に配布活動を行う団体です。セブン-イレブン、イトーヨーカドーの一部の店舗では、賞味期限前の商品をフードバンク団体に寄付しています。セブン-イレブンでは、閉店・改装時に在庫となった加工食品をフードバンク団体に寄付するほか、自治体とも連携を図って社会福祉協議会への寄付も行っています。
まとめ|より良い事業継続のためにはサステナビリティな取り組みを
世界が抱える地球環境や社会のさまざまな問題はより深刻化しており、一人ひとりがサステナビリティに強い意識を持って積極的に取り組むことが求められています。とくに企業は、より多くの人や社会にインパクトを与えられる存在であり、社会的責任も果たさなければなりません。
これからサステナビリティな経営に取り組む企業は、紹介した事例もぜひ参考にしてみてください。