

鈴木 単なる情報統合から、さらに一歩踏み込まないといけませんね。情報を活用していく上で、一番気をつけるべき点はなんでしょうか。
宮田 これは、自然科学でも言えることですが、他と同じ定型的な解析をしていては、決して革新は生まれてこないということです。たとえば、顧客満足度を上げる、利益を上げるという目的でデータを解析する場合でも、すでに他の人がやっているのと同じ視点で解析していたのでは、新しい発見は生まれません。私は、以前ヨットを設計する時に、技術スタッフには船の定型的な解析ではなく、飛行機のためのような解析図を書かせました。そのように別の視点を取り入れて、多面的に見ていくことが大切だと思います。
鈴木 これからは、データを分析していくなかで、人が何に反応するかという心理的な部分も検証して、次の商品開発やサービスに活かせるようになるのではありませんか。
宮田 最近セブン&アイHLDGS.が導入された「nanaco」のような電子マネーは、顧客情報を集積する上でたいへん重要です。現在は、ポイントカードなどは普及していますが、まだ本格的な顧客情報の活用までは進んでいません。電子マネーの普及で、顧客情報が集積されれば、それを科学的に解析し、さらに明日の天気予報や地域のイベント情報などを組み合わせることで、もっと顧客満足度を高めるサービスが実現できると思います。セブン&アイHLDGS.の各社が力を入れている「ご用聞き」ビジネスもさらに本格化するのではないでしょうか。
鈴木 お客様の心を動かすためには、売場演出などでいかにお客様にアピールするかという点も大切な要素です。
私はセブン‐イレブンのお弁当などは、1日10個以上売れないものは商品とは言えないと言ってきました。10個以上売るためには、商品を絞り込み、一つひとつの商品をきちんと揃えて、お客様にその商品をはっきりと認知してもらう陳列が必要になります。
売場では廃棄ロスのリスクを回避するために、発注量をできるだけ抑えたいという心理が働きます。しかし、2.3個だけ発注して売場に置いても、お客様にその商品を認知してもらうことはできません。また、2.3個では、売れ残り商品と考えるお客様もたくさんいらっしゃいます。そのため、かえって売れ残るリスクが高まります。実際に試してみると、ボリューム陳列をした方が販売量も増えて、廃棄ロスも減るという結果が出ています。
宮田 陳列の工夫は大切ですね。書籍を平積みする場合、冊数によって売れ行きがどう変化するかという実験も行いました。その結果、ある一定量を揃えなければ売れ行きが上がらないことが分かりました。また、棚に陳列する場合は、棚ごとにテーマを決めてイベント性を持たせ、それを面で陳列するようなことも必要なのではないでしょうか。できればそこに地域特性も加えていけたらよいと思います。
こうした実験を行うときに重要なのは、時間軸です。かつてアメリカズカップに挑戦した時は、4年間という限られた時間の中で、世界一を獲得できるヨットを設計しなければなりませんでした。相手は、日本の何倍もの資金があり、ヨットの設計の経験が豊富な人材もたくさん抱えているようなチームです。そうした中で、人や資金の面で劣っている日本チームが、相手に打ち勝つためには、時間の使い方を工夫することだと考えました。そこで、従来なら実験に2ヵ月かかっていたところを、コンピューターとネットワークを活用した新しいシミュレーション技術を開発して、1日に縮めるようにしました。実験を行う場合も、実験が全部終わってから結果を検討するのではなく、毎日実験結果を受け取って、その解析結果をすぐに実験現場にフィードバックして、翌日の実験に活かすようにしました。それによって時間配分を変えて有効に使うことが可能になりました。
鈴木 日々検証を行い、それを次の仮説、実験へとつなげていくことは我々の商売でも同じです。食料品などの場合は、さらに時間帯ごとの検証も必要になります。毎時間、毎日の動きを見ながら品揃えや売場づくりを変えていく。そして、その動きに合わせて人員配置、作業割当も変更していくということが重要です。
また、立案した目標、計画を必ず達成するために、誰が、いつまでに、何を行うのかを明確にし、それに対して今どうなっているのかを毎日、毎週きちんと確認していくように言い続けています。もしそれができていなければ、それに対して今日どう手を打つのか、実現するために明日からはどう対応するのかを確認し続けることが大切です。
宮田 おっしゃる通りです。たとえば、新幹線の場合、東京と大阪を3時間で結ぶ弾丸列車を、東京オリンピックまでに完成させるという明確な目標がありました。一つの仕事をプロジェクトととらえて実行する時に、大切な点は、いつまでに成し遂げる必要があるのかという時間軸をしっかりと定めることです。リニアモーターカーの開発では、この時間軸をあいまいにしたまま、延々と開発が続いていて、もはや社会的な有用性もはっきりしなくなっています。困難な仕事ほど、この時間軸を明確にして、プロジェクトのプロセスを早く進めることが大切です。
競争に打ち勝つためには、つねに緊張感を持って、毎日、毎日判断し、翌日何をどうするかを決めるようにしなければなりません。これでいいと思ったら、新しい創造はできません。私は教育者として、学生にあれこれと頭の中で考える前に、まず挑戦することを教えていきたいと思います。次々と挑戦すること、創造することの価値を知ってもらいたいと考えています。
鈴木 我々も、新しい挑戦をやめてしまったら、たちまち時代に取り残されてしまいます。宮田さんのプロジェクト・マネジメントの考え方を取り入れて、毎日緊張感を持続して、活性化し続けていきたいと考えています。今日は、たいへん有益なお話をありがとうございました。