

鈴木 素人集団ということが、「エキュート」の成功した要因の一つではないでしょうか。セブン‐イレブンも、日本で始める時は、流通の素人ばかりでした。前例のない新しいことを始める時は、過去の経験をもたない素人 の方が良いと思います。玄人だと業界の常識などが先行して「そんなことは不可能だ」と考えてしまうところも、素人ならどうすれば実現できるかとあの手この手を考えます。その結果、過去の常識を破ることができるのだと思います。
鎌田 JRでは「前は何を経験したか」という過去から入ることがたくさんありました。また、駅というのは、従来、コンコースをつくる人、お店をつくる人、設備をつくる人……というように、全部担当が分かれていました。トイレ一つとっても、床材や照明などいろいろなルールがあります。しかし、新しい価値を生み出していくには、施設全体をゼロから見直し、トータルにコーディネートしていく必要があります。そこで、私たちは駅の特性を大切にしながら、全体のデザインを提案していきました。
鈴木 そのように、従来にないことを始める場合は、周囲から反対されることも多かったのではないですか。
鎌田 惣菜コーナーをつくろうとした時、惣菜など駅では売れないとか、においがして駅のイメージが悪くなるなど、社内外でたいへんな反対がありました。しかし、お客様のニーズを考えると惣菜コーナーは欠かせないと判断して、周囲を説得し、衛生管理などいろいろな点をクリアしながら実現にこぎつけました。今ではたくさんの方にご支持をいただいています。
鈴木 私は、みんなが反対するものの方が成功する確率が高いとよく言っています。なぜなら、みんながうまくいかないだろうと思っていることの方が競争がなく、質の高いものをつくればお客様に受け入れてもらえるからです。逆にみんなが賛成していることは、誰でも手がけようとしますから、失敗する可能性も高いのです。
鎌田 スタッフにも、業界の常識や反対があっても、お客様のニーズに応えるために自ら積極的に踏み込み、当事者意識と信念を持って仕事をするように言い続けています。当事者意識と信念を持つことで、仕事の醍醐味も味わえるはずですし、また組織としての強さも生まれると考えています。
この当事者意識という点で、最近は鮮度管理も重要視しています。今のお客様は、食品の安心・安全、鮮度に対してたいへん敏感になっています。その管理を各ショップにまかせっ放しにするのではなく、自分たちも当事者として毎日3〜4回、賞味期限、消費期限などのチェックを実施しています。
鈴木 それは素晴らしいことですね。私たちも日々の鮮度管理はもちろん、保存料、合成着色料の排除、原材料のトレーサビリティなど食品の安心・安全には全力をあげて取り組んでいます。
鎌田 鈴木さんがセブン‐イレブンやセブン銀行を創業されたり、高価格のおにぎりを販売されたりと、その時代の誰もがうまくいかないのではと考えていることに積極的に挑戦され、成功に導かれてきたことにたいへん感 銘を受けています。そういった発想はどこから生まれるのでしょうか。
鈴木 簡単に言うと、壁を破りたいという思いがあったのです。たとえば、セブン‐イレブンの場合は、当時、もはや小売店は大型店でないと通用しないと言われていました。しかし、私は小さなお店でも特徴を活かしていけば成り立つはずだ、大も小も共存可能だと考えていました。それを実証するために、セブン‐イレブン導入を図りました。それが必ず成功するという確信はありませんでしたが、自分としては小さなお店の経営を成り立たせるためには何が必要かということだけを必死に考えていたので、周囲の反対はあまり気になりませんでした。 銀行の場合は、その前に公共料金の収納サービスをセブン‐イレブンが手がけるようになって、年々利用件数も利用金額も大幅な伸びを示していました。お客様の声を聞くと、身近なところで料金の支払いが済ませられるのは便利だ、銀行預金もセブン‐イレブンで引き出せるようにしてほしいという声が高まっていました。そこで、ATMをセブン‐イレブンに設置できないものかといろいろ検討した結果、銀行をつくることになったのです。この時も銀行の専門家からは、うまくいかないと言われましたが、お客様のニーズに応えるためにやってみる価値があると判断しました。
鎌田 高価格のおにぎりが登場した時は、当時はものの値段がどんどん下がっている時代で、今までより高いおにぎりを出されたのでたいへん驚きました。
鈴木 当時、コンビニのおにぎりといえば120円、130円という価格が主流だったのですが、その売上げがだんだん頭打ちになっていました。これを何とかしようと、まず100円のおにぎりを発売したら、たいへんよく売れました。しかし、これもしばらくしたらだんだん飽きられてきたのです。その時、担当者はさらに低価格のものを、と言ったので、私は、それは違う、100円のおにぎりが売れたのは、今までにない新しさがそこにあったからで、単にお客様が安さを求めているわけではないと言いました。今までにない価値を提供するということが重要なのです。そこで、素材にこだわり、高品質のおにぎりを200円くらいの値段で販売したわけです。その結果、お客様に支持していただくことができました。200円という価格は、他の商品から見れば決して高いわけではありません。それなのに、今までの価格だけにとらわれていると、高いと思い込んでしまいます。全体の中で判断しないといけません。
鎌田 「エキュート」を開発している時は、毎日のようにセブン‐イレブンでお弁当を買って食べていました。そこで気づいたのは、新商品を出すタイミングやお惣菜の量などが、お客様のニーズや心理に合うようにたいへんち密に考えられていて、ここまできちっと考えているのかという驚きがありました。 エキナカは、マスコミなどでよくデパ地下と比較されるのですが、お客様はセブン‐イレブンなどコンビニと同じ感覚で利用されている方が多い気がします。駅はたくさんのお客様が毎日利用していますから、エキナカのお店や商品も通勤通学の毎日、朝晩の2回、目に触れます。それだけに、セブン‐イレブン以上にきめ細かく、スピーディに対応していかないと、すぐに飽きられてしまうと考えています。
鈴木 セブン‐イレブン創業当初は若者が中心客層で、男性客の利用が多かったのですが、近年では、だんだんと年齢層が上がり、女性の比率も高まっています。ですから、商品もそれに合わせてどんどん変化させてきています。「エキュート」の客層はどうなのですか。
鎌田 男性客の比率がたいへん多いです。たとえば品川の「エキュート」は、年間で一番売上げが大きいのはホワイトデーです。大宮店でもホワイトデーの売上げ規模が年間で2番目です。この点は、実際に営業を始めてみるまでまったく予想していませんでした。品川では昨年のホワイトデーの際、スーツ姿の男性で館内が「黒一色」になりました。