

鈴木 最近、宮田さんは出版流通分野でもプロジェクトに取り組んでいらっしゃるとうかがいましたが、どのような取り組みを進めていらっしゃるのですか。
宮田 書籍の販売管理システムの構築に取り組んでいます。このスタートにあたり、最初にうかがったのは返本率が40%を超えているというお話でした。そこで、そのように返本率が高いのはビジネスとして何か問題があるのではないかと考え、ITを使って問題が解決できるかどうかを検討しました。そして解決の目処をつけてシステム開発の取り組みを始めました。
システムは、版元から書店まで、販売データを共有して、書店での陳列や返本、版元の増刷のタイミングの予測などにそのデータを活用していきます。
鈴木 版元から出版取次会社、書店を含めた出版業界で、昔も今も最大の課題は、いまおっしゃった返本の問題です。そのロスが解消できれば、版元からお客様まで、全員が利益を得られますね。
宮田 実際に書店の仕事を見てみると、毎日、膨大な量の新刊が書店に入ってきて、それを管理する人の処理能力を超えています。そこで、人の能力を超える部分は、コンピューターに処理させるシステムを考えました。それとともに、システムによる情報の共有化により、版元から書店までが、同じ方向に向かって進めるようにすることで、参加している全員がメリットを共有して、共存共栄できるようにしなければならないと考えています。
鈴木 宮田さんがおっしゃっているデータに基づく「予測」というのは、私たちの会社でいう「仮説」に当たるものだと思います。さまざまな情報を収集し、次の仮説を立てる。そして、その仮説に基づいて売場をつくったり、品揃えをしてみて、その結果から得られるデータで、仮説を検証するというサイクルが重要です。ところが、データを活用するようにと言うと、今日はこの商品が売れたから明日も同じ商品を仕入れよう、というように過去のデータの延長で、明日の商売を考えてしまいがちです。
お客様のニーズは、いまや短期間に大きく変化しています。衣料品などでも、高度成長時代であれば、去年売れていたものが、今年もまた売れると予想できたのですが、今は新しい商品でなければ決して売れません。ですから、過去の延長で考えて商品を仕入れていたのでは、たいへんなロスを生み出してしまいます。過去のデータではなく、いかに先行情報を取って、それを仮説へと結びつけていくことができるかが重要です。
宮田 書籍でも、過去に売れていたから、明日も売れるという考え方が根強くあります。そのために、売れ行きのピークが過ぎているのに大量に在庫しているという問題が発生しています。売れ行きのピークがどこにくるのか、それを予測して、早めに対応していくことが重要です。そのために、私たちのシステムではデータを使って販売予測をし、展示推奨や返本の推奨を行い、店長の意思決定をサポートするようにしています。
鈴木 雑誌の出版でも、企画によって今週号はたいへん良く売れたけれども、次の号は売れないといった波があります。ところが、そのような売れ行きの変化に対する仮説をもたずに、毎号同じような部数を発行しているので、返本率が上がってしまうという問題がありますね。
宮田 そのあたりは、もっときめ細かく対応できると思います。現在のパソコンは20年前のスーパーコンピューターよりずっと高い能力を持っていますから、かなり複雑な解析に使えます。たとえば、書籍の場合、売上げの70 %は、13%の本で占められています。ですから、あとの87%の本はケアする必要がないわけです。そのあたりのデータ解析は、パソコンを使って十分に行うことが可能です。
鈴木 書店では、売れ筋商品をどう絞り込んでいくかが重要ですね。先ほども申しあげたように、現在は、どんどん人気商品が変化する時代ですから、それを追い続けるということがたいへん難しくなっています。コンピューターで分析することで、次にどんな本がヒットするかを予測することは可能ですか。
宮田 それはたいへん難しいですね。自然科学の場合は、論理的に詰めていくとだいたい結果は予測できます。しかし、流通サービスの場合は、複雑な反応を示す人間が相手なので、予測できない場合の方が多いわけです。もちろん、書籍の場合、人気作家や人気シリーズの作品だということで、ある程度売れ行きが事前に予測できるケースもあります。しかし、それはほんの一部です。そこが、人間を相手にした場合の難しいところです。
鈴木 流通業の場合は人の心理をいかにとらえるかが重要ですね。つねにお客様の立場に立って考え、お客様が今何を求めているのかを追求し、品揃え、売場づくり、サービスを考えていかなければなりません。
宮田 最近、米国ではサービスサイエンス、サービスを科学するということが盛んに言われています。サービスの第一段階というのが、プッシュ型で、これを買いなさいと勧めるタイプですね。次が適合型で、お客様のニーズに適合した商品を開発するというタイプ。そして第三段階が、コ・クリエイティブ型で、売り手と買い手が双方向でやりとりしながら、いっしょに新しい商品やビジネスを生み出していくというスタイルです。
いずれにしても情報を統合し、いろいろな情報活用を進めて、新しいビジネスモデルや商品を生み出すことがこれからは重要になります。