

鈴木 商品開発に取り組んでいるマーチャンダイザーは何人くらいいらっしゃるのですか。
岩田 私たちの会社は全員で約350人で、そのうちマーチャンダイザーは70人ほどです。
鈴木 それは生産性が高いですね。人数を抑えて、少ない人員で仕事をするのは大切なことです。人が増えると、一人ひとりの仕事が細分化されていくので、一見仕事が緻密になるように思われますが、細分化されることで一人ひとりの仕事の間に溝ができてしまいます。そうすると、全体的に見たときに、方向性がばらばらになってしまいます。昨今のように、人々が生活全般に自分の価値観やこだわりを反映させたいと考え、ファッションでもトータルコーディネートが重視される時代には、つねに全体を把握して、その中で自分は何をするのかを明確にして仕事をすることが必要です。そのためには、少人数で、生産性の高い仕事をすることが求められています。
また、人数が少ないほど情報は正確に伝わります。とくに変化が激しい現代は、スピーディーな対応が求められるので、つねに全員が情報を共有化していくことが不可欠です。
岩田 私たちはコールセンターを真ん中に置き、その周囲を取り囲むように社員の席を設けることで、お客様の声を全社で共有化しています。「お客様第一主義」を実践するために、中心にお客様の声があって、その声がさざ波のように社内全体に広がるというのを、目に見える形にしたのです。私たちのビジネスは、カタログを通じてお客様とつながっているので、実際のお客様の姿はふだん社員の目に触れません。つねに意識してお客様の声に耳を傾けていないと、どんどんお客様から遠ざかってしまう危険があります。
また、社員全員がお客様の声を共有していくために、イントラネット上にクレームを含めてお客様の声を開示して、それを見て社員が誰でも書き込みができるようにしました。そのように、お客様の声の内容にまで踏み込んだ共有を図っています。
鈴木 お客様の立場に立って考え、ニーズや社会の変化に合わせて自分たちの仕事を変え続けることが重要です。しかし、うっかりしているとマンネリ化して、過去からの延長や習慣で仕事をするようになってしまいます。そうなると、すぐに世の中の変化に取り残されてしまいますから、変化に対応するために、一度できあがってしまったものを壊して、つねに変えていく努力をしないといけません。そのため、私は過去の経験を捨てて、新しいことに挑戦するように言い続けてきました。
ブレイクスルー思考という言葉を私は使っているのですが、それは、要するに過去の延長でものを考えていくのではなく、未来から見て何が必要かを描いて、そこから現状を一から変えていく発想が必要です。
岩田 私はよく、「カッパの川流れ」という話をします。お客様は川の上流の方にいて、私たちは下流からお客様のもとに一生懸命泳いで近づこうとしているわけです。しかし、つねに流れに逆らって泳いでいるので、お客様に近づいたな、と思って気を抜いたら、たちまち下流に流されてお客様から離れていってしまいます。絶えず努力をし続けないと、お客様に近づくことはできないのです。
私たちの仕事には「これで良し」とするようなゴールはありません。会社を設立して10年になりますが、いままでの仕事の仕方で十分に成果を上げてきたのだから、後はこれまで通りのやり方を続けていけば、何とかなるのではないか、というような考え方に陥る危険を感じます。私はそれを優等生症候群と名づけているのですが、冒険をせずに無難な道をいくことが安全だと考えたら大きな間違いです。創造的破壊を続け、自分から思い切って大きくジャンプすることに挑戦しないと、会社の成長はないのだと思います。ですから、今後3年間で150億円の投資をして、次のアスクルをつくると発表しました。
鈴木 これまでのやり方で良いと考えたら、仕事も組織もどんどん衰退していきます。いまどんなに優れた業績を上げている会社でも、ちょっと手を抜くとあっという間に消えてなくなってしまう、そういう現実をよく見て、危機感を持って新しいことに挑戦し続けないと、これから成長していくことは困難です。
セブン&アイHLDGS.は、2005年9月に設立後、ミレニアムリテイリングとの経営統合、ヨークベニマルの100%子会社化などを実施してきました。また、この1月にはレストラン事業分野の相乗効果を図るため、セブン&アイ・フードシステムズを設立し、デニーズ、ファミール、ヨーク物産の同事業分野3社を統合・再編していくことを発表しました。今後も、こうした事業環境の整備を進めながら、グループ会社のインフラやノウハウを活かし、グループシナジーの拡大、企業価値の最大化に向けて、ITなども活用した創造的破壊と新しい挑戦を続け、どんどん進化していこうと考えています。岩田さんのお話はたいへん参考になりました。お忙しい中、どうもありがとうございました。