

鈴木 過去の仕事の仕方にとらわれていると、いままでの習慣がこうだからというような理由で、仕事の中にある不合理な点やムダに気づかないということがよくあります。では、新入社員だったら過去の習慣にとらわれずに仕事ができるかというとそうではなくて、その現場の習慣をまず学びますから、最初は不合理だと感じたとしても、すぐになじんでしまいます。こういう点を正していくために、私は過去の経験を捨てて、いまお客様が求めていることに応えるには、何をしなければいけないかをつねに考えて、仕事の仕方をどんどん変えるように指導してきました。
しかし、人には誰しも過去の成功体験があって、困った時ほどその成功体験に頼って問題を解決しようとします。自分では変えたつもりでも、客観的に見れば、やはり過去の成功体験の中でやっていたということも往々にしてあります。この点に仕事の仕方を変えることの難しさを感じます。
坂本 私がエルピーダメモリに入った当時、社員は親会社の成功体験を基準にしてものごとを考える傾向にありました。日本電気も日立製作所も立派な会社で、それぞれ成功体験を持っています。しかし、それぞれの成功体験に基づいて話し合っていても議論がかみ合わず、延々と議論し続けることになります。ビジネスを取り巻く環境はどんどん変わっているので、議論に時間を費やしているゆとりはありません。そういう状況を変えることから、私は取り組みました。
私は外からきた人間ですから、いまお話にあったような過去の成功体験というものがありません。ですからおかしいと思ったことは、とにかく変えていきました。こうしていこうと自分自身で仮説を立て、それをどんどん自分で実行していきました。
この仮説が正しいかどうかというのは、見方や立場によって違いますから、その点を気にしていたのでは前に進みません。まず動いてみて、間違っていたら、すぐに「ごめんなさい、間違っていました」と認めて、やり直せば済むことです。
鈴木 現在は、市場の変化もどんどん加速していますから、間違えたわけでなくても状況の変化によって、前に言った方針を転換するということも当然起こります。私はよく「変化の激しい時代は、朝令暮改は当たり前」と言ってきました。
坂本 高い利益を確保していくには、経営者は間違えるリスクを恐れずに自分で判断を下していく必要があると思います。リスクを覚悟しなければ、利益も得られない時代です。
どのような経営者も、昨今のように変化が激しい時代に先のことまで見通せるはずがありません。ですから、いま何をすべきかをスピーディーに判断して実行に移し、間違っていたら直ちに変えるという方法で進んでいく方が、結論が出るまで判断を留保して、対応を遅らせるよりはるかにリスクが少なく、優れていると思います。
それにもかかわらず、判断を留保して、営業利益率5%をターゲットにしている企業も多いのが日本の現状ではないでしょうか。しかし、営業利益率5%では、ほとんどブレークイーブンに等しい。それでは従業員も積極的に競合会社と競争しようとはしません。やはり2ケタの営業利益を目標にすべきです。実際、海外のメーカーは2ケタです。
鈴木 小売業の場合、各売場、各店舗の成績の積み上げによって業績が成り立っていますから、それぞれの現場が、高い利益目標を持たなければ利益体質にはなりません。ですから、私は、「売場の担当者も経営感覚を持って、利益をいかに上げるかを考えて仕事をするように」と指導し続けてきました。
もちろん、そのためには、そのつど社員の間にしっかりと方針を徹底させることが重要です。先ほども申しあげたように流通業は大勢の人の力を結集してはじめて成り立つ産業なので、全員が同じ方向を向いて仕事に取り組まなければ力を発揮できません。そこで私は社員とのダイレクト・コミュニケーションを重視してきました。セブン‐イレブンでは、加盟店さんの経営をサポートするOFC(オペレーション・フィールド・カウンセラー)という役割があって、OFCは一人で7〜8店舗を担当しています。現在、OFCは全国に約1600人いますが、このOFCを定期的に本部に集めて、方針や情報の共有を図っています。また、イトーヨーカドーでも、約180店舗の店長に私自身や幹部社員から、その時々の方針を、お互い顔を合わせて直接伝えるようにしています。
坂本 私たちも四半期ごとに、各拠点に出向いてテクノロジーの状況や市場シェアなどについて、従業員とのダイレクト・コミュニケーションを図っています。そういう場でも、以前は従業員から質問などなかったのですが、いまでは時間で制限を設けなければならないほど、たくさんの従業員から質問が出るようになりました。
鈴木 いま消費飽和といわれる時代になって、お客様は生活に必要なものは一通り持っていて、慌てて買おうと思うような商品が見当たらなくなっています。その中で、私ども流通業がお客様に満足していただくには、つねに新しい商品やサービス、あるいはいままでと違ったものを提供していかなければいけません。新しいものを生み出すというのは言葉で言うのは簡単ですが、実際にはたいへん困難なことです。
坂本 確かに、家の中を見回してみても、慌てて買わないといけないものは、ほとんどありません。その中で、消費を喚起していくには、新しいものが必要なのですね。
鈴木 いくら去年大ヒットした商品でも、今年はもう売れません。商品のライフサイクルはどんどん短くなっています。かつては、人気商品は徐々に売れ行きが伸びていって最盛期を迎え、しばらくすると徐々に売れ行きが落ちていくという、グラフで表すと富士山型のライフサイクルでした。ところが、いまでは、一気に人気が出て、急に売れなくなるので、グラフにすると、茶筒を横から見たような形になります。ですから、いま売れている商品の延長で考えても、将来売れる商品はできません。こちらからお客様に積極的に働きかけて、つねにお客様の潜在的なニーズを引き出す努力をしないといけません。
坂本 私たちがつくっているDRAMの場合は、512M(メガ)が1G(ギガ)、2Gへと大容量化などが加速度的に進んでいるのですが、しかし、それはまったく違うものをつくるわけではありません。半導体産業よりも、むしろ小売業の方が最先端のビジネスですね。
私たちのビジネスでも、現在お客様が求めているものをつくってもあまり付加価値が付きません。お客様が潜在的に求めているけれども、どこにもモデルになるものがなく、具体的にどういうものかはっきりとイメージできないけれど、お客様のもとに持っていくと、こんなものができるのかと驚いてもらえるようなものでなければ付加価値が付きません。
そのために、私たちはお客様が何を求めているかということを考えて開発に活かすようにしています。携帯電話のチップでもそこまで考えて取り組んできたので70%近いシェアを確保できるようになりました。